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STAGE14-03
しおりを挟む「すげー……どこかの火山みたいになってた周囲が、一日でここまで片付くなんて」
日が落ちたので作業を終えて帰り支度をしている頃。外壁の片付けに参加していなかった王子様とダレンが私たちの元に合流した。
その視線の先には、主にディアナ様とウィリアムの破壊から整えられた、急造の道がある。面は少々ボコボコしたままだけど、幅は大型の馬車でも通れるほどに広い。
「こんばんはダレンさん。片付けに来てくれたのなら遅刻ですよ」
「手伝えなかったのは悪かったって! でも、オレも遊んでたわけじゃないからね、アンジェラちゃん。殿下の護衛として、あちこち歩きまわってたんだから」
冗談っぽく責めてみれば、ダレンは肩をすくめて苦笑を返してくれる。
確かに、この辺りは魔物の出現が異様に多い土地だ。私たちの部隊は、討伐だけではなく調査も任務としている以上、情報を集めることも大事な仕事だろう。王族という最上の立場の彼は、特に。
「……いやでも、私たちは参加しなくて正解だったかもしれないね、ダレン。きっと足手まといだったよ」
道を見回していた王子様は、くいっと視線で一方を示しながら会話に入ってくる。その先にいるのは、ツルハシを肩に担いだディアナ様とジュードの姿と……、
「……ああ、確かに」
二人の足元に座り込み、ぐったりとしている街の人々だ。
全員が男性でガタイもよく、普段から肉体労働に従事しているという人ばかりのはずだが、今は元気のげの字も感じられないぐらいに疲れ切っている。
そりゃあ固まったマグマなんてものを砕いて、あちこちへ運搬してを一日やっていたらこうなって当然だろう。……むしろ、平然と立っている二人のほうがおかしい。
ちなみに、運搬を手伝っていたハルトを含めた魔術師数名も疲労が濃く、残骸にもたれかかったり座り込んだりしている。
こちらでも私とウィリアムはピンピンしているので、これが選ばれた討伐部隊のメンバーとスポット参戦のサブキャラの違いなのだろう。ウィリアムなんか、破壊しまくったおかげでツヤツヤしているからね。
とにかく、様相は残念だけど街から出るための道は確保できた。これで死んでたノアとカールの体調が戻れば、いつでもこの街を出発することができそうだ。
視察に出たままだったディアナ様のお父様も、家に帰ることができるしね。
「皆ご苦労様。街の方に頼んで労いの席を用意してもらったから、ゆっくり休んでくれ。ここの片付けについては、事情の報告と共に公共事業として陛下に申請するつもりだよ」
「お心遣いに感謝します、殿下」
王子様の宣言に、疲れ切った町の人々の表情が少しだけ和らいだ。
あの【大木の悪精】と【寄生種】の群れは、もはや災害と呼べるぐらいの脅威だったものね。一領主の運営の域をこえて、国が出てきてもおかしくはない。
この土地の元からの魔物の多さについても、何か対策を立ててくれるといいんだけど。私たちが詳しく調査をするには、ちょっと時間が足りないし。
「皆は今夜も我がトールマンの屋敷を使ってくれ」
「はい、ありがとうございますディアナ様!」
「お師匠様も、そろそろ動けるようになっていればいいんですけど……」
そうこうしている内に空は真っ暗になり、明かりを持った警備の人たちが迎えに来てくれた。ぐったりしていた街の人々は、それぞれ肩を貸し合いながら街の大通りへ向かって去っていく。
疲れてはいるけど、それでも皆の顔は明るく楽しそうだ。平和な様子を少しだけ見守ってから、私もトールマン伯爵邸へと足を踏み出した。
「ああ、戻ったか。おかえり」
屋敷へ戻ればすでに食堂には温かな夕食が用意されており、シャツとパンツのみのラフな格好のノアとカールが席について待っていた。
ノアのほうは昼に会った時よりもシャッキリとした様子で、もう粗方回復したようだ。一方でカールはまだ目が開ききっていなかったけれど、きっと意地で食堂へ出てきたのだろう。
すぐに側へ駆け寄ったウィリアムにもたれかかりながら、一応一緒に食事をとるつもりらしい。
「アンジェラ、僕たちも」
「はーい」
さほど疲れていない私も席につかせてもらい、久しぶりに部隊の皆がそろっての食事が始まる。
何だかんだで旅の間も、全員一緒にという機会はあまりなかったのよね。騎士の二人は護衛として立ちっぱなしだったり、王子様は立場柄あちこちへ挨拶へ行ったりするから。
それぞれ違う食事の作法に感心したりつっこんだりしながら、時間は穏やかに流れていく。昨夜の恐ろしい戦いが嘘のように、とても平和で温かい。
(……ずっと、こうやって平和ならいいのにね)
私は脳筋を自負しているし、戦うことは好きだ。だけど、別に平和な時間が嫌いなわけでもない。
腹を探り合うような重い席だったり、毒を警戒するような険悪な席につくぐらいなら、外で魔物を退治しているけど。今はそうじゃない。
信頼できる相手と、冗談を言いながら、美味しいものを美味しく食べられる。
きっと、かつての私が生きていた日本では、それなりにありふれていた光景だろう。けど、こうして戦いの世界に身を置いてみれば、その尊さはよくわかる。
(誰もがこうやって、のんびりご飯を楽しめるようになればいいな)
ぼんやりと眺めていれば、舟をこいだカールの口に、ノアが香辛料のたっぷり詰まったお肉をつっこんでいる。
次の瞬間には、悲鳴と笑い声がわき上がる。ああ、平和だわ。
「……アンジェラ? どうしたの、疲れちゃった?」
つい食事の手を止めてしまった私に、隣から幼馴染の優しい声が聞こえる。
温かな席。だからこそ、これを皆の当たり前にするために。私たちは戦いを終えないといけない。
首をかしげたジュードに続いて、他の皆からも私に視線が向けられる。……水をがぶ飲みしているカールだけは、ちょっと睨むような目つきだけど。
「ヘルツォーク遺跡のことを、誰か知りませんか?」
なるべく普通を装った私の質問に、カールとジュード、そして……ディアナ様の表情が凍りついた。
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