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第二章 魔王の待つアヴァロニア王国に向けて旅立ちます
8 一難去ってまた一難。今度は魔物ですって?
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訳もわからず、私は、言われるがまま、カーラが指さした家を目指し、再び無我夢中で走った。
背後からは、無数の羽ばたきが聞こえてくる。
カーラは、女性にしては低い、しかしよく通る声で、何かの呪文を唱えていた。
唱え終わると同時に、両手を上に突き挙げる。
上空に向け、彼女は無数の氷柱を放った。
氷の矢に射貫かれた魔物たちは、「ギェェェ」と断末魔の声を上げながら、地面へと落下した。
烏ほどの大きさの魔物は、下半身は鳥そのものの姿ながら、上半身には人間の女性の顔と翼を持っている。
──ハルピュイアだ。
小型ながらも、鋭い牙と爪を持っている魔物だ。
もし、カーラが魔法を繰り出して倒してくれなかったら……、あの爪が肌を切り裂いていたらと思うと、ぞっとする。
「魔物? いつの間に……」
「最近、この辺りでは人を襲う魔物が多数出現しているんだよ。こいつらは、まだ小さいからそれほどの驚異じゃない。でも、放っておくと、どんどん増えるし、人を次々と襲い始めるのさ」
「街道沿いなのに、どうして魔物が?」
ふつうなら、魔物は洞窟や森の奥深くに潜んでいるものだ。
少なくとも、『聖なる乙女と光の騎士たち』のゲームの中では、そう設定されていたはずだ。
聖女と騎士たちは、シナリオを進める中で魔物たちとの戦闘も行う。プレイヤーとして、この魔物、ハルピュイアと戦った記憶もあるが、確か遭遇したのは森の奥深くであり、こんな街中でのバトルは発生しなかったはずだ。
洞窟や森の奥深くまで冒険を続けてようやくバトルが発生し、討伐したと記憶している。
通常、魔物たちは、こんな人里近くまで降りては来ないからだ。
「確かに、こんな人里で頻繁に魔物が現れるのはおかしいことだよ。聖カトミアル王国の人たちは、魔女が目覚めたからだと噂している」
──魔女?
まさか、私のことだろうか。
あり得ない。
私の存在が、シナリオや設定を変えてしまったということか?
しかし、魔女として断罪されることは、どのシナリオでも既定のルートだったはずだ。
シナリオにはない行動があるとしたら、私がアヴァロニア王国のヴィネ様を目指し、旅立ったということぐらいである。
まさか、それがいけなかったとでも言うのだろうか。
「聖堂騎士団長の元婚約者様が、実は魔女だったそうだ。そのことが、聖女様のお手柄によって、判明したんだと言われている。あわや、魔女に乗っ取られ、滅ぼされそうになっていたこの国は、聖女様のお手柄によって救われた――、と、もっぱらの噂だよ。聖堂騎士団長は、魔女との婚約を破棄して、聖女様と婚約されるそうだ」
旅を続けているうちに、私は随分な悪者に仕立て上げられてしまっているようだ。
どうせ、ジャンやヴァレリー、その周辺に仕える者たちが、吹聴して回っているのだろう。
怒りを抑えつつ、私はカーラに問いかけた。
「その魔女が、魔物たちをこんな町中まで呼び寄せているというのですか?」
「ああ、そう言われているよ。あと、アヴァロニア王国の魔王が、聖カトミアル王国を滅ぼすために、魔物を送り込んでいるんだと言う人たちもいるね。でも、あたしの血の半分は、アヴァロニア王国のものだから、それは違うってわかるよ。父さんから、ヴィネ陛下の話はよく聞かされたもんさ。ヴィネ陛下は、そんなことをするような御仁じゃないはずさ」
私は、カーラの言葉に強く頷き返した。
背後からは、無数の羽ばたきが聞こえてくる。
カーラは、女性にしては低い、しかしよく通る声で、何かの呪文を唱えていた。
唱え終わると同時に、両手を上に突き挙げる。
上空に向け、彼女は無数の氷柱を放った。
氷の矢に射貫かれた魔物たちは、「ギェェェ」と断末魔の声を上げながら、地面へと落下した。
烏ほどの大きさの魔物は、下半身は鳥そのものの姿ながら、上半身には人間の女性の顔と翼を持っている。
──ハルピュイアだ。
小型ながらも、鋭い牙と爪を持っている魔物だ。
もし、カーラが魔法を繰り出して倒してくれなかったら……、あの爪が肌を切り裂いていたらと思うと、ぞっとする。
「魔物? いつの間に……」
「最近、この辺りでは人を襲う魔物が多数出現しているんだよ。こいつらは、まだ小さいからそれほどの驚異じゃない。でも、放っておくと、どんどん増えるし、人を次々と襲い始めるのさ」
「街道沿いなのに、どうして魔物が?」
ふつうなら、魔物は洞窟や森の奥深くに潜んでいるものだ。
少なくとも、『聖なる乙女と光の騎士たち』のゲームの中では、そう設定されていたはずだ。
聖女と騎士たちは、シナリオを進める中で魔物たちとの戦闘も行う。プレイヤーとして、この魔物、ハルピュイアと戦った記憶もあるが、確か遭遇したのは森の奥深くであり、こんな街中でのバトルは発生しなかったはずだ。
洞窟や森の奥深くまで冒険を続けてようやくバトルが発生し、討伐したと記憶している。
通常、魔物たちは、こんな人里近くまで降りては来ないからだ。
「確かに、こんな人里で頻繁に魔物が現れるのはおかしいことだよ。聖カトミアル王国の人たちは、魔女が目覚めたからだと噂している」
──魔女?
まさか、私のことだろうか。
あり得ない。
私の存在が、シナリオや設定を変えてしまったということか?
しかし、魔女として断罪されることは、どのシナリオでも既定のルートだったはずだ。
シナリオにはない行動があるとしたら、私がアヴァロニア王国のヴィネ様を目指し、旅立ったということぐらいである。
まさか、それがいけなかったとでも言うのだろうか。
「聖堂騎士団長の元婚約者様が、実は魔女だったそうだ。そのことが、聖女様のお手柄によって、判明したんだと言われている。あわや、魔女に乗っ取られ、滅ぼされそうになっていたこの国は、聖女様のお手柄によって救われた――、と、もっぱらの噂だよ。聖堂騎士団長は、魔女との婚約を破棄して、聖女様と婚約されるそうだ」
旅を続けているうちに、私は随分な悪者に仕立て上げられてしまっているようだ。
どうせ、ジャンやヴァレリー、その周辺に仕える者たちが、吹聴して回っているのだろう。
怒りを抑えつつ、私はカーラに問いかけた。
「その魔女が、魔物たちをこんな町中まで呼び寄せているというのですか?」
「ああ、そう言われているよ。あと、アヴァロニア王国の魔王が、聖カトミアル王国を滅ぼすために、魔物を送り込んでいるんだと言う人たちもいるね。でも、あたしの血の半分は、アヴァロニア王国のものだから、それは違うってわかるよ。父さんから、ヴィネ陛下の話はよく聞かされたもんさ。ヴィネ陛下は、そんなことをするような御仁じゃないはずさ」
私は、カーラの言葉に強く頷き返した。
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