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第二章 魔王の待つアヴァロニア王国に向けて旅立ちます

9 決意も新たに旅を続けます。いざ、アヴァロニア王国へ!

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「あたしの父さんは、アヴァロニア王国の生まれなんだそうだ。大国の聖カトミアル王国に希望を持って、海を渡って来たそうだけど、この国で与えられたのは奴隷労働と蔑視だけ。祖国に帰りたくても、親や親戚に合わせる顔もないし、戻るための船に乗る金もない。まさにこの世の地獄だったそうだよ。ただ、ひとつ、母さんと出会って、あたしが産まれたことだけが救いだったそうだ。
 ──でも、育てる金がなくて、あたしは10歳の時、旅の一座、このレガン座に売られた。娼館じゃなかっただけ、まだありがたいと思ってる。先代の座長から、しっかりと舞や楽の芸を仕込んでもらったおかげで、今じゃあたしが、このレガン座の座長さ。先代のお役目を引き継いで、皆を率いるまでに成長できたしね」

 私は、この世界に転生してから、公爵令嬢として、外の世界を知らずに育ってきた。
 ゲームをプレイしていた時も、きらびやかな貴族世界のエピソードばかりが展開されていたから、気付かなかったのだ。
 この世界も、前世で暮らしていた世界同様に多くの矛盾や問題を抱えている。
 ゲームに登場する貴族たち以外にも、多くの庶民たちが普通に暮らしている世界がある。
 その民たちの働きがあるからこそ、エレインもジャンも平穏な日常を送ることができていたのだ。
 それは、前世で私が生きていた時代と何ら変わることがない。

 前世の世界で、私は社会の歯車のひとつとして働いていた。
 そして、必死に働いたからと言ってその努力が必ずしも報われるとは限らないという現実も思い知らされたし、たくさんの絶望も味わっていた。
 多くの庶民は、子どもの頃の夢や希望など叶えることができないまま、自分の中で何とか折り合いをつけながら、一生を終える。
 それは、前世でもこの世界でも変わらない。
 ただ、私が生きていた日本という国では、最低限、生きていく権利は憲法で認められていたはずだ。
 当然、奴隷制度もなかった。
 他の民族に対する差別がない、とは100%言い切れなかったかもしれないし、貧困も問題視されてはいた。
 だが、それでも、皆で平和に仲良く暮らす道を模索していた……はずだ。

 一方で、この世界の大団円シナリオがもたらすハッピーエンドは、本当にハッピーエンドなのだろうかと疑問に思う。
 そのハッピーエンドの先に、エルフや獣人たちの生きる道はあるのだろうか。
 ゲームのシナリオ通り、聖なる乙女とその騎士たちが魔王ヴィネを倒したら、本当に、この世に平和が訪れるというのだろうか──?
 これは、ゲームをプレイしていた時から、抱いていた疑問だ。
 だからこそ、私はヴィネ様に強く惹かれたし、彼の中に正義を見出したのだ。

「あんた、ファシシュ神の聖地を回る巡礼なんだろう?」
「はい」
「ファシシュ神は、全知全能の創造神なのに、“人間”にしか、加護を与えてくれないのかい? この世のすべてを作ったとされる創造主なんだから、あたしたちダークエルフのことも、その神様が作ったんだろう? 作るだけ作ってみたけど、後は知らないとばかりに、ポイッと捨てちまうのかい?」

 私は、返す言葉が見つからなかった。
 「創造主ファシシュ」とは、いった何者なのか。
 この『聖なる乙女と光の騎士たち』の世界を作ったプロデューサーが、創造主ファシシュなのか。あるいは、創造主ファシシュも、あくまでもこの世界の枠組の中、私たちキャラと同様にプロデューサーやプランナー、シナリオライターたちによって生み出された存在なのか。
 その点については、私にもまだわからないことが多すぎる。
 ただ、私の行動によって、シナリオが少しずつ改変されているという現象が起きているのだとするならば、私が前世でプレイした以外のエンドも迎えることができるはずだ。
 ──私の人生や愛するヴィネ様の人生の結末だけではなく、カーラたちのような人たちみんなが、幸せになるエンドを模索したい。

 私は、決意を新たに、旅を続けることにした。

 * * *

 そして、──約1ヶ月の後。
 私はようやく最後の難関であるメーヌ海峡も、なんとか越えることができた。
 かくして、愛するヴィネ陛下の治めるアヴァロニア王国まで辿り着いたのである。
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