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第三章 内政チートで魔王の国を改革! 魔王からの好感度アップを目指します

9 職業選択の自由を提案してみます①

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 朝食を済ませた私は、宰相であるセパルと共に馬車に乗り、農村を目指すことにした。
 セパルが所有する荘園を見せてもらい、国を富ませるために必要な手立てはないかを考え、改善案があればヴィネ陛下に提案するためである。

 馬車に揺られながら、私は車窓に目をやった。
 アヴァロニア王国の首都カーコードウィは、城を中心にし、円が放射状に重なる形で街が発展している。同心円状の城塞都市だ。
 城塞は湖上に浮かぶ島に築かれ、湖を天然のほりとする。城下町は、城の外周に形成されている。

 城の周囲を囲むように作られた城下町は、その外周へ行くほど、治安が悪くなる。
 城の近くには、貴族や豪商の大きな屋敷が門を構え、その一周外側の円となる通りには、比較的大きな店が建ち並んでいた。庶民は立ち入ることのできないような、高価な食料品店や宝飾店、豪華な宿屋が軒を連ねている。
 前世の日本で言うなら、銀座や表参道と言ったところだろうか。
 一流の商店が建ち並ぶエリアの外側には、庶民でも気軽に利用できそうないちが並び、さらにその外側には、間口の狭い家や商店が並ぶ。
 外周の城壁が近付けば近付くほど、町の治安は悪くなり、町を歩く人々の身なりもみすぼらしくなっていく。

 首都を囲む城壁を抜け、城塞都市の外側へと出た私たちは、いったん舟に乗り換えると、湖の畔へと向かった。対岸に渡った私たちは、湖畔に用意されていた王宮用の馬車へと乗り替え、農村部を目指すこととした。
 湖の畔には、城塞の中に入ることのできない流民たちが路上に数多あまたたむろしている。
 この風景は、聖カトミアル王国も、アヴァロニア王国も変わることはない。

(まず、なんとかしなければならないのは、雇用問題ね)

 ──雇用。
 私自身、前世で悩まされていた問題でもある。
 つまりは、文化や文明が進化しても、解決するのが難しい問題であるということだ。

 城壁の外側には、畑が広がり、都市に住む人々の食糧をまかなうための農作業が行われている。
 しかし、その作業に加わることなく、路上にたむろする物乞いたちの姿も同時に見受けられる。

「職にあぶれた人たちが多いのですね」

 私は、セバルに問いかけた。

「我が国は、首都の近くでこそ農業を行ってはいますが、地方ではまだまだ狩猟や遊牧を中心とした生活を行っている者も多くおります。我が国の気候は寒冷です。北へ行けば行くほど、土地は痩せ、農業を行うのが難しくなります。他の国では、豊富に取れる作物も我が国では枯れてしまうことも多いのです」
「どの作物を育てるのが効率よいか、じっくりと作戦を立てなければならないようですね」
「それに、農家も商家も、家を継ぐことができるのは、長男だけですからね。女なら、嫁に行くという手がありますが、男ではそれも難しいわけですから。家を継げず、職にもあぶれた者たちは、自然このように路上を彷徨さまようこととなります。聖カトミアル王国ではどうされていたのです?」
「同じです。ただ、聖カトミアル王国には、ファシシュ教があったので、修道士や修道女になる者もおりました。それでも、やはりあぶれてしまう者はいます。彼らを雇用することができれば、いいのですが……」

 雇用するには、まず働き口を作らねばならない。
 
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