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第三章 内政チートで魔王の国を改革! 魔王からの好感度アップを目指します
4 まずは台所から改革しましょう①
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メイヴに手伝ってもらい、身支度を調えた私は、ベルクの待つ城の台所へと向かった。
台所では、たくさんの使用人たちが所狭しと動き回っている。
パンを焼く者、肉を焼く者、飲み物を用意する者、配膳の準備をする者。
ベルクは、執事さながら、彼らに細々と指示を出して、朝食の準備の場を取り仕切っていた。
「……ベルク様」
忙しそうなベルクに、躊躇いながらも私は声を掛ける。
私の声に、ベルクは振り返った。
「ああ、あなたが、エレイン様ですね。陛下から話は伺っております。私は、小姓のベルクと申します。私に対して、“様”はいりません。ただの陛下の小姓に過ぎませんから。どうぞ、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いします。ええと……ベルク」
「さっそくですが、エレイン様は、この国を良くするために、いらしてくださったのですよね?」
ベルクが期待に満ちた眼差しを私に向ける。
「はい、そうヴィネ陛下には申し上げましたが……、私に力になれることがあれば、お役に立ちたい、と」
「では、朝の給仕を手伝いながら、この中で、何か改善できることをアドバイスしていただけませんか?」
「給仕……。台所で何か改善できることですか……」
ヴィネ陛下には、確かに前世の知識を活かしてこの国の人たちを幸せにしたいと伝えた。
「何をどうする」と具体的に考えていたわけではないが、漠然と、前世の進んだ文明の知識と子どもの頃から詰め込んできた知識を使って、政治や経済に関する改革に携われるのではないかと思っていた。
けして、台所仕事を下に見ているわけではないが、ちょっと期待とは違ったせいで、なんとなく拍子抜けする。
「食事は、毎日、ヴィネ陛下に召し上がっていただくものでもあります。私たち小姓は、陛下に城内で少しでも快適に過ごしていただくことで、政務に励んでいただく助けになれればと考え、日々、努めております。しかし、まだ至らないところも多いかと思うのです。そこで、エレイン様の、お知恵を拝借できればと思いまして」
確かに、食事は毎日必ず取らなければいけないものだ。
私は、これまで『聖なる乙女と光の騎士たち』というゲームを通じてしかヴィネ様のことを知らなかったから、ヴィネ様にも、ストーリーの表面には出て来ないような、ふだんの生活があるということを失念していた。
しかし、当たり前のことだが、ヴィネ様にも日常がある。君主として政務を行い、その合間には食事や睡眠を取る。そんな、ふだんの生活があるのだ。
そういった日常を日頃から支えているのが、ベルクたち小姓だ。その多くは、騎士になる前の少年たちで、騎士のように派手な武勲を立てることはないが、主君の日常生活を支えるというのも、地味ではあるが戦や政務同様に大切な仕事である。
私も「ヴィネ様のためになりたい」とは思うのだが、同時に「台所仕事の改善で私が力になれることがあるだろうか」という一抹の不安がよぎる。
「とりあえず今、野菜の皮むきの手が足りていないので、あそこを手伝いながら、何か気付いた点や、こうした方がいいのではないかというアイデアがあれば、私に教えてほしいのです」
「野菜の皮むき……ですか……」
野菜の皮むきと聞いて、ますます不安は募る。
「はい。ヴィネ陛下に、快適に過ごしていただくためのアイデアや、美味しいお食事を召し上がっていただくために、何か改善できるところがあれば何でも言ってください! エレイン様のお力を、是非お貸しいただければと思います!」
明るく答えるベルクの勢いに押され、私は否と言うことができなかった。
それにヴィネ陛下のためと言われたら、否とは言えない。
だから、私は言う機会を逸してしまったのだ。
「野菜の皮むきはあまり得意ではありません」と。
台所では、たくさんの使用人たちが所狭しと動き回っている。
パンを焼く者、肉を焼く者、飲み物を用意する者、配膳の準備をする者。
ベルクは、執事さながら、彼らに細々と指示を出して、朝食の準備の場を取り仕切っていた。
「……ベルク様」
忙しそうなベルクに、躊躇いながらも私は声を掛ける。
私の声に、ベルクは振り返った。
「ああ、あなたが、エレイン様ですね。陛下から話は伺っております。私は、小姓のベルクと申します。私に対して、“様”はいりません。ただの陛下の小姓に過ぎませんから。どうぞ、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いします。ええと……ベルク」
「さっそくですが、エレイン様は、この国を良くするために、いらしてくださったのですよね?」
ベルクが期待に満ちた眼差しを私に向ける。
「はい、そうヴィネ陛下には申し上げましたが……、私に力になれることがあれば、お役に立ちたい、と」
「では、朝の給仕を手伝いながら、この中で、何か改善できることをアドバイスしていただけませんか?」
「給仕……。台所で何か改善できることですか……」
ヴィネ陛下には、確かに前世の知識を活かしてこの国の人たちを幸せにしたいと伝えた。
「何をどうする」と具体的に考えていたわけではないが、漠然と、前世の進んだ文明の知識と子どもの頃から詰め込んできた知識を使って、政治や経済に関する改革に携われるのではないかと思っていた。
けして、台所仕事を下に見ているわけではないが、ちょっと期待とは違ったせいで、なんとなく拍子抜けする。
「食事は、毎日、ヴィネ陛下に召し上がっていただくものでもあります。私たち小姓は、陛下に城内で少しでも快適に過ごしていただくことで、政務に励んでいただく助けになれればと考え、日々、努めております。しかし、まだ至らないところも多いかと思うのです。そこで、エレイン様の、お知恵を拝借できればと思いまして」
確かに、食事は毎日必ず取らなければいけないものだ。
私は、これまで『聖なる乙女と光の騎士たち』というゲームを通じてしかヴィネ様のことを知らなかったから、ヴィネ様にも、ストーリーの表面には出て来ないような、ふだんの生活があるということを失念していた。
しかし、当たり前のことだが、ヴィネ様にも日常がある。君主として政務を行い、その合間には食事や睡眠を取る。そんな、ふだんの生活があるのだ。
そういった日常を日頃から支えているのが、ベルクたち小姓だ。その多くは、騎士になる前の少年たちで、騎士のように派手な武勲を立てることはないが、主君の日常生活を支えるというのも、地味ではあるが戦や政務同様に大切な仕事である。
私も「ヴィネ様のためになりたい」とは思うのだが、同時に「台所仕事の改善で私が力になれることがあるだろうか」という一抹の不安がよぎる。
「とりあえず今、野菜の皮むきの手が足りていないので、あそこを手伝いながら、何か気付いた点や、こうした方がいいのではないかというアイデアがあれば、私に教えてほしいのです」
「野菜の皮むき……ですか……」
野菜の皮むきと聞いて、ますます不安は募る。
「はい。ヴィネ陛下に、快適に過ごしていただくためのアイデアや、美味しいお食事を召し上がっていただくために、何か改善できるところがあれば何でも言ってください! エレイン様のお力を、是非お貸しいただければと思います!」
明るく答えるベルクの勢いに押され、私は否と言うことができなかった。
それにヴィネ陛下のためと言われたら、否とは言えない。
だから、私は言う機会を逸してしまったのだ。
「野菜の皮むきはあまり得意ではありません」と。
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