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第二章 魔王の待つアヴァロニア王国に向けて旅立ちます
17 ヴィネ陛下、私を妃にしてくださいませ! ③
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「信じてもらえないかもしれませんが、実は私には前世の記憶があるのです。今とは、まったく異なる世界です。今よりも、文明はずっと進んでいました。──私は、当時の記憶を活かして、この国の人たちを幸せにしたいのです」
「ほう……。なぜ、それをそなたの国、聖カトミアル王国で行おうとはせぬ?」
「聖カトミアル王国の政治は、民のことを考えたものではありませんでした。私はこの世界の枠組の外側から参りました。この世界では、唯一、ヴィネ陛下が、民のことを第一に考えて、政を行っているように思われます」
ヴィネの瞳が、一瞬、大きく見開かれる。
「しかし、このままでは……陛下も、この国も、非情なる聖女と騎士たちに──聖カトミアル王国に滅ぼされてしまいます。私は、それを何としても阻止したいのです」
「それは、先見か?」
「そう受け取っていただいて、かまいません。先ほども申し上げましたように、この世界の枠組の外側から参りましたので、私は、この国の未来を……ヴィネ陛下の物語の結末を、既に経験しているのでございます」
なんとも無礼なことを言っているというのは、自分でも理解している。
それでも。
私の願いは、ただひとつ。
愛するヴィネ様やこの世界の人たちに幸せになってもらいたい──。
ただ、それだけなのだ。
「このような、世迷言を信じられるのですか!? 陛下を誑かそうとする、嘘かもしれませぬぞ……前世だなどと戯言を」
黙って話を聞いていたセパルが、耐えきれなくなったように口を開いたが、ヴィネは再び手を上げてその言葉を制した。
「黙れ。さて、エレインと申したか。その前世とやらは幸せな国だったか?」
私は、令和の日本を思い出す。
確かに、ここよりもずっと便利な世の中ではあった。
車や電車を使えば、ここよりずっと楽に移動できたし、美味しい食べ物もたくさんあった。
買い物だって、24時間いつでも好きな時にできた。コンビニにネット通販。スマホさえあれば、いつでもどこでも友達と繋がることができたし、世界中の知らない人とも簡単に知り合うことができた。良いか悪いかは、別にして。
スマホさえあれば、世界中の情報がリアルタイムでどんどんと飛び込んできた。フェイクかどうかは、別にして。
ゲームに動画、マンガに小説、世の中には娯楽が溢れていた。
しかし、幸せな国だったかと問われれば、即座に首肯することは難しい。
文明は進んでいるが、富める者だけがより豊かになり、一部の者だけに富と権力が集中する国。
政治家が当たり前のように、嘘をつき、国民ではなく自分のことばかり守ろうとする国。
いくら頑張っても報われない世界。
特に、女性に関して言えば、学歴があっても、手に職があっても、それに見合う地位や金銭を得ることが難しい国だったように思う。
そして、度重なる自然災害に疫病。
ここより、進んでいるのは文明だけで、「民が幸せに暮らしている」とは断言できない世界だと思った。
「いいえ……。だからこそ、ヴィネ陛下と共に、私の未来の記憶を使って、民のための理想の国家を作りたいのです。ヴィネ陛下と共に、皆で幸せになりたいと思ったのです」
「なるほど。いいだろう」
ピロロ~ンという電子音と共に、ピンクのハートマークが目の前にひとつ浮かび上がる。
私の回答は、ヴィネ陛下にとって満足のいくものだったようだ。
好感度が上がったのだ。
「そなたがどれぐらいできる人物なのかはわからぬが、まずはチャンスぐらいは与えてやってもよかろう。妃にするかどうか、それはそなたの働きと国の行く末を見てから決めることだな。明日からは、この国の役人見習いとして、働いてみるがよい。行政に関して意見があれば何でも申してみよ。セパル、面倒を見てやるがよい」
「……あ、ありがたき仰せ、感謝いたします!」
私は、ヴィネ陛下に深々と礼をした。
セパルは、仕方なく、といった表情を浮かべつつも、
「かしこまりました」
と、主君の仰せを承諾する。
「ただし、使えなければ、容赦なくたたき出すぞ。覚悟しておけ」
「はい、はいっ! ありがとうございます!」
こんな与太話、信じてもらえなくても仕方ないと思っていた。
しかし、ヴィネ様は予想以上に話がわかる君主だ。
魔王ヴィネ・ド・ロマリエルを恋愛対象として攻略する前に、まずは国づくりである。
たたき出されぬよう、頑張らなければいけない。
ヴィネ様と、私のハッピーエンドのためにも──
「ほう……。なぜ、それをそなたの国、聖カトミアル王国で行おうとはせぬ?」
「聖カトミアル王国の政治は、民のことを考えたものではありませんでした。私はこの世界の枠組の外側から参りました。この世界では、唯一、ヴィネ陛下が、民のことを第一に考えて、政を行っているように思われます」
ヴィネの瞳が、一瞬、大きく見開かれる。
「しかし、このままでは……陛下も、この国も、非情なる聖女と騎士たちに──聖カトミアル王国に滅ぼされてしまいます。私は、それを何としても阻止したいのです」
「それは、先見か?」
「そう受け取っていただいて、かまいません。先ほども申し上げましたように、この世界の枠組の外側から参りましたので、私は、この国の未来を……ヴィネ陛下の物語の結末を、既に経験しているのでございます」
なんとも無礼なことを言っているというのは、自分でも理解している。
それでも。
私の願いは、ただひとつ。
愛するヴィネ様やこの世界の人たちに幸せになってもらいたい──。
ただ、それだけなのだ。
「このような、世迷言を信じられるのですか!? 陛下を誑かそうとする、嘘かもしれませぬぞ……前世だなどと戯言を」
黙って話を聞いていたセパルが、耐えきれなくなったように口を開いたが、ヴィネは再び手を上げてその言葉を制した。
「黙れ。さて、エレインと申したか。その前世とやらは幸せな国だったか?」
私は、令和の日本を思い出す。
確かに、ここよりもずっと便利な世の中ではあった。
車や電車を使えば、ここよりずっと楽に移動できたし、美味しい食べ物もたくさんあった。
買い物だって、24時間いつでも好きな時にできた。コンビニにネット通販。スマホさえあれば、いつでもどこでも友達と繋がることができたし、世界中の知らない人とも簡単に知り合うことができた。良いか悪いかは、別にして。
スマホさえあれば、世界中の情報がリアルタイムでどんどんと飛び込んできた。フェイクかどうかは、別にして。
ゲームに動画、マンガに小説、世の中には娯楽が溢れていた。
しかし、幸せな国だったかと問われれば、即座に首肯することは難しい。
文明は進んでいるが、富める者だけがより豊かになり、一部の者だけに富と権力が集中する国。
政治家が当たり前のように、嘘をつき、国民ではなく自分のことばかり守ろうとする国。
いくら頑張っても報われない世界。
特に、女性に関して言えば、学歴があっても、手に職があっても、それに見合う地位や金銭を得ることが難しい国だったように思う。
そして、度重なる自然災害に疫病。
ここより、進んでいるのは文明だけで、「民が幸せに暮らしている」とは断言できない世界だと思った。
「いいえ……。だからこそ、ヴィネ陛下と共に、私の未来の記憶を使って、民のための理想の国家を作りたいのです。ヴィネ陛下と共に、皆で幸せになりたいと思ったのです」
「なるほど。いいだろう」
ピロロ~ンという電子音と共に、ピンクのハートマークが目の前にひとつ浮かび上がる。
私の回答は、ヴィネ陛下にとって満足のいくものだったようだ。
好感度が上がったのだ。
「そなたがどれぐらいできる人物なのかはわからぬが、まずはチャンスぐらいは与えてやってもよかろう。妃にするかどうか、それはそなたの働きと国の行く末を見てから決めることだな。明日からは、この国の役人見習いとして、働いてみるがよい。行政に関して意見があれば何でも申してみよ。セパル、面倒を見てやるがよい」
「……あ、ありがたき仰せ、感謝いたします!」
私は、ヴィネ陛下に深々と礼をした。
セパルは、仕方なく、といった表情を浮かべつつも、
「かしこまりました」
と、主君の仰せを承諾する。
「ただし、使えなければ、容赦なくたたき出すぞ。覚悟しておけ」
「はい、はいっ! ありがとうございます!」
こんな与太話、信じてもらえなくても仕方ないと思っていた。
しかし、ヴィネ様は予想以上に話がわかる君主だ。
魔王ヴィネ・ド・ロマリエルを恋愛対象として攻略する前に、まずは国づくりである。
たたき出されぬよう、頑張らなければいけない。
ヴィネ様と、私のハッピーエンドのためにも──
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