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第二章 魔王の待つアヴァロニア王国に向けて旅立ちます
4 旅には危険がつきものです①
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旅の途中で、隠していた貴金属を少しずつ路銀に変えながら、私は、アヴァロニア王国へと向かった。
できるだけ、旅の費用は抑えたかったが、治安の悪い地域――すなわち、職業「盗賊」の多い地域――では、無理をせず乗り合い馬車を利用し、少し値段のはる宿に宿泊した。
比較的治安の良い場所では、巡礼者たちの集団にこっそりと紛れるように身を隠して、徒歩で街道を進む。
魔女として断罪されたのだから、少しぐらい魔法が使えるような設定を盛り込んでくれていれば、もう少し旅は楽になったのだが、残念ながら、私のMPは、何度確認しても他の聖カトミアル王国の人間たちと同じく1しかない。
旅を続けることでレベルアップするというシステムでもないようだ。
蝶よ花よと育てられた元公爵令嬢でしかなかったら、この旅は過酷過ぎて、到底、成し得ることなどできなかったことだろう。
しかし、私には幸いにも、ただの庶民でしかなかった前世の記憶がある。会社や学校へ行くのに、当然送り迎えなどなかったから、自分の足で歩くことにも慣れていた。
前世の発達していた交通網を思い出すと、不便に感じることはある。
しかし、私の視界にはミニマップがある。
スマホの地図アプリを使用して移動していた前世以上に、便利でチートな能力が備わっているのだ。
私は、このマップのおかげで道に迷うことも、街道を大きくそれることもなかった。
* * *
聖カトミアル王国の辺境付近に近付くと、首都周辺ではあまり姿を見ることのなかった、ジプシーや路上生活者を多く目にするようになった。
その多くは、「人間」ではなく、エルフや半獣などである。
聖カトミアル王国では、彼ら異民族の市民権を認めていない。
おそらく、アヴァロニア王国から不法入国して来たものの、まともな職にありつくことができず、食い詰めて路上生活に追いやられた者たちだろう。
ファシシュ教会の前では、炊き出しが行われ、熱いスープとパンが振る舞われていた。
ステータス画面の職業欄に、「スリ」「盗賊」「娼婦」と書かれた者たちの割合が多くなる。
私は、懐の貴金属をすられないよう、服の上からも念のためそっと手を添え、人混みを避けて歩いた。
「お嬢さん、巡礼の一人旅かい?」
街道を急ぐ私に、馬に乗った若者が声を掛けて来る。
制服は、聖カトミアル王国の警備兵のもの。職業のステータスは、「軍人」だ。
私は、特に警戒することもなく、
「はい」
と、男に答えた。
「今日は、この辺りで宿を取るつもりかい?」
辺りには、夕闇が迫り、夜の帳がそろそろ降りようかという刻限だ。
「そうですね、そろそろ日も落ちる頃ですし、次の町で宿を取るつもりでいます」
「そうかい。このまま、街道を進むと次の町だが、その町に入るちょっと手前で右に折れると、いい宿があるんだ。もしよかったら、そこまで一緒に行かないか? 私も、今日はそこに泊まろうと思っているんだ」
「ありがとうございます。それでは、ご一緒させていただきますね」
男の職業ステータスにすっかり安心しきった私は、特に深く考えることもなく、男の誘いに乗った。
男は馬を私の歩調に合わせて操り、私の横に轡を並べて街道を歩いた。
できるだけ、旅の費用は抑えたかったが、治安の悪い地域――すなわち、職業「盗賊」の多い地域――では、無理をせず乗り合い馬車を利用し、少し値段のはる宿に宿泊した。
比較的治安の良い場所では、巡礼者たちの集団にこっそりと紛れるように身を隠して、徒歩で街道を進む。
魔女として断罪されたのだから、少しぐらい魔法が使えるような設定を盛り込んでくれていれば、もう少し旅は楽になったのだが、残念ながら、私のMPは、何度確認しても他の聖カトミアル王国の人間たちと同じく1しかない。
旅を続けることでレベルアップするというシステムでもないようだ。
蝶よ花よと育てられた元公爵令嬢でしかなかったら、この旅は過酷過ぎて、到底、成し得ることなどできなかったことだろう。
しかし、私には幸いにも、ただの庶民でしかなかった前世の記憶がある。会社や学校へ行くのに、当然送り迎えなどなかったから、自分の足で歩くことにも慣れていた。
前世の発達していた交通網を思い出すと、不便に感じることはある。
しかし、私の視界にはミニマップがある。
スマホの地図アプリを使用して移動していた前世以上に、便利でチートな能力が備わっているのだ。
私は、このマップのおかげで道に迷うことも、街道を大きくそれることもなかった。
* * *
聖カトミアル王国の辺境付近に近付くと、首都周辺ではあまり姿を見ることのなかった、ジプシーや路上生活者を多く目にするようになった。
その多くは、「人間」ではなく、エルフや半獣などである。
聖カトミアル王国では、彼ら異民族の市民権を認めていない。
おそらく、アヴァロニア王国から不法入国して来たものの、まともな職にありつくことができず、食い詰めて路上生活に追いやられた者たちだろう。
ファシシュ教会の前では、炊き出しが行われ、熱いスープとパンが振る舞われていた。
ステータス画面の職業欄に、「スリ」「盗賊」「娼婦」と書かれた者たちの割合が多くなる。
私は、懐の貴金属をすられないよう、服の上からも念のためそっと手を添え、人混みを避けて歩いた。
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街道を急ぐ私に、馬に乗った若者が声を掛けて来る。
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私は、特に警戒することもなく、
「はい」
と、男に答えた。
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辺りには、夕闇が迫り、夜の帳がそろそろ降りようかという刻限だ。
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「そうかい。このまま、街道を進むと次の町だが、その町に入るちょっと手前で右に折れると、いい宿があるんだ。もしよかったら、そこまで一緒に行かないか? 私も、今日はそこに泊まろうと思っているんだ」
「ありがとうございます。それでは、ご一緒させていただきますね」
男の職業ステータスにすっかり安心しきった私は、特に深く考えることもなく、男の誘いに乗った。
男は馬を私の歩調に合わせて操り、私の横に轡を並べて街道を歩いた。
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