魔女として断罪された悪役令嬢は婚約破棄されたので魔王の妃として溺愛されることを目指します

悠月

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第二章 魔王の待つアヴァロニア王国に向けて旅立ちます

15 ヴィネ陛下、私を妃にしてくださいませ! ①

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 アヴァロニア王国を治める王である、ヴィネは玉座に深く腰掛けたまま、目をみはる。
 オペラを歌うような、ヴィネの美声が大広間に響き渡った。

「笑止! 何を言い出すかと思えば。私の妃になりたい、とはな。それに、そなたは聖カトミアル王国、聖堂騎士団長殿の婚約者であろう?」

「それが……、私、実は、魔女として断罪され、婚約破棄を言い渡されてしまったのです。現在は、言われのない罪で国外追放の憂き目に遭っているのでございます。先ほどは、友好使節団として貴国を訪れ賊に襲われたなどと、嘘を申し上げました。平にお詫びいたします」

 私は、少しでも陳謝の気持ちを表したいと思い、低く頭を下げる。

「今の私は、公爵令嬢の身分にもありませんし、聖堂騎士団長の婚約者でもありません。ただの、エレインです」

 私は、ここまでに我が身に起きたことをつまんで説明した。

「魔女として断罪……か。そういえば、聖カトミアル王国では、魔術は異端なのであったな。そなた、魔術士であったのか? それは、生きづらかろうな」
「いえ、私、魔術はまったく使えません。事実無根の罪に問われ、婚約破棄され、国を追われたのです」

 ヴィネの瞳に、一瞬、同情の色が浮かぶ。

「それは……。しかし、そなたとは、これまでに会ったことなどなかったはず。それなのに、なぜ遠路はるばる私を頼って、ここまでやって来たのだ? そなた、いったい私の何を知っているというのか」

(いえ……一度、お会いしたことがあるのです。陛下が、空間移動の魔術を駆使して、ヴァレリーのもとへ現れた時に)

 という言葉を私は呑み込んだ。
 所詮、私は悪役令嬢。
 ヴィネ様にとって、記憶に残る存在ではなかったようだ。
 ヴァレリーは、魔王を倒しに来る聖なる乙女という重要な役割を与えられている。なんとかしてその運命──シナリオを阻止するために、ラスボスとしてはあらかじめ動いておかねばならない。だから、自らヴァレリーの前に姿を現す。
 二人は正ヒロインとラスボス、敵と味方という形ではあるが、深い絆で結ばれているのだ。
 一方、私はこのゲームの序盤で、その聖なる乙女をいじめるだけのただの端役でしかない。ヴィネ様にとっては、取るに足らない存在ということなのだ。

「なぜ、そこであえて私なのだ? 私の何を好んで、妃になりたいというのか。地位か? 財か? 残念ながら、我が国は聖カトミアル王国ほど裕福ではない。王の妃になったとしても、聖カトミアル王国の貴族ほどの生活もできないことであろう。我が暮らしより、この前までのそなたの暮らしの方が、よほど贅沢なものであったのではないかと思うぞ」

「いえ、私は財など望んではおりませぬ。妃という地位のみに価値を感じて、妃にして欲しいと申し上げているわけでもありません」

 もともとの理由は、ただ単純に、純粋に、「ヴィネ様のことが好きだから」なのだが、王族や貴族の結婚にそのような理屈が通るはずもないのだ。
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