魔女として断罪された悪役令嬢は婚約破棄されたので魔王の妃として溺愛されることを目指します

悠月

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第二章 魔王の待つアヴァロニア王国に向けて旅立ちます

12 ヴィネ陛下にお会いできるそうです

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 私は、ぎゅっと目を瞑ったまま、気を失った振りをし続けた。
 先ほどの知力7の衛兵に呼ばれたのか、他にも衛兵が何人か私の周囲に集まってきたのを、気配だけで感じる。

「どうしますか、このご令嬢……」
「聖カトミアル王国は友好国とは言えない相手だが、城門の外に倒れたまま放置しては、いくらなんでもまずいだろう」
「とりあえず、城内にお連れして、後は陛下の指示を仰ぐのがよいのではないか?」

 衛兵たち同士での相談は、どうやら私の思惑通りに進んでいる。
 しばらくすると、彼らは戸板のようなものを持って来て、私の身体をその上に乗せた。
 ギギーッと、きしむような音と共に、城門が開かれる。

(成功だわ!)

 衛兵たちによって担がれた戸板は、私を乗せたまま城内へと入って行った。

 * * *

 無事、場内へと運び込まれ、客間と思しき部屋の寝台に寝かされた私は、心の中で、そっと

(やった! 作戦成功!)

 と、ひとりごちる。

 しかし、そこで元気よく起き上がったら、周囲を騙していたことがバレてしまう。
 私は、気を失ったふりを続けた。

 1時間ほど、経過しただろうか。いかにも意識が今、戻ったという演技をしながら、私は寝台の中で、ゆっくりと身を起こす。

「あら……ここは、どこ……? 私、どうしてしまったのかしら?」

 答えはわかりきっていたが、意識に混乱が生じていることをアピールするために、あえて呟いてみる。

「あ、気がつかれましたか?」

 私の声に反応したのか、一人の少女が駆け寄って来た。
 プラチナブロンドの長いストレートヘアを束ねたその少女は、服装からも一見、ただの侍女にしか見えないのだが、よく見ると、耳の上部が長く尖っている。
 私は、道中で危険から救ってくれたダークエルフと人間のハーフの女性、カーラのことを思い出していた。

「エルフ……? エルフなの?」

 また、思った言葉がそのまま口をついて出てしまう。

「あ、お見苦しいものをお見せいたしました。私はハーフエルフでございます。聖カトミアル王国では、人間しか暮らしていないのですよね」

 ハーフエルフの少女は、私の言葉を誤解して、恥じたのか、両手で耳を覆う。

「ああ、誤解させてしまったわね。責めたわけじゃないの。隠すことはないわ。気になさらないで。たくさんの種族が共に協力しながら暮らす方が、理にかなっていると私は思うわ」
「でも、聖カトミアル王国は厳格な一神教の国家で、エルフやドワーフ、獣人どころか魔法使いの存在も許さないと……」
「ええ、そうなのよね……」

 私は、魔女として断罪されたことを思い返す。
 聖カトミアル王国の使節団と嘘をついて、城内に侵入してしまったが、いずれこのことも正直に話さねばなるまい。

「私は少なくとも、そのような個性で差別をしたくはないということよ。それに、どの種族にもそれぞれの特徴があって、どちらが優れている、どちらが劣っているということはないと思うし……。私は、アヴァロニア王国に来る途中、人間の男や魔物に襲われたの。助けてくれたのは、ダークエルフと人間とのハーフだと言う女性だったわ。人間だからと言って無条件に偉いわけではないし、どうしようもない人間もいる。エルフの中にも優れたエルフもいれば、そうでもないエルフもいるのではないかと思うわ」

 前世で暮らしていた世界でも、文明は進んでいたにも関わらず、差別がはびこっていた。
 肌の色や、信じる宗教、人種によって軋轢あつれきが起きるなんて、なんとバカげたことかと思う。

「あ、大事なことを忘れておりました。お嬢様の意識が戻られたら、広間にお連れするようにとことづかっております」
「広間に! 陛下が、会って下さるのかしら?」
「私にはそこまでわかりかねますが、おそらくは……。身支度を整えるお手伝いをさせていただきます」

(いよいよ、いよいよ、──ヴィネさまに会える!!) 

 私は高鳴る鼓動を抑えながら、ハーフエルフの少女の手を借り、持ってこられた中でもとっておきのドレスとアクセサリーで、精一杯、着飾ることにした。

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