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第二章 魔王の待つアヴァロニア王国に向けて旅立ちます
1 お母さまに別れを告げて旅立ちます
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我が家と私の処遇は、翌日には正式に決定された。
結局、私は自白通りに魔女として断罪され、父も爵位と領地を失うこととなった。
母はひどく嘆いたが、私を一言も責めなかった。領地の父も同じく、私を責めなかったそうだ。
このように良い人たちが、身分も財産もすべてを奪われることになってしまうとは――。
シナリオ通りに進んでいるとは言え、この断罪を回避できなかったことに、心が痛む。
絶対に、人生を逆転させて幸せを掴み、父と母も救って差し上げなければならない。
私は心に誓った。
父と母は、ひとまず国外に住む母の親族を頼ることとなった。
聖カトミアル王国の南東に位置し、同じく創造神ファシシュを信仰する小国・グリニョン王国に親族が住んでいるのである。
「私はあなたが魔女だなんて思っていませんからね。あなたは何も悪くないはずよ。きっと、何かの罠に陥れられたのよね、エレイン。私は、あなたを信じますよ。領地のお父さまも、あなたのことを悪く思ってはいないはずですわ」
母は涙ながらに、私を抱きしめてくれた。
幼子のように、母に、トントンと優しく背中を叩かれると、私の瞳にも思わず涙が滲む。
「お母さま……」
母は、私が宮中で倒れたと聞いた時から、領地を離れ、首都ラロシューの館で、看病を続けてくれていた。
「しばらくすれば、あなたの身の潔白は証明されるはずです。それまで、しばらく身を隠していましょう。私たちと一緒に来るわよね、エレイン」
母は、領地の父と合流してから、親族の住むグリニョン王国のワイヤック領を目指すと言う。
「ローテルン大陸の屋根」とたとえられるほど、高い山々が連なるトリアム山脈の麓に位置する、小さな国だ。牧歌的な村々が、山間や麓に散らばるこの国は人口密度も低く、亡命して身を隠すには適している。
「申し訳ございません。私は、グリニョン王国には行きません……お母さま」
「ジャン様を信じたいという、あなたの気持ちはわかるわ、でも、エレイン、もうこの国に残ることはできないのよ」
「ええ、わかっています。それに、あんな男――ジャン様になど、私、もう未練はございません! この国に残りたいというわけではないのです……。私、アヴァロニア王国を目指そうと思うのです」
「なんですって、エレイン! あそこは、ファシシュ教徒が暮らす国ではないのよ。文化も信仰も、何もかも違い過ぎるわ」
私がアヴァロニア王国を目指すことを告げると、当然母は激しく反対した。
「申し訳ございません。でも、私、やりたいことがあるのです。お母さまやお父さまに決して迷惑はかけません」
「お嬢様! では、私、アンナがお嬢様に付いてまいります。お嬢様、お一人でアヴァロニア王国に向かうなど……危険過ぎます!」
それまで、傍に黙って控えていたアンナが、堪えきれなくなったように、口を開いた。
「いいえ、大丈夫よ、アンナ。私たちは財産を没収されてしまったから……これからは、あなたの働きに見合うだけの給金を支払うことはできないかもしれないけれど……、もしかなうなら、お母さまの傍にいてあげてちょうだい、アンナ。今まで、どうもありがとう」
「お嬢様!」
「エレイン!」
私は、母やアンナたちの反対を押し切って、アヴァロニア王国を目指し、出立することにした。
結局、私は自白通りに魔女として断罪され、父も爵位と領地を失うこととなった。
母はひどく嘆いたが、私を一言も責めなかった。領地の父も同じく、私を責めなかったそうだ。
このように良い人たちが、身分も財産もすべてを奪われることになってしまうとは――。
シナリオ通りに進んでいるとは言え、この断罪を回避できなかったことに、心が痛む。
絶対に、人生を逆転させて幸せを掴み、父と母も救って差し上げなければならない。
私は心に誓った。
父と母は、ひとまず国外に住む母の親族を頼ることとなった。
聖カトミアル王国の南東に位置し、同じく創造神ファシシュを信仰する小国・グリニョン王国に親族が住んでいるのである。
「私はあなたが魔女だなんて思っていませんからね。あなたは何も悪くないはずよ。きっと、何かの罠に陥れられたのよね、エレイン。私は、あなたを信じますよ。領地のお父さまも、あなたのことを悪く思ってはいないはずですわ」
母は涙ながらに、私を抱きしめてくれた。
幼子のように、母に、トントンと優しく背中を叩かれると、私の瞳にも思わず涙が滲む。
「お母さま……」
母は、私が宮中で倒れたと聞いた時から、領地を離れ、首都ラロシューの館で、看病を続けてくれていた。
「しばらくすれば、あなたの身の潔白は証明されるはずです。それまで、しばらく身を隠していましょう。私たちと一緒に来るわよね、エレイン」
母は、領地の父と合流してから、親族の住むグリニョン王国のワイヤック領を目指すと言う。
「ローテルン大陸の屋根」とたとえられるほど、高い山々が連なるトリアム山脈の麓に位置する、小さな国だ。牧歌的な村々が、山間や麓に散らばるこの国は人口密度も低く、亡命して身を隠すには適している。
「申し訳ございません。私は、グリニョン王国には行きません……お母さま」
「ジャン様を信じたいという、あなたの気持ちはわかるわ、でも、エレイン、もうこの国に残ることはできないのよ」
「ええ、わかっています。それに、あんな男――ジャン様になど、私、もう未練はございません! この国に残りたいというわけではないのです……。私、アヴァロニア王国を目指そうと思うのです」
「なんですって、エレイン! あそこは、ファシシュ教徒が暮らす国ではないのよ。文化も信仰も、何もかも違い過ぎるわ」
私がアヴァロニア王国を目指すことを告げると、当然母は激しく反対した。
「申し訳ございません。でも、私、やりたいことがあるのです。お母さまやお父さまに決して迷惑はかけません」
「お嬢様! では、私、アンナがお嬢様に付いてまいります。お嬢様、お一人でアヴァロニア王国に向かうなど……危険過ぎます!」
それまで、傍に黙って控えていたアンナが、堪えきれなくなったように、口を開いた。
「いいえ、大丈夫よ、アンナ。私たちは財産を没収されてしまったから……これからは、あなたの働きに見合うだけの給金を支払うことはできないかもしれないけれど……、もしかなうなら、お母さまの傍にいてあげてちょうだい、アンナ。今まで、どうもありがとう」
「お嬢様!」
「エレイン!」
私は、母やアンナたちの反対を押し切って、アヴァロニア王国を目指し、出立することにした。
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