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旅先の怪
第四話 おしらさま
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『遠野物語』にも出てくる「おしらさま」という神様は、祟り神なのだと言う。
大学院時代、柳田国男を中心とした民俗学のゼミを取っていたので、夏休みを使って遠野に旅行することにした。
カッパ淵や、姥捨ての地であるデンデラ野を巡っても、特に何も起きることなく最終日を迎えた。
その日は、伝承園という「佐々木喜善記念館」のある施設を訪れることにした。
目的の「佐々木喜善記念館」を堪能した後、やはり重要文化財である「南部曲り家」も見ておきたいと、ふらりと曲り家に入った。
曲り家から、何の気なしに薄暗い廊下を歩いて行くと。
廊下が途中で直角に曲がっていた。
曲り家だからだろうか。
特に気にせず、そのまま廊下を進んだ。
突然。
視界いっぱいに、小さな人形が現れた。
御蚕神堂(オシラ堂)と呼ばれるそこは、四方の壁一面を覆い尽くすように、千体のおしらさまで埋め尽くされていた。
小さな人形……といっても、ふつうの日本人形のように、きちんとした顔が付いているわけではない。
こけしよりも、もっと簡素な、木の棒を彫って作られた小さな顔。
そこに、色鮮やかな布が幾重にも巻き付けられている。
布が、十二単のように巻き付けられているせいで、身体がとても大きく、よけいに顔が小さくアンバランスに見える。
それが、四方の壁一面にびっしりと貼り付けられている。
私は1分とその部屋にいることができず、悲鳴を呑み込み、すぐに廊下へと戻った。
顔も目もはっきりとしていないのに、無数の目で見つめられているような、圧迫感が耐えられなかった。
「おしらさま」は祟り神である。
「おしらさま」を祀るのはイタコ、あるいは女性。
一度、祀り始めたら、一生祀り続けないと祟る。
二足四つ足の動物を嫌い、間違ってお供えすると大病を患う。
「おしらさま」の祭日である、命日には祀る家人も肉食は禁止である。禁を犯すと顔が曲がる。
同じく祭日である「おしらあそばせ」の日には、経文を唱えながら、「おしらさま」を踊らせる。
それ以外の日は、家人の目に触れぬよう、大事にしまわれているそうだ。
ここにある千体の「おしらさま」は、祀り続けなくともよいのだろうか?
目に触れぬよう、隠さなくてもよいのだろうか?
これを祀っていた家は、いま、どうしているのだろうか?
そんな疑念が頭から離れなかったけれど、とりあえず食事をしようと、遠野駅まで戻りレストランに入った。
私は、連れと二人だった。
レストランで、ウエイトレスが持って来た水は三つ。
「二名なんですけれど」
そう言う私に、ウエイトレスは怪訝な表情を浮かべる。
「お子様連れの三名様ですよね?」
「……?」
「入っていらしたとき、一緒にお子様が見えたのですが……」
私は首を振る。
「失礼いたしました」
ウエイトレスは、グラスをひとつ下げた。
「おしらさま」は、女性と子どもの守り神だとも言われている
大学院時代、柳田国男を中心とした民俗学のゼミを取っていたので、夏休みを使って遠野に旅行することにした。
カッパ淵や、姥捨ての地であるデンデラ野を巡っても、特に何も起きることなく最終日を迎えた。
その日は、伝承園という「佐々木喜善記念館」のある施設を訪れることにした。
目的の「佐々木喜善記念館」を堪能した後、やはり重要文化財である「南部曲り家」も見ておきたいと、ふらりと曲り家に入った。
曲り家から、何の気なしに薄暗い廊下を歩いて行くと。
廊下が途中で直角に曲がっていた。
曲り家だからだろうか。
特に気にせず、そのまま廊下を進んだ。
突然。
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小さな人形……といっても、ふつうの日本人形のように、きちんとした顔が付いているわけではない。
こけしよりも、もっと簡素な、木の棒を彫って作られた小さな顔。
そこに、色鮮やかな布が幾重にも巻き付けられている。
布が、十二単のように巻き付けられているせいで、身体がとても大きく、よけいに顔が小さくアンバランスに見える。
それが、四方の壁一面にびっしりと貼り付けられている。
私は1分とその部屋にいることができず、悲鳴を呑み込み、すぐに廊下へと戻った。
顔も目もはっきりとしていないのに、無数の目で見つめられているような、圧迫感が耐えられなかった。
「おしらさま」は祟り神である。
「おしらさま」を祀るのはイタコ、あるいは女性。
一度、祀り始めたら、一生祀り続けないと祟る。
二足四つ足の動物を嫌い、間違ってお供えすると大病を患う。
「おしらさま」の祭日である、命日には祀る家人も肉食は禁止である。禁を犯すと顔が曲がる。
同じく祭日である「おしらあそばせ」の日には、経文を唱えながら、「おしらさま」を踊らせる。
それ以外の日は、家人の目に触れぬよう、大事にしまわれているそうだ。
ここにある千体の「おしらさま」は、祀り続けなくともよいのだろうか?
目に触れぬよう、隠さなくてもよいのだろうか?
これを祀っていた家は、いま、どうしているのだろうか?
そんな疑念が頭から離れなかったけれど、とりあえず食事をしようと、遠野駅まで戻りレストランに入った。
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「二名なんですけれど」
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「お子様連れの三名様ですよね?」
「……?」
「入っていらしたとき、一緒にお子様が見えたのですが……」
私は首を振る。
「失礼いたしました」
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