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王位継承編⑥ 好奇心に負けて蓋を開ける

マノン⑲ デート

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 書庫に招かれてから二時間ほどが経過。
 ちようこうそくで資料をあさっていたマノンが、急に「あっ」と声を出した。


「んー、どうしたー?」


 俺はすっかり疲れてしまった。なにせこの世界の文字については未だに勉強中だ。
 加えてこれを筆記している人間は複数いるようで、筆跡の違いによる読みづらさというものもある。


「オメロ・ジニ――。これではないですか!?」
「マジか! あったのか!?」


 駆け寄って内容のかくにん、……なのだが。


「マノン、中身は読んだか?」

「いえ。今からです」

「最初はリルに読ませてやれないか? ほら、両親のプライベートな話だからさ。リルが読んで、それでおれたちも読んで問題のない内容なら、読ませてもらおう」


 リルの顔を見ると「ハヤトくん――っ」とうれしそうにしている。
 でもこういうのは、極めて常識的な気遣いだろう。


「――まあ、リルから聞く話だけで情報が補完される可能性もありますからね。そうしましょう」


 マノンもりようかい。社会経験が浅い割に、日常生活の中ではある程度の良識を持ってくれているのが救いだ。
 あとはまあ、リルが読み終えるまで待つわけだけれど。結構な分量だろうし、ひまがありそうだな。
 俺も善行とやらを積んでみるか――と、リディアに教会のせいそうでも申し出ようとした。
 ほら、いつ善行が必要になるかわからないし? 懺悔に備えて今から……って、なんだか積み立て式の貯金みたいだ。計画的にやっている人もいるだろうな。どこぞの賢者とか。


「うーん、でもこれ、すごい量よね。ずっと待たせるのも悪いし……。あっ、じゃあハヤトくんとマノンちゃんは、デートでもしてきたらどうかな?」

「はぁ!?」

「いいのですか!?」


 リルはさわやかながおで語る。


「うんっ。好きな人と友達がデートとか、ドキドキするから」


 こいつのられ病はダメだ。もう治りそうにない。
 しかし、もしく『リルが寝取られることだけを』する方法が見つかれば、最強のよめさんだよな……。
 家事ばんのう。頭脳めいせき
 性格はまあ少しキツいところもあるけれど、基本的にはやさしくて、うわは許す。
 ――――やばい。理想的って言うかこれ、ただ男にとって都合が良いだけの人だ!


「行きますよ、ハヤトさんっ」

「だぁっ、うでからみつくな!」

「デートですし、これぐらいは健全ですよ。胸を当てているわけでもないのですから」

「はぁっ? 当てる胸がないだけだろ」

「メテオぉぉぉぉぉぉぉッ――――」

「すまん、今のは俺が悪かった」


 不用意な発言で町ごとばされたらしやにならない。


「まったく。こうなったらほうで胸を――」

にゆうじゃねえか……」

「偽乳とひんにゆうだと、どっちがいいですか?」

「貧乳にしてくれ。マノンはそのままで十分わいいから」

「かわっ……わ、わかりましたっ!」


 しかし十四さいのロリっこに本気で好かれている二十一歳という時点で、世の中的には結構アレな話なわけで。
 腕に絡まれているところを人に見られたら、運良く仲の良いきようだいだとかんちがいされるか、犯罪者あつかいされるか、二たくである。
 町に出るって言っても、行き先もよくわからないしなぁ。
 …………だがマノンは、そんな俺の不安を一発でぬぐってしまう。


「でわっ」


 魔法によって黒いかべが発生。これで俺たちは周りも見えないし、周りからも見られない。


「……………………なあ、マノン? 見られたくないとか見たくないってのは、わからないでもないんだけどさ。これじゃりの店に行くこともできないだろ?」

「むぅ……。リルとは公園でデートしていたくせに」

「あれはレイフさんの家の庭だ。――つか、やっぱり見てたのな」

「私はリルとちがって、まともですから。いくら友達でも好きな人を取られたら、友情なんてそつこくぶっこわれですよ。ハヤトさんは私一人でどくせんします。私さえ幸せなら、それでいいのです」

「……念のためいておくけれど、そこに俺の意思は?」

いつしよにいられるじようきようを作ればいいだけですから。永遠に一緒にいられるためなら、私はなんだってやりますよ。死んだって構いません」


 いかん。この子は最終的に心中まで行くタイプに思えてきた。
 しかし『寝取られてもいい。だってそれは私の努力不足だから!』と言う不幸体質のリルと、『あなたの気持ちなんて関係ない。私が幸せならそれが全て!』と主張するヤンデレマノンでは、どちらがまともなのだろうか?
 ――――やめておこう。考えると切なくなってくる。


「しかし、この魔法は少し変えないといけないかもですね」

「おっ。少しは外へ出る気になったか?」

「お店には、ハヤトさん一人で……というのも考えるのですが、それでげられたら手間ですし。――いえ、首輪でつなぐという手も……」

「…………俺はペットか?」


 やっぱりこの子、こわい。


「ペットかどうかを考えることに、意味はあるのでしょうか?」

「無かったら怖いわ!」

「ネコのことを世界一可愛いとか言っていたくせに……」

「愛玩動物と恋人や嫁を一緒にしないでくれよ……」


 結局、さすがのマノンでも『見ることも見られることもなく都合良く店にだけ入って店員さんとやりとりできる魔法』というのは、難しいようで。
 そういうのは魔力の量よりも創意工夫のほうが重要そうに思える。きっと賢者の専門だろう。

 考えた末に俺たちは、教会の中をたんさくすることとなった。
 礼拝堂のように人の集まる場所もあるが、リディアに訊くと穴場スポットも数多くあるらしい。平日の昼間ならばそれほど人もいないから、マノンにおすすめだそうだ。

 この国の宗教ではじゆうではなく円形を聖なるものとしていて、教会も上空から見ると円をえがくように作られている。
 中心はけの礼拝堂だから上階がないが、グルッと取り囲む円周部分の建物は五階まで作られていて、とにかくながめがいい――と。


「ふわぁーっ……」

「――来て、よかっただろ?」

「はいっ。近くに人がいないなら、開放的なのも悪くはないです!」


 ほんと、こうしてつうにしているところを見ると、ただただ可愛い妹みたいな存在なんだよなぁ。
 リルは寝取られ願望以外は全て高次元。器量がいいから、仮に置いて帰ったとしてもたくましく生きてくれそうだ。
 むしろ俺なんかより、もっと良いこいびとを見つけてくれるだろう。

 けれどマノンは、性格のアンバランスさが激しすぎる。
 幼さもあるし、こんなりよくを持っていたらまたひどい目にうかもしれない。――いや、このままではマノン自身が誰かに酷いことをする可能性だってある。


「見てください。人があんなにちっちゃいです。ゴミみたいですよ!」


 ――正直なところ、置いていくのは心配だ。
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