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王位継承編④ 正しく可愛がる

マノン⑱ それぞれの知略

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 城にもどると、俺の部屋にマノンがいる。
 どうにもドス黒いオーラが背中から放たれていて、おれを感じながら問いかけた。


「何をしているんだ……?」

とうさつ動画の編集を」

「目をつぶってか? つうか、お前のほう、ついにパソコン並の処理能力まで手に入れちゃったのな」


 さて何を編集しているのか――と横からモニターをのぞめたらいいのだが、どうもマノンは脳内だけで処理をしているらしく、映像はどこにも見当たらない。
 まあ、あとで見せてもらえば良いだろう。
 もし見せられないときよぜつさせられたところで、あくまでマノンの脳内編集。
 見せろと強制することもできないし、とりあえず王位けいしよう選においては敵に当たるわけで、プロモーション映像のようなものだとしたら見せてくれなくても仕方がない。

 俺は町で買った紅茶の茶葉を、事前購入しておいた布製のティーバッグに入れる。同時に、用意された洋風なポットにじやぐちから水を注いで、ガス式コンロの上に置いた。
 生活魔法でガスに点火させると、そのまま十五分ほど待機。
 アルミのようには熱伝導率が高くないことと、部屋に置かれているものが備え付けではなく持ち運びのできる小さなガス式コンロで、火力の良さが相まってしまう。
 コップいつぱいかしすらこのざまというのは、日本では考えられない。
 だが、今では慣れて、この時間を好んでさえいる。

 ベッドにドサリとたおれて、重力も何もかもを放り出したきよな精神で十五分を過ごす。
 時間に追われないリラックス感は重要だ。戦場でも、仲間に二十分ほど警備を任せて、こうして休む時間を取り入れていた。
 毎回ベッドだとは限らないのが、悲しいものではあったが。

 ………………コポコポと湯のいた音が鳴った。
 軽くねむっていた意識を起こして、城のほこる綺麗な白磁のカップに茶葉を摘めたティーバッグを入れて、上からお湯を注いだ。
 ここからさらに三分ぐらい、うとうとした気分で過ごすと、しい紅茶のできあがりである。


「――――できた!」


 俺の大切な『うとうとリラックスタイム』を大きな声で邪魔してきたマノン。
 こいつのぶんは用意していない。
 なにせ紅茶が苦手でドバドバ砂糖をほうむものだから、わざわざ高い茶葉で飲ませる必要が無いんだ。
 結構、なけなしの金で買ったんだからな。
 まあ十四さい程度では、このしぶみがわからないのも仕方がなかろう。
 ズビリとすするように紅茶を飲んで、口腔に広がるほうじゆんな深みを味わった。


「さて……、早いところ国王との取引を終わらせないといけないな」


 なけなしの金で紅茶を買うえいゆうとは、一体。
 しかしパソコンの対価には、十分な金銭を。つまりばん・看板・かばんの鞄を要求するつもりだ。そうすれば俺は看板と鞄を得ることになる。
 いや、統一を好意的にとらえている町や村もあるから、地盤のかくとくもそう遠くはないだろう。
 リルには『俺たち対等だろ』という感じで接しているけれど、そんなものは今だけのこと。

 俺の弱点はこの中央区だった。
 東西南北四つの半島で俺の顔を知らない人間はいないが、唯一、争いの無かった中央区では知名度が足りない。活躍をしていない。
 だがチェンバーズ家のレイフさんは好感度マックス。
 リディアの弱みを握って重要ポイントである宗教を押さえたことだし、そろそろ差を付けていこうか。

 ――――着実に進みすぎて、こわいな。

 これがこうしようで五つの国を統一なんてはなわざを成し遂げる過程で身につけた、知略というもの――か。


「ちょーっぷ」


 優美に自画自賛へひたっていたところで、ひたいにマノンの手刀が落とされた。
 しかし『ぺち』という程度で、痛くもかゆくもない。



「どうしたんだ、マノン」

「だらだらだらだらと、地の文が長いのです!」

「たまには英雄の優雅な時間を表現させてくれ」

「だいたいティーカップ片手に大人ぶっていますけれど、全然格好よくないですからね?」

「ぶってるとか……。俺はもう二十一、心も体も立派な大人だ」

「女性経験もないくせに?」

「………………お前、段々とよごれてきたよな」

「そんなことないですよ。私とハヤトさんは、おたがいに清い、こ・ど・も♪」


 むっかつく……。
 これでも将来はしんを目指しているのに、思わず手刀一発ぐらいなら――と思ってしまった。
 いやまあ、何回かこいつには、やってるけどね。
 全て魔法を止めるためであって、さすがにいかりにまかせてはいない。
 大人の男は怒りにまかせて女の子に乱暴なんて、しないものである。


「それより、これを見てください!」

「んー?」


 自主的に映像を公開してくれたから、まあ断る必要も無いし、と、それをながめる。
 映像の中では、軽く目をせた俺に、リルがのぞきむように軽くかがんで『そういうところ、好きだよ』なんて言っていた。


「ぶはっ!」


 ……………………ひたすらわいいらしいリルに対して、映像の俺は、ついにかのじよの気持ちを無視できなくなったようで、紳士っぽくえりを正す。
 二人は正面を向き合い――


『リル――』

『ハヤトくん……』


「待て待て待て!! これを作った意図を言え!!」

「えっ。決まっているではないですか」

「わかんないから言えって」

「では、続きを」


 映像の中で俺の口がアップになり、何かを言う。
 言葉はかくされているが、次いで映像には『もだえるリディア』の姿が映っているから、これはまあ、あれだ。うん。
 どう見ても俺が言葉責めにしている。


「ふぇっふぇっふぇ。わかりましたか? 王族二人を同時に手にかけるなんて、悪い男ですねぇ。ふえふえふえふ」

「いやいやいや、ほとんどねつ造じゃねえか!?」

「事実を短くつなぎ合わせると、こうなるのですよ」


 くそっ。確かにその通りだから、言い返しようもない。
 でもこの編集は悪意満々にもほどがある!


「……なにが、目的だ」


 この映像が公開されれば俺は実質、しよけいである。
 ネットえんじようのない世界でまさか動画公開のおどしを受けるとは……。


「おおっ。さすがハヤトさん、話が早いですね! 私と日本でけつこんしましょう!」

「断る。お前、まだ十四だぞ? どんだけ生き急いでんだよ」

「じゃあこんやくで」

「日本で社会的に死ぬぐらいなら、いっそここで殺されるからな? これ以上、家族にめいわくをかけたくないんだ」


 マノンを日本へ連れ帰ったところで、俺は『どことも知れぬところからロリっこを連れ帰ったむす』になるわけで。
 その上、そいつと婚約させてくれなんて親に言ったら


『いっそこの子は、帰って来なかったと言うことに――』


 となってもおかしくない。今度こそ名探偵の出番である。


「――むぅ。わかりました。では要求のレベルを下げます」

「そうしてくれ」

「私に、日本がどんなところかを見せてください」

「は?」

しようかん術を使っていて気付きました。召喚には対価が必要で、創作物の世界にささげるものはりよくだと。たぶん、その空想世界にも魔力というがいねんが存在したからこそ、こうかんが成立したのだと思うのです」

「なるほど――」


 急に真面目な話になってきたな。これでは無視もちやしもできそうにない。


「きっと、ハヤトさんの対価には、相応の人間がわたされたと思うのです。この国から、日本へ」

「…………それは、何度も考えた。けれど、あんまり考えたくないんだ」

「しかし、もしその人が特定できれば、私の魔法はその人の周囲を映像化できるかもしれません。ハヤトさんだって、自分へのひとくうがどうなったか、知りたいですよね?」

「怖い言葉を使うな!! ――そりゃまあ、知りたいけどさ」

「じゃあ決まりです! そうさくしましょう、その人!」


 ……困ったな。
 その人については、もう見当が付いているわけで。
 …………うーん。
 でも、これはもしかしたらだれも不幸にはならないのでは?
 ――いやいや、リルがいたばさみになってつらい目にう可能性だって……。
 しかし『しつそうした父親』が日本で生きているかもしれないなら、見たいと願うのが人の心……というような気もする。
 むしろ、もしもリルの寝取られ性癖が治ってヒロインに決まったら。
 俺は一生このわくに口を閉じたままで、リルと幸せになれるのだろうか。


「――わかったよ。明日の朝、行動しよう」

「心当たりがあるのですか?」

「ああ。リルの親父さんだ」


 そうして翌朝、俺はマノンと共にリルの部屋へ向かうこととなった。
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