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異世界帰りへ⑧ その召喚術は○○を招く
国王は決断する
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昼食の席を、国王と共にすることになった。
場所は朝食夕食を食べる場所と同じ。ただ、普段はこの爺さん、昼食だけは席を外すことが多い。きっとゲームと召喚で忙しかったのだろう。
しかしまあ、マノンもはじめてこの場へ出てきてくれたことだし、話さないといけないことが山のようにあるから都合が良い。
さてと、どこから問い詰めようか――、と考えていると。
唐突に爺さんが喋りはじめた。
まだ問い詰めてないんだけどな。
「そろそろ、国王を退位しようと思っておる」
その言葉に、俺よりも周囲の侍従、侍医、料理人、近衛兵が大きく反応した。
「陛下!?」
レイフさんではない侍従の人が、言う。
「失礼ながら、国王に相応しい人物は、この国広しと言えど他におりません。どうか熟慮の上でご判断を――」
そうかね? 召喚術がいらないのなら、いくら王族が基本腐っていると言っても、ちゃんと探せば国王より正しい品格を持っている人はいると思うけれど。
ネトラレ属性さえなければ、リルでもいいわけで。
――まあ、周囲が納得するかは別問題だけど。
「国を想っての行動とは言え、ぶよぶよ騒ぎにドラゴン――。今や城も城下も大混乱であろう。責任を取らねばならん」
真面っぽいことを言ってまとめにかかっているけれど、国を想っての行動? 単にゲームとパソコンを買いたかっただけだろうが。
「しかし――ッ!」
侍従の人は真剣な表情だから完全に騙されているのだろうけれど、無理して引き留める必要はないと思いますよ?
十字大陸は統一したわけで、国家としてあんまり欲張ると、あとで痛いしっぺ返しに合うような気がする。
「なにより、ワシにも人生の余暇が欲しいのじゃ。即位からもうすぐ五十年にもなる。十字大陸を統一した今、ワシの役割はもう、終わったじゃろう」
「しかしっ!」
この人、しかし! しか言えないのかな。
まあ下手に口答えできない立場だからな。中世の縦社会面倒くさい……。
いや、日本でも社長が言うことに役員が口答えできない会社ぐらい、山ほどあるだろうけど。むしろ国レベルで見たって首相の周りがどうなっているのかなんて想像も付かないわけで……、案外、これは中世限定というわけでもないのかな。
どっちにせよ面倒くさいことに変わりは無いか。
「今後は、内政に力を入れることのできる人間が国王になるべきじゃ」
「し、しかし――ッ!」
いやいや、この爺さんの言葉を意訳すると『ゲームしたい』の一言だから。必死に止める必要ないから。
このやりとりはいつまで続くのだろう――、なんて思っていると、侍従がついに、しかし――に続く言葉を紡ぎはじめた。
「しかし――――っ。……いえ、陛下が即位されて、もうすぐ五十年。陛下は常にこの国に尽くして生きてこられました。私のような者が止めることは、失礼でしかないのでしょう……。ですが――っ」
「ここ数日の騒ぎで国民には不安が募っているじゃろう。治められる器は、ワシにはない」
全部あんたの仕業だけどな。
あれか? 問題だけ巻き起こしてトンズラしようって話か?
――まあ、爺さんが関わっていたら、ろくなことにならないだろうから。潔く引退してもらったほうが後世のため……とは思うけどさ。
「爺さん、あんたが引退したらヒロイン報酬の件はどうなる?」
「そなたと『国王』が定めるヒロイン――という契約じゃ。次なる国王が契約を引き継ぐこととなるじゃろう」
そうなると面倒くささが更に二倍増しだ。
「「――――えっ」」
ん? リルとマノンが妙な反応を示した。どうした?
「それってつまり、私が国王になれば――っ」
「私が国王になれば――っ」
おいっ。面倒くささ二倍どころじゃない展開にする気じゃないだろうな!?
「「私以外のヒロインは全員却下できる!!」」
最悪のハモりだった……。
妾の子で序列は低いと言えど、王族であるリルには、とりあえずの権利があるのだろう。
そして前例に倣って魔力で国王の座を掴めるのならば、マノンの右に出る者はいない。
「爺さん、王の座が空位だった場合の契約は、どうなる」
「継承を待つしかないじゃろう」
「よしっ、じゃあ交渉だ。パソコンが欲しいなら国王で居続けてくれ!」
「遊ぶ時間がないなら無意味じゃ。ワシはもっと熱中したい」
「国王のまま遊ぶ時間を確保すればいいだろ。今までだって――」
「国王のスケジュール管理というのは、それほど思い通りになるものではない。今までのことも、忙しさの合間を縫って、どうにか遊んできただけの話じゃ。もう、そのような生活は嫌じゃのう……」
それからも説得を続けたが、爺さんは絶対に首を縦へは振らず。
代わりにリルとマノンがブツブツと計略のようなものを、それぞれ別々に呟いていた。
これは異世界帰りが遠のいたな……。
というか、このままどちらかが即位してしまえば、俺の意思を挟むことが難しくなってしまう。どうしたものか――。
いっそ、この国に骨を埋めてしまうか?
ありえないな。こんな中世世界。日本に帰ったほうが楽しいことだらけだ。俺だって遊びたい。
…………でも。
よく考えてみると、日本に連れ帰ることができるのは、ヒロイン『一人』だけ。
パティとは袂を分かつ決心を一度付けているから、まあ、あんまり違和感はないんだけれど。リルとマノンのどちらかと、永遠に離ればなれ――か。
それは少し、寂しくなるかもしれないな。
「私以外の王族全員に、死の魔法を使えば……」
「ふぇっふぇっふぇ。リルがどんなことを企もうと、国を滅ぼすよ? の一言で私に決まりです。誰も逆らえません。ふえふえふえふえふ」
あ、やっぱりどっちもいらないです。お願いだからもう一人で帰らせて!!
「……ハヤトよ、そなたが立候補しても構わぬのじゃよ?」
「は――?」
「国の英雄であるハヤトには、その資格があるじゃろう。結果はどうあれ、名乗りを上げること自体には問題があるまい」
「そうか。…………そうだよ! 爺さん、それだ! 俺を後継者に指名することをパソコンの対価として――っ」
「嫌じゃ」
「は?」
「面白そうじゃから、王位継承は争奪戦としよう」
「いやいやいや、それならパソコンは譲らないからな?」
この爺さんは『喉から手が出るほど欲しいもの』と『面白そうだから見てみようかな』を天秤にかけることさえできないのか?
――――だが国王は、口の端をつり上げて不気味に笑った。
「どうもそなたは、自分にだけ交渉材料があると思っているようじゃの」
「今の爺さんに、俺を譲歩させる材料なんてあるのかよ」
真剣に問うが、国王の表情は変わらず不敵なままだ。
「ワシが国王でいる間は、ヒロイン契約によってワシとそなたの命が繋がっておる」
「ああ。そうだな」
「じゃあ――――、『パソコンくれなかったら生きてる意味ないしーっ、いっそ死んじゃおっかな―っ!』……これでどうじゃ?」
「ちょっ――、ジジイそれは反則だろ!?」
「老い先も短いし、の。自由に遊べる時間がないのなら、このまま名君として死ぬのも悪くはない」
おいおい。最強最悪の手札を切るつもりかよ――!
「お祖父様! それはなりません! ハヤトくんが死んでしまうなど――っ」
リルぅぅぅぅ。もう抱きついて泣いてしまいたい。
「――ちっ。あとで命を脅して後継者に指名させようと思ったのに。これでは魔力も無意味……っ」
マノンを落ち着かせる方法が知りたい。引きこもり願望さえなければ、良い子だと思ってたんだけどなぁ。妹みたいなマノンはどこへ……。
ひょっとして本人にとっては、それが不満だったのかな。
女の子って難しい。思春期なんてもっとわからん。
「はぁ……。ここで死んじまったら意味がないからな。――俺も立候補できるんなら、それで手を打つしかない――か」
そうして国王の退位が決まり、王位継承権の決定方法は、国王の最後の仕事として一任されることとなった。
場所は朝食夕食を食べる場所と同じ。ただ、普段はこの爺さん、昼食だけは席を外すことが多い。きっとゲームと召喚で忙しかったのだろう。
しかしまあ、マノンもはじめてこの場へ出てきてくれたことだし、話さないといけないことが山のようにあるから都合が良い。
さてと、どこから問い詰めようか――、と考えていると。
唐突に爺さんが喋りはじめた。
まだ問い詰めてないんだけどな。
「そろそろ、国王を退位しようと思っておる」
その言葉に、俺よりも周囲の侍従、侍医、料理人、近衛兵が大きく反応した。
「陛下!?」
レイフさんではない侍従の人が、言う。
「失礼ながら、国王に相応しい人物は、この国広しと言えど他におりません。どうか熟慮の上でご判断を――」
そうかね? 召喚術がいらないのなら、いくら王族が基本腐っていると言っても、ちゃんと探せば国王より正しい品格を持っている人はいると思うけれど。
ネトラレ属性さえなければ、リルでもいいわけで。
――まあ、周囲が納得するかは別問題だけど。
「国を想っての行動とは言え、ぶよぶよ騒ぎにドラゴン――。今や城も城下も大混乱であろう。責任を取らねばならん」
真面っぽいことを言ってまとめにかかっているけれど、国を想っての行動? 単にゲームとパソコンを買いたかっただけだろうが。
「しかし――ッ!」
侍従の人は真剣な表情だから完全に騙されているのだろうけれど、無理して引き留める必要はないと思いますよ?
十字大陸は統一したわけで、国家としてあんまり欲張ると、あとで痛いしっぺ返しに合うような気がする。
「なにより、ワシにも人生の余暇が欲しいのじゃ。即位からもうすぐ五十年にもなる。十字大陸を統一した今、ワシの役割はもう、終わったじゃろう」
「しかしっ!」
この人、しかし! しか言えないのかな。
まあ下手に口答えできない立場だからな。中世の縦社会面倒くさい……。
いや、日本でも社長が言うことに役員が口答えできない会社ぐらい、山ほどあるだろうけど。むしろ国レベルで見たって首相の周りがどうなっているのかなんて想像も付かないわけで……、案外、これは中世限定というわけでもないのかな。
どっちにせよ面倒くさいことに変わりは無いか。
「今後は、内政に力を入れることのできる人間が国王になるべきじゃ」
「し、しかし――ッ!」
いやいや、この爺さんの言葉を意訳すると『ゲームしたい』の一言だから。必死に止める必要ないから。
このやりとりはいつまで続くのだろう――、なんて思っていると、侍従がついに、しかし――に続く言葉を紡ぎはじめた。
「しかし――――っ。……いえ、陛下が即位されて、もうすぐ五十年。陛下は常にこの国に尽くして生きてこられました。私のような者が止めることは、失礼でしかないのでしょう……。ですが――っ」
「ここ数日の騒ぎで国民には不安が募っているじゃろう。治められる器は、ワシにはない」
全部あんたの仕業だけどな。
あれか? 問題だけ巻き起こしてトンズラしようって話か?
――まあ、爺さんが関わっていたら、ろくなことにならないだろうから。潔く引退してもらったほうが後世のため……とは思うけどさ。
「爺さん、あんたが引退したらヒロイン報酬の件はどうなる?」
「そなたと『国王』が定めるヒロイン――という契約じゃ。次なる国王が契約を引き継ぐこととなるじゃろう」
そうなると面倒くささが更に二倍増しだ。
「「――――えっ」」
ん? リルとマノンが妙な反応を示した。どうした?
「それってつまり、私が国王になれば――っ」
「私が国王になれば――っ」
おいっ。面倒くささ二倍どころじゃない展開にする気じゃないだろうな!?
「「私以外のヒロインは全員却下できる!!」」
最悪のハモりだった……。
妾の子で序列は低いと言えど、王族であるリルには、とりあえずの権利があるのだろう。
そして前例に倣って魔力で国王の座を掴めるのならば、マノンの右に出る者はいない。
「爺さん、王の座が空位だった場合の契約は、どうなる」
「継承を待つしかないじゃろう」
「よしっ、じゃあ交渉だ。パソコンが欲しいなら国王で居続けてくれ!」
「遊ぶ時間がないなら無意味じゃ。ワシはもっと熱中したい」
「国王のまま遊ぶ時間を確保すればいいだろ。今までだって――」
「国王のスケジュール管理というのは、それほど思い通りになるものではない。今までのことも、忙しさの合間を縫って、どうにか遊んできただけの話じゃ。もう、そのような生活は嫌じゃのう……」
それからも説得を続けたが、爺さんは絶対に首を縦へは振らず。
代わりにリルとマノンがブツブツと計略のようなものを、それぞれ別々に呟いていた。
これは異世界帰りが遠のいたな……。
というか、このままどちらかが即位してしまえば、俺の意思を挟むことが難しくなってしまう。どうしたものか――。
いっそ、この国に骨を埋めてしまうか?
ありえないな。こんな中世世界。日本に帰ったほうが楽しいことだらけだ。俺だって遊びたい。
…………でも。
よく考えてみると、日本に連れ帰ることができるのは、ヒロイン『一人』だけ。
パティとは袂を分かつ決心を一度付けているから、まあ、あんまり違和感はないんだけれど。リルとマノンのどちらかと、永遠に離ればなれ――か。
それは少し、寂しくなるかもしれないな。
「私以外の王族全員に、死の魔法を使えば……」
「ふぇっふぇっふぇ。リルがどんなことを企もうと、国を滅ぼすよ? の一言で私に決まりです。誰も逆らえません。ふえふえふえふえふ」
あ、やっぱりどっちもいらないです。お願いだからもう一人で帰らせて!!
「……ハヤトよ、そなたが立候補しても構わぬのじゃよ?」
「は――?」
「国の英雄であるハヤトには、その資格があるじゃろう。結果はどうあれ、名乗りを上げること自体には問題があるまい」
「そうか。…………そうだよ! 爺さん、それだ! 俺を後継者に指名することをパソコンの対価として――っ」
「嫌じゃ」
「は?」
「面白そうじゃから、王位継承は争奪戦としよう」
「いやいやいや、それならパソコンは譲らないからな?」
この爺さんは『喉から手が出るほど欲しいもの』と『面白そうだから見てみようかな』を天秤にかけることさえできないのか?
――――だが国王は、口の端をつり上げて不気味に笑った。
「どうもそなたは、自分にだけ交渉材料があると思っているようじゃの」
「今の爺さんに、俺を譲歩させる材料なんてあるのかよ」
真剣に問うが、国王の表情は変わらず不敵なままだ。
「ワシが国王でいる間は、ヒロイン契約によってワシとそなたの命が繋がっておる」
「ああ。そうだな」
「じゃあ――――、『パソコンくれなかったら生きてる意味ないしーっ、いっそ死んじゃおっかな―っ!』……これでどうじゃ?」
「ちょっ――、ジジイそれは反則だろ!?」
「老い先も短いし、の。自由に遊べる時間がないのなら、このまま名君として死ぬのも悪くはない」
おいおい。最強最悪の手札を切るつもりかよ――!
「お祖父様! それはなりません! ハヤトくんが死んでしまうなど――っ」
リルぅぅぅぅ。もう抱きついて泣いてしまいたい。
「――ちっ。あとで命を脅して後継者に指名させようと思ったのに。これでは魔力も無意味……っ」
マノンを落ち着かせる方法が知りたい。引きこもり願望さえなければ、良い子だと思ってたんだけどなぁ。妹みたいなマノンはどこへ……。
ひょっとして本人にとっては、それが不満だったのかな。
女の子って難しい。思春期なんてもっとわからん。
「はぁ……。ここで死んじまったら意味がないからな。――俺も立候補できるんなら、それで手を打つしかない――か」
そうして国王の退位が決まり、王位継承権の決定方法は、国王の最後の仕事として一任されることとなった。
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