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異世界帰りへ⑧ その召喚術は○○を招く

ご主人様

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 俺とリル、マノン、国王が集まった医務室の中で、サラマンダーの女性が寝台しんだいで眠っている。
 女性と呼ぶべきか少女と呼ぶべきかは、容姿では判断が付きづらい。

 大人っぽくも可愛い系の容貌ようぼうで胸はふくよか。
 それでいてしゆつも大目の服装だから女性と呼びたいところだけど、それだけで年齢がはかれるはずもなく、そもそもドラゴンである。


「――おっ、目が覚めたか?」


 しんだいの上で仰向あおむけになっていた彼女は、ゆっくりと目を開いた。


「ここは……?」

「心配しなくていい。倒れていたから保護をしただけだ。――自分の名前とか、わかることがあったら教えてほしい」

「――――名前は、ご主人様がつけるもの……」


 それはあれかな。主人公に自分の名前を付けて、ヒロイン役には好きな女の子の名前を付けて遊ぶやつかな? きみの出てくるゲームではそれで重度のトラウマを負った人たちが沢山いるんだよ? と言いたいところだけど、まあ、この子の責任じゃないしなぁ。
 サラマンダーならむしろ、悪戯いたずらにディスられた被害者の側……。
 だいたい、寝取られることが確定しているヒロインの名前を、自由に付けさせちゃいけないと思う。割とマジで。


「君のご主人様は、誰なのかな」

「……人間なら、どなたでも」


 まあプレイヤーは人間なら誰でもなれるから、そういうことになるのかな。


「私は玩具おもちゃなので」

「おいおい。いくらゲーム世界から出てきたと言っても、そこまで卑下ひげすることはないだろう」

「でも、事実だから」


 実際、テレビゲームというものは広義で言えば、玩具おもちやである。
 でも女の子が自分のことを玩具と表現するのは、物悲しい。
 さすがに居たたまれなくなったのか、となりで見守っていたリルが口を開く。


「ここで女の子を玩具としてあつかわないところが、ハヤトくんの良いところよね」


 いやいや。そんなことをしたら俺は、とんでもない鬼畜きちく野郎やろうだ。常識的な判断をしているに過ぎないのに、やたらと好意的に受け止められるのも困る。


「私ならペットにしますけど。ペットと書いて玩具と呼びます」


 なんかマノンが怖い。ずっと怖い。


「ワシは早くパソコンがしいのう」


 あんたが召喚したんだろうが!


「爺さん。召喚したのはあんたなんだから、名前ぐらい責任持って付けてやれよ」

「えぇー」

「なんで不満そうなんだ? ゲーム世界から女の子が出てきたんだ。夢が叶ったんじゃないのかよ」

「はぁ――。最近の若者は全く、何もわかっとらんのう」


 その言い方、なんかイラッとするな。


「ワシはゲームがしたいのじゃ。国王じゃぞ? 名君じゃぞ? 現実の女子おなごなど、とうの昔にきしておる」


 もうほんと、誰か、この爺さんを国王の座から降ろしてしまえよ。やりたい放題じゃねえか。


「――――そんじゃ仕方ない。安直あんちょくだけど、『サラ』ってのはどうだ? とりあえず名前がないと困るだろ」

「……はい。ご主人様」


 ん?


「おい。まさか名前を付けた人がご主人様になるとか――」

「私は、ご主人様の玩具です」


 なんだろう。どこか機械的な調子で感情が感じられないしやべり口だけど、言っていることはきわめて危なっかしい。


「ほら、面倒なことになった」

「やっぱり敵じゃないですか」


 うーん。ライカブルで好感度を確認。百パーセント。ああ、うん、これ面倒な展開だわ。
 でもこの子の場合、恋愛感情というわけでもない気がする。


「ご主人様、お恥ずかしいのですが」


 全然恥じらっているように見えない、無表情。


「きのこはありませんか?」

「きのこ――ねえ」


 この国でキノコを食べる習慣はない。
 毒性がある確率が高すぎるから、食べようとする人がいないだけの話なんだけど。


「爺さん、どこかできのこの保管とかしてないか?」

「食べもせぬ毒を置いているわけがないじゃろう」

「だよなぁ。――サラ、きのこ以外のものは食べられないのか?」

「いえ。ゴム以外なら、鉄でも土でも食べられますが」


 くぴぽ?


「一番の好物は毒きのこです」

「なにその嫌な自己紹介……」


 まあ、毒があってもいいのなら、森へ行けばいくらでもあるか。


「爺さん、手の空いてる兵とか使って、きのこ採集に行ってもらってくれ」

「えー」

「パソコンの取り引き、サラがこのままならやる必要はないからな?」

「任せるのじゃ」


 国王は急に胸を張って威厳いげんを出し、近くにいた兵にきびしい調子で指示を出した。
 げんっていうか、ただえらぶっているだけのように思えてきた。


「――ああ、そういや俺たち、起きてから何も食べてないな。もう昼か――」


 そうして、俺とリル、マノンは昼食を頂く運びとなった。
 ただ……。


「サラも一緒に食べるか?」


 一応、いておかねばなるまい。


「ちょっ、ハヤトくん!」

「この人、面倒に面倒を重ねるタイプです。――まあ、そこも良いのですけれど」


 んー。マノンを元に戻す方法はないかな? 興奮状態を脱したのか、ヤンデレの度合いは多少緩まったように感じられるけれど。
 それでも今までとの落差が激しすぎて、このデレはちょっとまない。
 答えを待っていると、サラは首を横へ振った。


「私にせんたくけんはありません」


 例えば、自分のことを玩具と呼ぶ彼女が、ゲームのキャラクターというよりもゲームそのものだったとしよう。
 多くのプレイヤーは、食事を取りながらゲームをプレイすることなんて、ない。まあポテチぐらいなら割とあるかもしれないけれど。
 ただ絶対に――というわけでもなく、ゲーム画面を前に食事を取る人だって、いることはいる。

 でもそこにゲーム側の意思なんてものは当然、存在しないわけで。
 そういう風に考えていくと、彼女の言葉にも一定の理解がおよんだ。
 ――――彼女には、設定されただけの意思しかない。
 きのこ好きというのも、恐らくは設定。


「うん。じゃあ食べてくるよ。兵隊さんがきのこを採ってきてくれるまで、大人しく待ってるんだぞ?」


 頭の上に手をポンと置いて、なでなでとしてやる。
 無表情で「……はい」と頷いてくれた。
 この様子なら、ご主人様プレイヤーを無視して破壊はかい行為こういを働くとか、そういう心配はいらないだろう。
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