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異世界帰りへ⑧ その召喚術は○○を招く

召喚!!!

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 玉座の後ろ側にある隠し通路――すべだい――をすべちる。
 ストン、と着地してすぐ、リルとマノンは


「なにここ。ちょっと赤いよ」

「目……でしょうか? 不気味すぎです」


 と、口々に言う。


「お前たちは機械的な光に慣れてないからなぁ」


 単純な話。
 窓もない真っ暗な部屋の中でえきしようテレビの小さな赤い電源ランプだけが点灯していて、それを除いたいつさいの明かりが消えているものだから……、ということだ。
 この赤いランプも、見慣れてなけりゃ不気味に感じるのだろう。
 なにせ天然の明かりとか火やほのおのものとは、全くおもむきちがうわけで。さらに言えば、赤はけいかいしよくでもある。


「マノン、光魔法は使えるな?」

「もちろんです! ――けど、きっと失明しますよ?」

「あ、じゃあいいです、はい……」


 この子はりよくが強大すぎて、せいぎよが下手くそ。
 魔法の原理を理解してコピーするのは得意なようだけれど、制御に関してはそうでもないようだ。
 強大すぎる魔力のコントロールなんてのは、マノン以外のだれひととしてぶち当たったことのないかべなわけで、どのぐらい難しいのかなんて皆目かいもく見当も付かない。
 だれかので身に付くわけではない、もしくはコピー元が魔力を最大限使用する前提だから制御不能。いくらか理由は心当たるけれど、これはもう本当に、マノンだけが知る世界の話だ。

 まあ盗撮魔法に限っては、光に移動、念写に遠視――と複雑な組み合わせであり、同時使用する魔法の種類が多いから、力が分散してどうにかなっているようだ。
 それでも、あのへきめんいつぱいに明るくフルカラーでとうえいする状態なわけで、パティが知ったら、また泣きそうな話である。


「光魔法で作った光源の周りをやみ魔法で包むという手もありますが」

「電球のガラスを黒くりつぶすようなもんか」

「やりますか?」


 この場面でじゆんすいな光魔法だけを行使すれば、つぶし以外の何物でもないのだろう。
 しかし闇魔法でしやだんすれば――――って、それ結局、くらやみになるんじゃないかな。
 そういや、初めて会った日に太陽光すら遮断する暗闇を作り上げていた。あくまで太陽そのものではなく地上に届いた光をさえぎっているだけだけれど……。結果がわからない魔法というのはこわすぎる。


「私がやるわ」


 リルが言って、両手の中に小さな光の球を創り出した。
 豆電球より少し明るい程度だけど、この世界に来てから魔法を覚えはじめた俺がやるよりもはるかにマシだ。
 というか、これがこの国の『勉強して使えるようになる魔法』としてはくつのレベルである。
 生活魔法なんて言っても、火を使うには魔法で種火を起こしてわらたきぎに着火させるわけで、ずっと魔法で火をき続けることはできない。

 同様に光だって、豆電球程度かそれ以下が限界で、更に言えば、それほど長くも続けられない。
 夜に明かりを採るならロウソクに火をともすか、暖炉だんろの火にたよるか、もしくは貴族なら高価なガス灯を持っている。
 生活の利便性をほんの少し上げるだけで、魔法で生活ができているわけでは、決してない。
 ちゆうはんな世界だな。全く。


「ちょっと待ってろよ。どっかにリモコンがあるはずだ――――。ああ、あったあった。ほれ」


 ピッと懐かしすぎる電子音が鳴って、液晶テレビの電源ランプが赤から緑に変わった。


「考えてみたら、この世界でテレビなんて見られないだろうに。液晶テレビじゃなくてパソコン用のモニタとかで良かったんじゃねえの」


 憎々にくにくしさをぶつけるような俺のつぶやきに、リルは「ごめん、なんの話かわからないんだけど……」と応じる。
 学校じゃ、電化製品ことは教わっていないみたいだな。
 サラマンダーとか、明らかに特定のテレビゲームからえいきようを受けた痕跡こんせきはあっても、テレビゲームという単語は教科書にも校舎にも書かれていなかった。

 ならば、存在を隠していた――ということだろう。
 まあ、日本文化をガチでしようかいしてしまったら、あまりの文化レベルの違いにヒロイン希望者がさつとうしてもおかしくない。


 ――――くにより遙かにすぐれた国など、存在しない。


 そこは権力で国民を統治する国王として、絶対に外せない勘所かんどころだったのだと想像できる。
 こういうところだけ、しっかり名君としての仕事をしているってのは、ちょっと腹立つな。


「じゃ、とりあえずゲームコレクションを拝見させてもらいますか」


 ケーブルのチェックから。……久々に見たな、赤白黄のケーブル。
 そしてスーファミのスイッチをオン。さっているゲームタイトルは――――。


「って、『どきどきメモリアル』かよ。もうちょっと自分のねんれいを考えろっての」


 すでにテレビにはタイトル画面が表示されている。スーファミの起動はやっ!! カセットの力はんないな。
 ――にしても、いそいそと『どきメモ』のヒロインをこうりやくする老人……か。
 そう考えると、名君とかなんとかが全部ぶちこわしのように感じる。
 リルは不思議そうに本体をながめて、指先で軽くツンツンといてみたりしている。カセットと本体の接触せっしょくはデリケートだということを、あとで教えておこう。


「これ、どんなものなの? 女の子の絵がいてあるけれど」

「恋愛シミュレーションゲームの名作だ。要するに……、んー」


 テレビゲームを知らない人間にテレビゲームを説明するって、思いのほか難しいな。


「とにかく、画面に出てくる女の子と、疑似ぎじ恋愛をするんだ」

「ふーん。夜のお店みたいな感じ?」

「全然違う」


 だめだ。これは実際にプレー画面を見せるほうが早いかもしれない。


「どっちにしても、女の子と遊ぶのよね?」

「まー、ザックリ言うとそうだな。日本じゃ『英雄、色を好む』ということわざもあるけど、爺さんが恋愛シミュレーションにいそしむなんてのは、元気すぎるしようだ」

「英雄って、じゃあハヤトくんも色を好むの?」


 …………そういや、俺、英雄だった。


「…………まあ、ほどほどに」

「夜のお店に行って、胸に顔を埋めるぐらいには?」

「それは忘れてくれ……」


 めちゃくちゃわいい顔でくすくす笑われる。なんだか最初にこの話を聞かされたときとは、反応が違ってる気がするな。
 ひょっとして、お店はうわじゃないからって許してくれる、寛大かんだいな心のよめさんになったりするのだろうか。
 それならうれしい。られさえしなければ本当に最高のヒロインだ。伝説の木の下で告白されちゃったらどうしよう。
 割と本気で、うっかり受け入れてしまいそうなのが怖い。


「ん? ――――ハヤトさん、ここに手帳がありますけれど」


 唐突とうとつにマノンが言って、B5サイズぐらいの手帳をわたしてきた。
 日本製ではなく、この国の王族貴族が使う、厚くて上質な紙と動物の本革が使われたクラシカルな手帳だ。


「国王の手帳――か。これは、見ておいたほうが良さそうだな」


 ページを開いてみると、どうもこの爺さん、ガチで伝説の木の下での告白イベントにいどんでいるようで……。
 どきメモの攻略情報が、この世界の言葉で、これでもかと言うほど大量に書かれていた。
 老人が手書きで記した、どきメモの攻略手帳……。これは切ない。
 ただまあ、俺の語学力じゃ解読に時間がかかりそうだ。


「…………げっ、『同級生スクールメイト2』の攻略まであるじゃねえか」


 あの爺さん、スーファミでギャルゲーにまるとか、日本でもめずらしい人種になっちゃってるぞ……。
 買ってから自分の嗜好しこうに気付いちゃったのかな。
 スーファミと言えば王道RPGロールプレイングゲームとか、土管工の兄弟やきようりゆうかつやくするアクションゲームを中心に遊ぶものだと思うんだけど。


「――――あの、ハヤトさん」


 マノンが、さっきよりも深刻そうな声のトーンで呼びかけてきた。


「どうした?」


 何があったのかと、かのじよを見る。
 すると壁にある城下町の地図を、スッと指差した。


「急激に魔力が吸われています。この向こうです」

「マノンには、魔力の流れがわかるのか?」


 ファンタジー世界じゃありがちなことだけれど、この世界でそういう話は聞いたことがない。


「いえ――。こんなことは初めてなのです。でもちがいなく、その壁の向こう側で私の魔力が消費されています。それも、大量に」


 目に見えるものではないから、感覚の世界――か。
 しかし今の状況では、マノンの言葉を信じるほかないだろう。


「リル、あの壁を調べるぞ」

「うんっ」


 そうして俺たちは、隠し部屋の更に先にある隠し通路を発見した。
 この道の先に国王が召喚術を使う部屋がある――。
 いよいよめる時だと、みたいところなのだが。
 魔力が吸われていると言ってからずっと続くマノンの不安そうな面持おももちを見ると、心配ばかりがつのった。
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