48 / 93
異世界帰りへ⑥ その学校は○○の痕跡を残す
リル⑭ ほとんど好きだけど残りのちょっとが邪魔をする
しおりを挟む
ふんだんに木材が使われた校舎はとても日本風で、見た目の印象もそうだが漂う木材の香りがこの世界では珍しい木造建築を想起させ、どこかノスタルジックな印象を受ける。
「日本には、木の建物が多いんだよね?」
「いや、そりゃ多いけどさ」
ただ、木造の学校というのは些か懐古的すぎるかもしれない。
「学校は普通、鉄筋コンクリートだ。真っ平らな石造りみたいなもんだな」
「ふーん。じゃあ王城とも、そんなに変わらないのね」
「いや、城みたいな豪勢な感じとも違う。こう――無機質で、人が閉じ込められる檻みたいなイメージだ」
「…………日本って、大丈夫な国……なんだよね?」
そう言われてもねえ。
この国で学校と言えば、上流家庭以上が通う特別な場所だ。
中流家庭程度じゃ子供は労働力であって、学校に通っている暇なんてなく、識字率の向上を目指しているような段階である。
つまり学校は上流家庭のものであり、校舎も上流に相応しい造りとなっている。
対して日本は義務教育制度。上流も中流も下流も全ての家庭の子供が、何かしらの形で学校へ通うわけだ。
もちろん一部の私立校のように潤沢な資金で上流に見合った環境を提供する場合もあるけれど、そうでない場合はコストが優先される。
多少というか、それなりに無機質な造りになるのは、仕方のないことだろう。
「日本の子供は小さい頃から、密室に集団で放り込まれることに慣らされるんだ。そこに馴染めなければ、マノンみたいに引きこもることになりかねない。王族の視点から見れば考えづらいだろうけどな」
言いながら思ったけれど、日本の学校も結構なハードモード環境である。
「そうねぇ。養成学校も日本に倣って狭い教室に人を押し込める形だったから、私もここに通い始めてすぐの頃は、中々慣れなくて苦労したわ」
おっ、マノンに続いてこいつも引きこもり体質か?
ネトラレなんてとんでもない属性を抱えているんだ。マノン級じゃなければ、多少の引きこもり願望ぐらいは余裕で受け入れられる。
「学校の中で唯一、私だけが王族だったのよ。それで集められたのは、王族貴族とか関係なしに見目と器量の良さが優先。……普通、そんなことはありえないから。やっぱり最初は一歩引かれているというか、誰も話しかけてくれなくて、孤立したわ」
――王族は嫌われ者。
そんな状況で平民の中に放り込まれたわけだから、境遇に同情すべき部分はあるのかもしれないな。
「溶け込むのには、どれぐらいかかったんだ?」
「三年かな」
結構長いな。日本の中学や高校なら卒業してしまうぞ。
「十三歳から通い始めて、十六歳になってようやく、人と喋り始めたの。周りの見る目も、少しずつ変わってきていたしね。あの子は本当に王族なのか? みたいな噂も流れていて」
結構苦労してるんだな……。
三年間も誰とも喋らないで学校に通い続けるって、引きこもり体質どころか精神的にタフすぎるように思える。
一人を好む俺だって、もしリルと同じ環境だったら、どうなっていたことか。
「――ま、リルの行動を見ていたら、本当に王族なのか疑わしくなる気持ちもわかるけどな」
「どういう意味よ」
教室の扉の前で立ち止まったリルを、正面に見据える。
王族であることに誇りを抱いている彼女は、その噂を快く思わなかったのかもしれない。
しかし俺みたいな普通の生まれと育ちの人間から見れば、真逆である。
だから、全くその凄さに気付いていないお嬢様に、しっかりと気持ちを伝えた。
「――リルが王族に見えないってのは、王族なのに平民に頭を下げたり、王族だからって偉ぶっていなかったり、面倒ごとに積極的に巻き込まれていったり、それでいて勉強熱心ってことだ。――――何より、生まれや育ちで人を分けないだろ? そういう王族とは思えないところ、俺は好きだぞ」
「す……好き――って…………」
好感度、ギュゥイーンと上昇中。
……あれ? まずい。予想外の反応だぞこれ!
「そっ、そっか……。ハヤトくん、私のこと……」
「いやいやいや、そういうところが好きってだけで、全体を見てどうこうでは――っ」
と、一歩引いて彼女の全身を視界に収めた。
美しく光沢を帯びた栗色の髪に、ちょっと性格がキツそうな青っぽい目。ほんの僅かに釣り目で、可愛いと美しいの良いところ取りをした丁度良い塩梅だ。
肩幅は少し狭くて女の子らしく、胸はしっかり主張して、全体はスラッとしたほどほどの細身。
…………いやこれ、反則だろ。
「……わかったよ。外見と性格は好みだ! むしろドストライクです!」
「――――――やだ、恥ずかしい……っ」
おい。本気で恥じらうな。マジで惚れちゃうからやめろ!
「でもネトラレはダメだからな! それで全部台無しだ!!」
「なっ――。寝取られのどこがダメなのよ!?」
「どこがダメかもわかってない時点で、完璧にアウトなんだよ!!」
「ダメなことはわかってるわよ! でもその背徳感が、愛を加速させるの!!」
おぅ……。割と最低な発言だぞ、それ……。
浮気する人の言い分を一行でまとめました、みたいな。
日本の男性芸能人がそれを言ったら、多分、二度と復帰できないか不倫文化の象徴となるか、二択を迫られる。
もう残念すぎてガッカリすぎて、言葉も出ない。
好感度も少し下がった……けど、それでもまだ九十パーセントぐらいあるな。面倒なことにならなきゃいいけれど。
「…………それに私は、お母さんのこと信じてるから」
「――ん? 今、なんて言った?」
よく聞こえなかったけれど、お母さんがどうのこうのって……。
「なんでもない! それより、教室に入るわよ!」
「お、おう」
ちなみにマノンは俺の昔の好みに合わせて無口キャラを装い、パティは目下権力に逆らっているためまだお口にチャック中だ。
「日本には、木の建物が多いんだよね?」
「いや、そりゃ多いけどさ」
ただ、木造の学校というのは些か懐古的すぎるかもしれない。
「学校は普通、鉄筋コンクリートだ。真っ平らな石造りみたいなもんだな」
「ふーん。じゃあ王城とも、そんなに変わらないのね」
「いや、城みたいな豪勢な感じとも違う。こう――無機質で、人が閉じ込められる檻みたいなイメージだ」
「…………日本って、大丈夫な国……なんだよね?」
そう言われてもねえ。
この国で学校と言えば、上流家庭以上が通う特別な場所だ。
中流家庭程度じゃ子供は労働力であって、学校に通っている暇なんてなく、識字率の向上を目指しているような段階である。
つまり学校は上流家庭のものであり、校舎も上流に相応しい造りとなっている。
対して日本は義務教育制度。上流も中流も下流も全ての家庭の子供が、何かしらの形で学校へ通うわけだ。
もちろん一部の私立校のように潤沢な資金で上流に見合った環境を提供する場合もあるけれど、そうでない場合はコストが優先される。
多少というか、それなりに無機質な造りになるのは、仕方のないことだろう。
「日本の子供は小さい頃から、密室に集団で放り込まれることに慣らされるんだ。そこに馴染めなければ、マノンみたいに引きこもることになりかねない。王族の視点から見れば考えづらいだろうけどな」
言いながら思ったけれど、日本の学校も結構なハードモード環境である。
「そうねぇ。養成学校も日本に倣って狭い教室に人を押し込める形だったから、私もここに通い始めてすぐの頃は、中々慣れなくて苦労したわ」
おっ、マノンに続いてこいつも引きこもり体質か?
ネトラレなんてとんでもない属性を抱えているんだ。マノン級じゃなければ、多少の引きこもり願望ぐらいは余裕で受け入れられる。
「学校の中で唯一、私だけが王族だったのよ。それで集められたのは、王族貴族とか関係なしに見目と器量の良さが優先。……普通、そんなことはありえないから。やっぱり最初は一歩引かれているというか、誰も話しかけてくれなくて、孤立したわ」
――王族は嫌われ者。
そんな状況で平民の中に放り込まれたわけだから、境遇に同情すべき部分はあるのかもしれないな。
「溶け込むのには、どれぐらいかかったんだ?」
「三年かな」
結構長いな。日本の中学や高校なら卒業してしまうぞ。
「十三歳から通い始めて、十六歳になってようやく、人と喋り始めたの。周りの見る目も、少しずつ変わってきていたしね。あの子は本当に王族なのか? みたいな噂も流れていて」
結構苦労してるんだな……。
三年間も誰とも喋らないで学校に通い続けるって、引きこもり体質どころか精神的にタフすぎるように思える。
一人を好む俺だって、もしリルと同じ環境だったら、どうなっていたことか。
「――ま、リルの行動を見ていたら、本当に王族なのか疑わしくなる気持ちもわかるけどな」
「どういう意味よ」
教室の扉の前で立ち止まったリルを、正面に見据える。
王族であることに誇りを抱いている彼女は、その噂を快く思わなかったのかもしれない。
しかし俺みたいな普通の生まれと育ちの人間から見れば、真逆である。
だから、全くその凄さに気付いていないお嬢様に、しっかりと気持ちを伝えた。
「――リルが王族に見えないってのは、王族なのに平民に頭を下げたり、王族だからって偉ぶっていなかったり、面倒ごとに積極的に巻き込まれていったり、それでいて勉強熱心ってことだ。――――何より、生まれや育ちで人を分けないだろ? そういう王族とは思えないところ、俺は好きだぞ」
「す……好き――って…………」
好感度、ギュゥイーンと上昇中。
……あれ? まずい。予想外の反応だぞこれ!
「そっ、そっか……。ハヤトくん、私のこと……」
「いやいやいや、そういうところが好きってだけで、全体を見てどうこうでは――っ」
と、一歩引いて彼女の全身を視界に収めた。
美しく光沢を帯びた栗色の髪に、ちょっと性格がキツそうな青っぽい目。ほんの僅かに釣り目で、可愛いと美しいの良いところ取りをした丁度良い塩梅だ。
肩幅は少し狭くて女の子らしく、胸はしっかり主張して、全体はスラッとしたほどほどの細身。
…………いやこれ、反則だろ。
「……わかったよ。外見と性格は好みだ! むしろドストライクです!」
「――――――やだ、恥ずかしい……っ」
おい。本気で恥じらうな。マジで惚れちゃうからやめろ!
「でもネトラレはダメだからな! それで全部台無しだ!!」
「なっ――。寝取られのどこがダメなのよ!?」
「どこがダメかもわかってない時点で、完璧にアウトなんだよ!!」
「ダメなことはわかってるわよ! でもその背徳感が、愛を加速させるの!!」
おぅ……。割と最低な発言だぞ、それ……。
浮気する人の言い分を一行でまとめました、みたいな。
日本の男性芸能人がそれを言ったら、多分、二度と復帰できないか不倫文化の象徴となるか、二択を迫られる。
もう残念すぎてガッカリすぎて、言葉も出ない。
好感度も少し下がった……けど、それでもまだ九十パーセントぐらいあるな。面倒なことにならなきゃいいけれど。
「…………それに私は、お母さんのこと信じてるから」
「――ん? 今、なんて言った?」
よく聞こえなかったけれど、お母さんがどうのこうのって……。
「なんでもない! それより、教室に入るわよ!」
「お、おう」
ちなみにマノンは俺の昔の好みに合わせて無口キャラを装い、パティは目下権力に逆らっているためまだお口にチャック中だ。
0
お気に入りに追加
73
あなたにおすすめの小説
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
私は、忠告を致しましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。
ロマーヌ様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
【完結】貴方と貴方のとなりのあの子を見倣います!
乙
恋愛
え?
何をしているのか?ですか?
貴方があの方をお褒めになるので、私も彼女を見習って改める事にしましたの。
喜んでくれると思っていた婚約者様は何故か不機嫌そうです。
何故なのでしょう_____?
※ゆるふわ設定
※1話と2話少し内容を修正いたしました
※お待たせしてしまい申し訳ございません。
完結まで毎日予約投稿済みです。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる