45 / 93
異世界帰りへ⑤ 国王は新たな○○を画策する
リル⑪ プロヒロインは怠らない
しおりを挟む
玉座の間を出て、リルの部屋へと向かう。
ドアをノックすると三秒ぐらいで開けてくれた。
基本的にこいつは、ノックをされてから開けるまでが早い。常に準備ができていると言わんばかりである。
「どうしたの? ――って、珍しい組み合わせね」
「色々あってな」
リルは可愛らしく小首を傾げた。
ほんと、たった一つの仕草がすんごい可憐で困る。さすが養殖ヒロイン、よく訓練されたものだ。
俺とパティは一緒に旅をした仲間であり、マノンは俺の部屋に入り浸っているから、それぞれとの組み合わせは珍しくない。
けれどパティとマノンが一緒にいるというのは、確かに珍しい。パティはマノンを嫌っているし、マノンはパティを蔑むかの如く煽るからな。
『ぷぷっ。そんなに一生懸命勉強して私の下なのですか? ふえふえふえふ』――――ってな具合に。
「ちょっと俺の部屋に来てくれないか」
「ここじゃダメなの?」
「いや、その……女の子の部屋とか、緊張するし」
「なんでいきなり純情キャラみたいになってるのよ。気持ち悪っ! ――別に、ハヤトくんに見られて困るものなんて全部仕舞ってあるから、問題ないわ。入って」
見られちゃ困るものはあるんだな。――って、そりゃ下着とか色々あるわな。
俺としてはマノンの魔法が展開できて人の目に触れない場所であればどこでもいいから、この際、誰の部屋かはあまり関係がないか。造りは同じだし。
「じゃあ、お邪魔します」と軽く緊張しながら言って中へ歩を進める。後ろからマノン、パティが続いた。
うわーっ、なんかすっげえ良い匂いがするんだけど!
めっちゃキレイに片付けられているし、一個だけとはいえザ・女の子の部屋の定番、ぬいぐるみも置いてある。大きめの姿見もあって、こんな中世ファンタジー世界なのにきっちり『女の子の部屋感』が醸し出されている。
ちょっとした感動ものだな……。
ここへ住み始めた日に少しだけ中を覗き見てしまったけれど、あの時は衣装ケースやら調理道具やらが散乱していて、今の様子とは全く違っていた。
初日に部屋を覗かれたくなかったのは、まだ女の子の部屋になっていないから。
今入れてくれたのは、もう女の子の部屋が完成しているから――ってことだろうか。
過剰にフェミニンじゃないのが凄く良い塩梅だ。これも俺の好みを把握してのことだろう。
「――あっ、なんか変なこと考えた顔してる!」
人差し指を軽く上に向けながら、のぞき込むような姿勢で言われる。そのあざとい定番ポーズやめてくれ。見目が良いと破壊力あるから。
「へっ、変なことは考えてねえよ! ……ただその、この部屋も俺の好みに合わせたのかなぁ…………って。もしそうだとしたら、なんか悪いな、って、な。そう思っただけだ」
「んーっ、確かにハヤトくんの『理想の女の子の部屋』は教えられたわ」
なんか個人情報が筒抜けになっているみたいで、精神的に堪えるものがあるな……。
「『田舎から上京してきたばかりの大学生が住んでいる部屋』――だっけ? お祖父様は『地方の村から城下町に引っ越してきた学生のイメージじゃ!』って言っていたけれど、全然想像が付かないのよね。だからこれは、私流のアレンジ」
「…………なんかごめん。ほんとごめん」
「具体的なところは、ピンクのカーテンとちっちゃい折りたたみ式テーブル。あとシングルベッドにぬいぐるみが少々――。観葉植物とマグカップがあるとなお良し。部屋に男を入れたのは初めて――」
これ、ヒロイン養成という名の性癖暴露じゃね……?
「一応、全部ご希望通りにしてありますけど?」
言われて一つ一つの小物を見ると、確かにぬいぐるみ(この世界で人気の、猫耳の熊っぽい獣を元にしたマスコット)はシングルベットの枕横にきっちり置かれているし、ちっちゃい木製の折り畳みテーブル、そして観葉植物とマグカップもあり。
ただその木製テーブルが、いかにも腕の良い木工職人が作りました――って感じで、俺の思い描く『とりあえず安くて軽いものを選びました』とは真逆になっているのが痛い。
客を招く茶室にでも置いてほしいぐらいの良いテーブルなんだけど……ね。
観葉植物も、小さくて丸っこいサボテンぐらいでよかったんだけれど、全高二メートル近い南洋系のものがドデンと部屋の隅に構えている。部屋そのものが俺の思い描いていたものより二倍以上広いから、大きさの割に目立たなくて済んでいるけれど。
…………細かく見ると、やっぱり少し違うな。
もっとこう、百均とニ○リで集めた家具で仕上がっている感じをイメージしてたんだけど。
「この匂いは、香水か?」
「えーっと、ちょっと待っててね」
そう言うとリルはベッド横の小振りな棚へ向かって歩き、引き出しから一冊のノートを取り出した。
「香水……香水……。あ、あった! 『香水は二十台中盤からが好ましい。特に十代の女の子はシャンプーの香りがベスト』。――私は十八だから、香水は使わないようにしてるわ」
「ごめんなさい。プロヒロインを侮っていました。本当にごめんなさい……!」
学校で教わった『俺の好み』をしっかりノートに書き写して勉強していた――ってことだろう。首席の名は伊達じゃないな。あとやっぱり性癖の暴露だ、これ。
「なんかさっきから謝られてばっかりなんだけど。――ふふっ、まあ可愛いから、いいわ。で、要件ってなに?」
おぅ……。年下に可愛いとか言われてしまったよ。
マノンは俺とリルの会話の最中、遠慮なくベッドにドサッと乗っかかって、靴を放り出してから思う存分に足を伸ばして座っている。これはこれで小ささが強調されていて、ぬいぐるみみたいに可愛い。
他方、パティは散々泣いて疲れたのか、立ったまま首の角度を保持できず何度もカクッと頭を落としていた。子供かお前は! うちの母ちゃんが『あんたは立ったまま寝る子でねえ』って言ってたの思い出したわ!
「とりあえず、これを見て欲しい。――マノン、頼む」
「りょーかいですっ」
珍しく張り切って敬礼のポーズまでしてくれたマノンが、例の盗撮魔法で問題の場所を映し出した。
ドアをノックすると三秒ぐらいで開けてくれた。
基本的にこいつは、ノックをされてから開けるまでが早い。常に準備ができていると言わんばかりである。
「どうしたの? ――って、珍しい組み合わせね」
「色々あってな」
リルは可愛らしく小首を傾げた。
ほんと、たった一つの仕草がすんごい可憐で困る。さすが養殖ヒロイン、よく訓練されたものだ。
俺とパティは一緒に旅をした仲間であり、マノンは俺の部屋に入り浸っているから、それぞれとの組み合わせは珍しくない。
けれどパティとマノンが一緒にいるというのは、確かに珍しい。パティはマノンを嫌っているし、マノンはパティを蔑むかの如く煽るからな。
『ぷぷっ。そんなに一生懸命勉強して私の下なのですか? ふえふえふえふ』――――ってな具合に。
「ちょっと俺の部屋に来てくれないか」
「ここじゃダメなの?」
「いや、その……女の子の部屋とか、緊張するし」
「なんでいきなり純情キャラみたいになってるのよ。気持ち悪っ! ――別に、ハヤトくんに見られて困るものなんて全部仕舞ってあるから、問題ないわ。入って」
見られちゃ困るものはあるんだな。――って、そりゃ下着とか色々あるわな。
俺としてはマノンの魔法が展開できて人の目に触れない場所であればどこでもいいから、この際、誰の部屋かはあまり関係がないか。造りは同じだし。
「じゃあ、お邪魔します」と軽く緊張しながら言って中へ歩を進める。後ろからマノン、パティが続いた。
うわーっ、なんかすっげえ良い匂いがするんだけど!
めっちゃキレイに片付けられているし、一個だけとはいえザ・女の子の部屋の定番、ぬいぐるみも置いてある。大きめの姿見もあって、こんな中世ファンタジー世界なのにきっちり『女の子の部屋感』が醸し出されている。
ちょっとした感動ものだな……。
ここへ住み始めた日に少しだけ中を覗き見てしまったけれど、あの時は衣装ケースやら調理道具やらが散乱していて、今の様子とは全く違っていた。
初日に部屋を覗かれたくなかったのは、まだ女の子の部屋になっていないから。
今入れてくれたのは、もう女の子の部屋が完成しているから――ってことだろうか。
過剰にフェミニンじゃないのが凄く良い塩梅だ。これも俺の好みを把握してのことだろう。
「――あっ、なんか変なこと考えた顔してる!」
人差し指を軽く上に向けながら、のぞき込むような姿勢で言われる。そのあざとい定番ポーズやめてくれ。見目が良いと破壊力あるから。
「へっ、変なことは考えてねえよ! ……ただその、この部屋も俺の好みに合わせたのかなぁ…………って。もしそうだとしたら、なんか悪いな、って、な。そう思っただけだ」
「んーっ、確かにハヤトくんの『理想の女の子の部屋』は教えられたわ」
なんか個人情報が筒抜けになっているみたいで、精神的に堪えるものがあるな……。
「『田舎から上京してきたばかりの大学生が住んでいる部屋』――だっけ? お祖父様は『地方の村から城下町に引っ越してきた学生のイメージじゃ!』って言っていたけれど、全然想像が付かないのよね。だからこれは、私流のアレンジ」
「…………なんかごめん。ほんとごめん」
「具体的なところは、ピンクのカーテンとちっちゃい折りたたみ式テーブル。あとシングルベッドにぬいぐるみが少々――。観葉植物とマグカップがあるとなお良し。部屋に男を入れたのは初めて――」
これ、ヒロイン養成という名の性癖暴露じゃね……?
「一応、全部ご希望通りにしてありますけど?」
言われて一つ一つの小物を見ると、確かにぬいぐるみ(この世界で人気の、猫耳の熊っぽい獣を元にしたマスコット)はシングルベットの枕横にきっちり置かれているし、ちっちゃい木製の折り畳みテーブル、そして観葉植物とマグカップもあり。
ただその木製テーブルが、いかにも腕の良い木工職人が作りました――って感じで、俺の思い描く『とりあえず安くて軽いものを選びました』とは真逆になっているのが痛い。
客を招く茶室にでも置いてほしいぐらいの良いテーブルなんだけど……ね。
観葉植物も、小さくて丸っこいサボテンぐらいでよかったんだけれど、全高二メートル近い南洋系のものがドデンと部屋の隅に構えている。部屋そのものが俺の思い描いていたものより二倍以上広いから、大きさの割に目立たなくて済んでいるけれど。
…………細かく見ると、やっぱり少し違うな。
もっとこう、百均とニ○リで集めた家具で仕上がっている感じをイメージしてたんだけど。
「この匂いは、香水か?」
「えーっと、ちょっと待っててね」
そう言うとリルはベッド横の小振りな棚へ向かって歩き、引き出しから一冊のノートを取り出した。
「香水……香水……。あ、あった! 『香水は二十台中盤からが好ましい。特に十代の女の子はシャンプーの香りがベスト』。――私は十八だから、香水は使わないようにしてるわ」
「ごめんなさい。プロヒロインを侮っていました。本当にごめんなさい……!」
学校で教わった『俺の好み』をしっかりノートに書き写して勉強していた――ってことだろう。首席の名は伊達じゃないな。あとやっぱり性癖の暴露だ、これ。
「なんかさっきから謝られてばっかりなんだけど。――ふふっ、まあ可愛いから、いいわ。で、要件ってなに?」
おぅ……。年下に可愛いとか言われてしまったよ。
マノンは俺とリルの会話の最中、遠慮なくベッドにドサッと乗っかかって、靴を放り出してから思う存分に足を伸ばして座っている。これはこれで小ささが強調されていて、ぬいぐるみみたいに可愛い。
他方、パティは散々泣いて疲れたのか、立ったまま首の角度を保持できず何度もカクッと頭を落としていた。子供かお前は! うちの母ちゃんが『あんたは立ったまま寝る子でねえ』って言ってたの思い出したわ!
「とりあえず、これを見て欲しい。――マノン、頼む」
「りょーかいですっ」
珍しく張り切って敬礼のポーズまでしてくれたマノンが、例の盗撮魔法で問題の場所を映し出した。
0
お気に入りに追加
73
あなたにおすすめの小説
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
私は、忠告を致しましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。
ロマーヌ様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
帰らなければ良かった
jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。
傷付いたシシリーと傷付けたブライアン…
何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。
*性被害、レイプなどの言葉が出てきます。
気になる方はお避け下さい。
・8/1 長編に変更しました。
・8/16 本編完結しました。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる