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異世界帰りへ⑤ 国王は新たな○○を画策する

マノン⑩ 天才と賢者

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 ぶよぶよそうどうからしばらく月日を経た朝。
 マノンがねむそうな目で、こんなことを言い出した。


「そういえば、リルさんとデートしたらしいですね」

「仕事だよ」


 相変わらず、この子はおれの部屋に出入りしている。毎晩やってきて朝を過ごして、夕食ぐらいになると部屋にもどる。
 意外とさみしがりなのだろうか?


りんするだんさんの言い訳みたいです」

よめこいびともいないのに、不倫なんてできるかよ……」


 十四さいの口から聞きたくないワードだな。俺が夢を持ちすぎなのだろうか。
 いや、男なんてたいていそんなもんだろう。どうしても男ってのは、女の子にはじゆんすいでいてもらいたいと望んでしまいがちだ。


「じゃあ、私ともデートしてみます?」

「おまっ…………! 外に出る気になったのか!?」

だれがデートイコール外出だと決めたのですか? おうちデートに決まっているじゃないですか」


 なんだろう。マノンと接していると、俺が引きこもっていたころ、いかに親にめいわくと心配をかけていたかがわかるような気がしてきた……。母ちゃんごめんよ。
 でも引きこもっている子を外に連れ出すなんて、最悪のせんたくなわけで。
 こうして人との関わり合いを――――。
 たとえ日本での引きこもり生活にられてだろうが、持とうとしている。そこを評価すべきなのかもしれないな。



 さて、おうちデートと言われて俺が思いついたのは、いつしよに映画を見たりゲームをしたりという、その程度だ。
 しかしこの世界に映画はないし、テレビの類いもない。
 じいさんからえきしようテレビとスーファミを借りるにしても、電源コードが部屋まで届かないだろうし。
 そもそもテレビゲームの件をマノンに知られると、あまり好ましくないことが起きそうなんだよな。しようかん術使えちゃいました! みたいな。……うん。これ、絶対知られちゃダメなやつだ。


「カードゲームも、ずーっとやっているときますねえ……」


 ということで日本で言うトランプに近いカードゲームに興じているわけだけれど、マノンは人と一緒に何かをすることに楽しみを見いだすことが難しいタイプのようで、つまらなさそうにほとんど全勝する。

 この天才め。
 俺としても負けっぱなしだと気がってくるわけだ。
 他に何かすることは――なんて考えていたところで、とうとつに部屋のドアが、コンコンと鳴った。


「誰だー?」

「パティです。入ってもよろしいでしょうか?」

「おーぅ」


 マノンのやる気のなさがでんせんしてしまった。なんだか眠い。俺も少し引きこもろうかな……。


「朝からすみません。どうしても、日本語の解読が追いつかなくて」

「どれどれ……。ちょっと見せてみろ」


 ドサッと書類を受け取る。中々の重さだ。
 パティはがらなほうだから、これを持ち歩くだけでも労を要しただろう。

 そしてこの世界にはばんを使った古典的な活版かっぱん印刷機しかない。だからこういった資料の文字は、全て手書きである。
 賢者ならほうを使って文字をかびがらせたりもできるわけだけれど、そっちのほうがほど大変だそうだ。


「軽く見て、五百枚ぐらいはありそうなんだが」

「角のところを折ってあるのががいとうページです」

「……お前さ、少し働き過ぎじゃないか?」

「いえ。これが仕事ですから」


 こいつが一番、日本社会に向いている気がする……。
 なにせ朝から夜まで働きづめで、必要とあれば仕事を持ち帰っててつ。ブラックな業界でも働いて行けるかもしれない。
 働きづめでたおれなきゃいいけれど。
 過労死なんてことになったら、全く笑えない展開になってしまう。


「俺がやっといてやるから、そこのベッドでちょっとてろ」

「えっ、いや、でも……」

「いいから寝てろ。終わったら起こすから」


 強めに言うと、パティはフラフラとベッドへ歩き向かって、前のめりにバタンと倒れた。
 ……これは過労死するタイプだな。倒れて数秒でいきを立てている。トイレとかでちするやつだ。


「何してるのです?」


 小柄なパティから受け取った書類を、さらに小柄なマノンがのぞきむ。


「犯罪者リストと、犯行のがいようだ。これを日本の法律に当てはめて、この国流にかいしやくしながら適用していくんだと」


 国王は日本のかんきようを本気で気に入っているようだ。
 しかし社員を過労死させるところまでるのはすすめられないな。今度ちゃんと言っておこう。
 パティとは一緒に旅をして、一緒に命をけた仲だ。この世界に置いて行くにしたって、環境は整えておいてやりたい。


「これはなんです?」

「犯行写真だな。これはせつとう――。ただ、あんまりせんめいじゃないんだよ。しようとしてはかなりみようなレベルだ」


 サイズはスマホ画面の半分ぐらい。ガラケーの画面程度。
 解像度は低くせんめいで、その上、モノクロ。


「誰かが現場でったのですか?」

「いや。これは光系魔法とにん系魔法、あとはえんかく操作と念写の組み合わせで作った、パティのオリジナル魔法で撮ってるらしい。目と同じ役割を果たす光の球を飛ばして、映像をかくにんしながら、いつしゆんを切り取って紙に念写している――――って話なんだけど。正直、高度すぎてよくわからん」


 パティは賢者で、魔法をもうしている。
 更に基礎魔法を組み合わせたりして応用化することで、魔法の形を進化させる。

 これは体系的に説明ができる進化であり、王族の持つなぞの領域とはちがって、学ぶことさえできれば誰でもあつかえるようになるわけだ。
 賢者は魔法学のかいたくしやでもあって、かれらのかつやくはいずれ国民生活に反映されて国を豊かにする。
 これこそが賢者と呼ばれる所以ゆえんである。

 まあ時々、人々にわたると混乱を招くようなものも発明してしまうから、そういう場合は使いかたも覚えかたも国で厳重に管理することになるけれど。


「ふぅむ……。光系だと、こんな感じですかね」


 マノンはほんの一秒ぐらい考えた後、急に、ボワンっと大きな光の球を生み出して宙にかせた。


「すっげ――。ほんと魔法なら何でもありだな」

「これを視認系魔法で目の代わりにして遠隔操作を可能に――、あとは見たものを念写すればいいのですよね?」

「ああ。……でも目立ちすぎだ。パティのはもっと小さくて、目立たないようにできている」

「なるほど。調整は難しいのですが……なんとか。あっ、映像はリアルタイムで確認できたほうがいいですか? 私だけで見ても、おもしろくないですし」

「そりゃ、できることなら……」


 ああ、これパティ以上のことをやっちゃうパターンだわ。
 けんめいに勉強して働く賢者が必死になって編み出したことを、勉強する気なんてかけもないガチの引きこもりが一瞬でく――。
 パティのやつ、メンタルへし折られなきゃいいけれど……。


「うぉっ!?」


 かべ一面にこの部屋の映像が投写された。それも鮮明でカラー。ちようおおがたテレビ…………いや、プロジェクターの状態だ。


「一気に、部屋が映画館みたいになったな」

「これ、面白いかもです! 部屋にいながら外の世界のことを知ることができますよ!」

「部屋を出てくれ」


 しかし、マノンも外に興味がないわけじゃなかったんだな。ちょっと安心した。
 外の世界なんて見てもつまらない――なんて言われるより、数倍マシな反応だ。
 おうちデートだし、映画の代わりにこれで外の世界を見てみるのも、悪くないかもしれない。
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