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異世界帰りへ④ 魔法は時として○○にもなります

良き振る舞い

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 玉座の間は、ドデカい扉で固く閉ざされていた。


「おいっ、ここを開けてくれ!」


 しかし門番の兵は、いつさい聞く耳を持ってくれない。


「玉座の間は国王陛下とえつけんする者にのみ、開かれる場です。陛下の指示無くとびらを開けることは、あり得ません」

「国がピンチなんだよ!」

「なりません」


 くそ……っ。頭の固いやつだ。
 ライカブルで好感度確認――――っと、好感度ゼロか。
 よく見たら今朝の食事の席にいたな、この人。

 まさかここまで急場にせまられるとは考えていなかった。好感度を上げるよりも国王と側近の関係性を測ることを優先してしまった。

 もしも俺が国王に悪態をついて好感度が大して下がらない側近がいれば、そいつは国王や今の絶対王政を快く思っていない可能性がある。
 上手く取り入って利用できるか、危険人物として差し出して処理をして、他の側近からの好感度を上げるか――。
 どちらにせよ好都合だったわけだ。

 表と裏の顔が違う人間なんて、いくらでもいる。
 しかしこの人は、本当に心から国王を信頼しているわけで、さぶりやこうしようは通じないだろう。


「あの――。私がお願いしても、ダメですか……?」


 リルが一歩前へ出て、気まずそうに言う。


「……ダメです。いかに王族と言えど通せぬものは通せません。――第一、リル様は王族と言えど爵位もなく、ジニ家をげるお立場でもないでしょう」


 めかけの子だから――ってやつか。
 この国は決まった価値観でしか物事を測れない規則にでもなっているのか、と文句を言いたい。……が、だいたい権力者の周りってのはそういうものだ。多分、日本でも。


「お願いします。通してください!」


 リルが兵へ頭を下げる。
 んー……。少しだけ好感度がじようしようした……か?

 これはあくまで俺に対する好感度であって、リルに対するものではない。でもリルが頭を下げたえいきようで俺への好感度まで上がった――。

 王族が頭を下げる事態に、少なからず心を動かされたわけだ。
 この人の弱点は、そこにありそうだな。
 できれば力尽くでのとつはしたくない。


「お願いします!!」


 こうべれたままのリルが再び言葉を発したところで、俺はあえて彼女を制する。


「――リル様、王族が頭を下げるようなことをしては、いけませんよ」

「…………はぁっ?」


 はぁっ? じゃねえよ。本気で『何言ってんのこの人キモいんだけど』みたいな声出して、目なんか点になってるじゃねえか。
 …………まあいい。仕方がないから、このまま続行だ。


「ここは一般人である私が、頭を下げましょう」

「いやいや、いきなり気持ち悪いわよ。なに、私とか一般人とか」

「いくら大陸を制覇した英雄と言えど、王族とは身分が異なります。ここで頭を下げるべきは、リル様ではございません」


 優しく表情を作って語りかけたはずなのに、リルが吐き気をもよおしたような顔をやめてくれない。ほん――っとうに失礼な奴だな!

 俺が国王に召喚された理由はあくまで『武力行使前提の大陸制覇』だった。
 でも俺は血が流れるところも、誰かが武器で殺されるのも、殺すのも、大切な人を失った人を見るのも、居たたまれない。見たくない。

 だからそこに『最大限平和的に解決する』なんて難題を、自ら付け加えた。
 状況を打破するためなら――。


「ちょっ、ハヤトくん!?」


 土下座ぐらい、でもない。


「この通りです! もちろん武器になるものは全てぼつしゆうされても構いません! なんならはだかにされても文句一つ言いません! …………しかし、本当に一大事なのです。国王陛下に知らせなければ、国民も、王城も、取り返しのつかない危機にひんしてしまいます!」


 顔をせたほうが声だけで演技できる分、楽でもある。
 遠くから『ぶよんっ♪』とけな音が定期的に聞こえてくるのが、どうにもしんけんけずっている気がするけれど……。


「し……しかしだなっ」


 土下座中は相手を見ることが出来ないから、ライカブルでの好感度確認も出来ないのが難しいところだ。
 けれどまあ、この人なら下がりはしないだろう。
 そして俺がけしかけているのは、目の前の兵だけではない。


「あ…………あなたは、国の英雄がここまでしても、扉一つ開けられないというのですか!?」


 そうそう。リルが感情的に怒ってくれれば、この状況はより打破しやすくなる。
 これはリルを煽る行動でもあるわけだ。


「いやっ、ですが――」

「確かにこの人は英雄と言っても、ゲスい考えの持ち主で、いかがわしい店を好み、無礼きわまりなく、人妻が大好きで、王族をようしよく扱いする人です!」


 言い過ぎだ! 人のせいへきまでばくするんじゃない! 恥ずかしいだろ!
 つうか養殖ヒロインの件、忘れてないのな。


「しかし彼は、お祖父様が召喚した英雄です! 大陸制覇をげた御方の話に僅かな聞く耳を持つぐらい、国民の務めではありませんか!?」


 うーん。こいつも感情的になった結果、キャラが変わっているな。
 まあ王族としての振るまいがそうさせているのだろう。色んな顔を持つ女性である。そこは嫌いじゃない。

 リルがっているすきを見て、チラリと顔を見上げてみる。
 好感度四十パーセント……。ゼロからのいちじるしいきゆうじようしようだ。
 リルへの好感度はこれよりはるかに高いだろうから、そろそろかんらくしても不思議ではない。


「――英雄ハヤトよ。おもてを上げなさい」


 しかし思わぬ方向から渋みのある声が鳴って、俺たちは声の持ち主に視線をやった。
 同時に『ぶよんっ♪』と、間抜けな音が鳴る。危機感ないなあ!
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