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異世界帰りへ③ 英雄は○○を好みます

マノン⑧ 世界一可愛い?

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 実のところがいせん以降は城に寝泊まりさせてもらっていたから、部屋が移動しても『大きさと内装がちょっと変わったかな』というだけで、特に違和感は無く、ベッドのごこにも不慣れた感じはない。


「おはよう」


 だからしっかりねむれたわけだが、どうにもめがよくない。
 起きるとなぜか、マノンが部屋の中にいた。
 引きこもり生活を常としているらしい彼女がなんでこの部屋にいるのか、はなはだ疑問だ。巣はここじゃないぞ。


「なんでここにいる?」

「…………私、こう見えてさみしがりなんですよ?」


 うわー、真意が読めないけどさんくせえー。
 でも否定してガチだったら悪すぎるしな……。
 七つも年下なわけで、そういやねんれいをまだ聞いていないけれどまあ二つぐらいしか違わなさそうなリルに比べると、本音がづらい相手だ。


「マノンって、引きこもってたんだよな。家族とはちゃんと会ってたのか?」

「両親は共働きなので家にいないことも多いのですが、まあ、必要に応じて」

「ふーん……」


 まあ、大抵の引きこもりは、そんな感じだろうな。
 特にこの国は、日本より共働き家庭が多いし。


「そうしなければ生活できない部分もありますから。……ご飯が出てこなくなったり」

「ネコみたいなやつだな」

「ネコ?」


 そういやこの世界は、ネコ科っぽい獣はいてもネコそのものってのがいないな。


「俺のいた世界の動物だよ。あいがん動物……要するにペットだな。俺も飼ってたんだが、メシの時だけ飼い主になつく現金な奴でな」

「そんな性格で飼われるなんて、理解しがたいです。…………しかし、えさの時だけ懐いて、飼われる……ですか。私はそういう存在になりたい」


 こいつ欲望をかくす気ないな。


「マノンなら本当になっちまいそうで怖いよ」

「どうしてそんな存在を飼っていたのですか? それなら私も飼ってくれますか?」


 十四歳の少女を連れ帰って、あまつさえ『飼う』とか言い出したらうでに鉄の輪っかがめられるっての。俺が三食付きになるわ。おりの中で。


「いた……っていうか、日本に帰りゃ多分まだ生きてるとは思うんだが……。んー、やっぱり飼うのは『可愛いから』じゃないか」

「そっ、そんなに可愛いですか!?」


 急にグッと顔を近付けられる。


「ああ。可愛いね」

「餌の時だけなついても許されるぐらいに!?」

「ああ。そりゃもう、世界一可愛いさ」

「そっ、そうですか――」


 ん? なんだか好感度がグググイッと上がってるぞ。ほおも赤いし。


「…………」


 その上、目をせてだまりこくってしまった。

 ――こうして見ると、ただのいたいな女の子だな。

 多分、ネコのことを世界一可愛いと言ったことをかんちがいしたか都合のいいようにとらえたかで、自分のことを可愛いと言われたように感じているのだろう。『ネコみたいな奴』って言っちゃったし。
 引きこもっていると社会性が育たないから、勘違いを引き起こしやすい。
 だますようで悪いけれど、まあ、おもしろいからそのままにしておこう。


「私、もっとネコを目指します!」

「おう。がんれ」


 いのちけで異世界こうりやくしたほうしゆうにペットを連れ帰る――か。
 無いな。
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