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異世界帰りへ② ひきこもる少女は○○を望みます

マノン④ 憧れの世界

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 マノンが目をかがやかせて、日本の引きこもりかんきようを問うてくる。


「ライフライン、止められたりしない!?」

「あはは。電気と上下水道、あとガスとかネットは、まあ親がいる間は止められたりしないと思うよ」


 正確には一度部屋のブレーカーを落とされたことがあるが。
 あの時は「うあぁぁぁぁぁあああクソババアアァァァァァァァッ!!」ってはつきようしかけたっけ。
 …………あまりやみに思い出すと精神的な自傷行為になるから、やめておこう。


「電気とネットって、なぁに?」


 この世界には電力設備がない。
 国王が太陽光発電機と大容量バッテリーを導入しただけではいつぱんてきな周知もされないだろう。


「電気っていうのは、夜でもガスを使わずに部屋を明るくしたり、温かくしたりできるんだよ」

「ふぇぇぇぇっ」


 やばい。この子、最初の印象より可愛いな。ひとなつっこい小動物って感じだ。


「じゃあじゃあ、ネットは!?」

「んー、はなれているだれかと会話したり、文字をやり取りしたり――。あとは調べ物やゲームもできるよ。部屋に閉じこもっていても、ネットがあれば少し外と繋がっていられるっていうか……。ん? でもよく考えたら、ネットはライフラインではないか?」


 重要性を鑑みれば同等扱いしても構わないような気もするけれど。

 でも彼女の言うライフラインと厳密には異なるだろう。この世界は寒い。ガスがなければ死んでしまうぐらいに寒い。
 上下水道だって一応整備は進んでいるけれど、ちょくちょくとうけつしてしまって国費で修理する。

 多分、この世界で引きこもることは、日本で引きこもるよりもずっと難度が高い。


「すごい! 日本ってすごい!!」


 今になって考えてみると、引きこもり環境としては確かに日本はすぐれすぎているかもなあ……。などと思いながら、苦笑いを浮かべた。
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