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異世界帰りへ② ひきこもる少女は○○を望みます

マノン① 光を鎖す

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 国王とえいゆうが歩くのだから、衆目を集めないはずがない。

 いやまあ、俺は城下町じゃあまり有名ではないと思う。なにせ五年間のほとんどを東西南北に遠征して過ごしていたし、新聞記事でも後ろ姿だけで顔は隠されていた。身の危険が増すだけだからだ。
 とは言っても、先日の凱旋パレードでは、とんでもない人数の民衆が集まってくれたわけで。近くで見て顔を覚えた人だっているかもしれない。

 城下町は軽いパニック――なんてことになっては困ると、パティが光操作系のほうで俺たちの存在をかくし、衆目にさらされないようはいりよしてくれた。
 その配慮をなぜ人命に使えないのかと問いたい。


「ここじゃ」


 国王に連れられて行き着いたのは、民家にりんせつする単なる小屋。
 あまりにつうで何のへんてつもない小屋に、何故なぜわざわざ国王自身が連れてきたのか――と俺は首をかしげて少しなやんだ。


「よく見てください」


 パティが小屋の窓を指差す。
 中に明かりがともっていないのだろう。窓も真っ黒だ。
 だがちょっとしたを感じる程度で、特別おかしいことはないようにも見える。俺は首を傾げ続けた。
 すると更に解説を加えてくる。


「強い日光がむ昼間の室内が、カーテンもなくくらやみになるなどありえません。この小屋、少しみようです」

「……確かに、黒いシートか何かを窓ガラスにっているようにも見えるな」


 窓の内側にカーテンを引いてあるならば、カーテンとのすきに光が当たり裏地がかぶはずだ。
 それすらもないということは、窓ガラスと黒の間に隙間がない。もしくは本当に内部が|あんこく《あんこく》になっていると想像できる。

 日本ならともかく、この世界に窓へピッタリ貼れる黒いシートなどあっただろうか。
 というかこの世界の窓ガラスってとんでもなく高価で、普通の小屋に付けられるものじゃないと思うのだけど。

 城でさえ、一度通路へ出てしまえば、ガラスのない窓がたくさんある。
 光を通さない黒いガラスなんて、この五年の大陸制覇の過程で一度も見たことがない。
 そんなめずらしいものをいつぱん家庭が使っているとは思えないわけで。

 ま、なんにせよ『訳あり』っぽいな。
 コン、コン――と国王が直々じきじきとびらをノックして、呼びかける。


「国王じゃ。扉を開けてくれ」


 中世的なこの世界の王権制度において、国王の命令は絶対だ。
 ……なのに、返事はない。
 更に数はく待って、国王はいつさいの物音がしないことをかくにんした上で、こわを低くした。


「――――ライフラインを止めるぞ」


 きようはくするような言葉にとつぜん扉が開き、中からかみの長い女の子が現れる。


「人でなし!」


 おお。ジジイ呼ばわりよりいことを言いよった。
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