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第1話 日曜朝の異世界召喚
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「成功よ! 聖女の召喚よ!」
耳元でキンキンと甲高い女の子の声が響く。
朝っぱらから耳がつんざくような声は聴いてられない。聞くなら魂が燃える熱い歌がいいに決まっている……などとバカなことを考えつつ、ふと私は違和感を覚えた。
「ん?」
いつの間にか、私は寝そべっていた。何やら硬くてごつごつした感触がある。ついでにひんやりと冷たい。
「……!」
何事かと思い身を起こすと、そこは、さっきまで私がいた場所ではなかった。
(なに、ここ……)
見渡すと、そこは薄暗い石造り部屋だった。いや、部屋というには広すぎる。大広間というか、しかし、石柱のようなものがあったり、篝火が灯されていたりと、どこか尊厳な作りにも見える。
(し、神殿?)
パッと思いついた言葉がそれだった。
そして、そんな空間の周りには、私以外の人たちがずらりと並んでいる。さっきまで、私の傍にいた友人たちじゃないのは一発でわかった。
その人たちは各々古めかしい衣裳に身を包んでいた。なんというか、中世を舞台にしたドラマとか映画に出てくるような出で立ちだ。
そこに立つ人たちは殆どが男の人だった。その瞬間、私は身を守るように屈んだ。まさか酷いことされてないよね!
あちこち体をまさぐってみるが、制服姿のままだった。どうやら変な事は去れてない様子だ。
(てか、ここどこよ。周りみんな外国の人じゃん……うわ髭濃!)
パッと見でわかるのはここにいる人たちの殆どが日本人離れした顔ということだ。だったら外国人だろう。北欧っぽい気もするが、国際派じゃない私にしたらどうでもいいことだ。わかるのは大半が妙に濃い髭を蓄えていることだ。無精ひげって奴だろうか。
しかし、変な事はされていないということがわかると案外落ち着くもので(それでも混乱してるけど)、もう一度ゆっくりと周りを見渡す。
見れば、見る程、おかしい状況だ。
鎧を着た兵士っぽい姿のおじさんが何十人もいて、真っ白なローブを羽織ったおじいちゃんが大体三人ほど、そんな人たちに囲まれてやたら豪華な椅子に座っているなんか偉そうなビロードのマントにくるまれたおじさんもいる。ご丁寧に頭には王冠だ。
(王様? なんで、ここに王様なんているのよ)
内心で突込みながらも、状況は依然としてわからない。
そんな風に頭にはてな記号を浮かべていると、「ちょっと! 大丈夫?」と先ほどの甲高い声がまた耳元で響く。
そういえばこの空間の中でこの声の持ち主らしき人を見ていない。きょろきょろと首を振って探してみると、いた。
私のちょうど右肩の位置。鼻先にふれそうなほどの近い距離にわずか三十センチ程の小さな女の子が豊かな金髪をぶわっと広げて、宝石のような緑色の瞳をきっとこちらにむけていた。服装はヴェールとでもいうのか、黄色、いやこれは金色か?
きらきらと輝く薄い生地でできていて、ふわりふわりと揺らめいている。
そして大よその予想通りに少女の背中には小さな透明な羽が生えていてそれが忙しく羽ばたいている。
妖精だ。
「妖精だ」
脳内の言葉と声がシンクロした。だって妖精だもん。まごうことなき妖精だもん。
妖精は気の強そうな顔をしていた。ぺたぺたと私の鼻や頬を叩いて(かなりくすぐったい)何かを確認している様子だった。動くたびにピロンとファンシーな音が聞こえるのは幻聴ではないようだ。
「大丈夫みたいね。それにしても……なんて格好なの。言い伝えに聞く聖女とはかけ離れてるわね」
金髪妖精は呆れたように私の服装を見ていた。
「いや、だって」
制服姿を変な格好といわれても困る。
「ん……まてよ?」
さらっと会話をしたけど、妖精?
御伽噺なんかに出てくるあの妖精が目の前にいる。
え……妖精だ!
「うわー!」
女の子が出しちゃいけない声を出したと思う。周りにいたおじさま方もいきなりの大声に驚いたのか、びくっと肩を震わせ、兵士姿の人にいたっては腰に携えた剣に手を伸ばしていた。
私はずるずると後ろに引き下がり、バクバクと早鐘を打つ心臓を落ち着けるように胸に手を当てた。
「な、なんで? なんで妖精? てか、ここどこ! あなたたち誰! う、うちは
一般家庭だからお金なんてないんだけど!」
どこかで押さえつけていた感情が爆発する。言葉として出てくるのは思いついた疑問ばかりだった。「なんでそんな格好をしているのか」とか「剣を抜くな」とか「大の大人が女の子囲んで恥ずかしくないの」とか。とにかくあらんかぎりで思いつくことだけを叫んでやった。
などと騒いでいると、金髪妖精がまた自分の目の前に飛んできた。
「落ち着いて、何もとって食おうってわけじゃないの」
妖精は気が強そうだったが、意外と優しい言葉をかけてくれる。落ち着かせようとしてくれているのか、ぺしぺしと頬を撫でてくれる。
「私はラミネ。妖精じゃないわ。ガランド王に仕える守護精霊、聖女の水先案内人、王家の守護を任された初代様から数えて百二代目なの」
「そ、そうですか……」
妖精が物理的に小さな体で大きく胸を張って言った。まるで「どう?」とでも言いたげな表情だ。
すごいとかいう前に可愛いという感想が飛び込んでくるが、ちょっとそれは口に出せそうな雰囲気ではなかった。妖精はさておき、その後ろに控えるおじさま方はかなり剣呑としているように見える。
「ラミネ! その者が聖女であるのは間違いないのだな!」
兵士の中でもひときわ目立つ鎧を着た強面の男が怒鳴る。その威圧的な言葉を受けてもラミネは「うるさいわねぇ」とげんなりとした表情を向けて対応していた。
「控えなさいメッツァ。私は王家を守護する精霊よ。万に一つの間違いがあるわけがないわ」
ラミネは自分の何十倍もあろう大男に対しても気の強そうな態度を崩さなかった。
「なにおぅ!」
メッツァと呼ばれた兵士は顔を真っ赤にしながら大股でこちらに歩み寄ってくる。全身筋肉と言った躯体はそれだけで見た目以上に大きく見える。
私にはメッツァという男が何メートルもある巨漢に見えていた。無骨というべき灰色の鎧で体中を防護して、重たそうな両刃の剣を携えている。あちこちにトゲトゲというか出っ張りがあるのも見た目以上に体を大きく見せていた。
「よせ、メッツァ。ラミネがいうのであれば間違いはないだろう」
玉座に居座る王様らしき人が一声。それだけで大男のメッツァはピタッと前進を止めた。
しかし不服なのか、渋面を作って後ろを振り向き、「ですがクードゥー王!」と叫んでいる。
王様、クードゥー王はひじ掛けに腕をかけて頬杖をつきながら「くどいぞ」と静かに言い放つ。今度こそメッツァは大人しくなり、しぶしぶと横に引いた。
するとちょうど私の視線とクードゥー王の視線がぶつかり合う。クードゥー王は「フッ」と微笑を湛えた。
(やだ、ちょっとダンディ……趣味じゃないけど)
確かに目の前のクードゥー王はハンサムだ。
茶色の髭は、不精さはなく、むしろ精鍛さを感じさせ、同じ色をした長髪は手入れが行き届いており、なびくように降ろされている。メッツァ程の巨躯ではないが、胸板は厚そうでビロードのマントの内側からでもはっきりと肉体がわかる。
金色に宝石をちりばめた王冠はクードゥー王には小さいようで、少し不釣り合いな形をしていたが、それでも彼が『王様』だというのは否応なしにでも感じさせる気迫がある。
まぁ私には年配趣味はないのだけど、昼間に管を巻いてテレビを眺めている主婦の方々には人気が出そうな甘いマスクだとは思う。なんというか、ハリウッド顔?
「メッツァが失礼を致した。私はクードゥー・ガランドである。突然の事と驚きではあるだろうが、聖女様にはぜひとも我が国を救っていただきたいのです」
王様はいきなり、小娘な私に頭を下げてきた。それに倣うように周りの大人たちも一斉に私にお辞儀をする。
この時の私はただ漠然と、目の前の王様の言葉を黙って聞いていた。
耳元でキンキンと甲高い女の子の声が響く。
朝っぱらから耳がつんざくような声は聴いてられない。聞くなら魂が燃える熱い歌がいいに決まっている……などとバカなことを考えつつ、ふと私は違和感を覚えた。
「ん?」
いつの間にか、私は寝そべっていた。何やら硬くてごつごつした感触がある。ついでにひんやりと冷たい。
「……!」
何事かと思い身を起こすと、そこは、さっきまで私がいた場所ではなかった。
(なに、ここ……)
見渡すと、そこは薄暗い石造り部屋だった。いや、部屋というには広すぎる。大広間というか、しかし、石柱のようなものがあったり、篝火が灯されていたりと、どこか尊厳な作りにも見える。
(し、神殿?)
パッと思いついた言葉がそれだった。
そして、そんな空間の周りには、私以外の人たちがずらりと並んでいる。さっきまで、私の傍にいた友人たちじゃないのは一発でわかった。
その人たちは各々古めかしい衣裳に身を包んでいた。なんというか、中世を舞台にしたドラマとか映画に出てくるような出で立ちだ。
そこに立つ人たちは殆どが男の人だった。その瞬間、私は身を守るように屈んだ。まさか酷いことされてないよね!
あちこち体をまさぐってみるが、制服姿のままだった。どうやら変な事は去れてない様子だ。
(てか、ここどこよ。周りみんな外国の人じゃん……うわ髭濃!)
パッと見でわかるのはここにいる人たちの殆どが日本人離れした顔ということだ。だったら外国人だろう。北欧っぽい気もするが、国際派じゃない私にしたらどうでもいいことだ。わかるのは大半が妙に濃い髭を蓄えていることだ。無精ひげって奴だろうか。
しかし、変な事はされていないということがわかると案外落ち着くもので(それでも混乱してるけど)、もう一度ゆっくりと周りを見渡す。
見れば、見る程、おかしい状況だ。
鎧を着た兵士っぽい姿のおじさんが何十人もいて、真っ白なローブを羽織ったおじいちゃんが大体三人ほど、そんな人たちに囲まれてやたら豪華な椅子に座っているなんか偉そうなビロードのマントにくるまれたおじさんもいる。ご丁寧に頭には王冠だ。
(王様? なんで、ここに王様なんているのよ)
内心で突込みながらも、状況は依然としてわからない。
そんな風に頭にはてな記号を浮かべていると、「ちょっと! 大丈夫?」と先ほどの甲高い声がまた耳元で響く。
そういえばこの空間の中でこの声の持ち主らしき人を見ていない。きょろきょろと首を振って探してみると、いた。
私のちょうど右肩の位置。鼻先にふれそうなほどの近い距離にわずか三十センチ程の小さな女の子が豊かな金髪をぶわっと広げて、宝石のような緑色の瞳をきっとこちらにむけていた。服装はヴェールとでもいうのか、黄色、いやこれは金色か?
きらきらと輝く薄い生地でできていて、ふわりふわりと揺らめいている。
そして大よその予想通りに少女の背中には小さな透明な羽が生えていてそれが忙しく羽ばたいている。
妖精だ。
「妖精だ」
脳内の言葉と声がシンクロした。だって妖精だもん。まごうことなき妖精だもん。
妖精は気の強そうな顔をしていた。ぺたぺたと私の鼻や頬を叩いて(かなりくすぐったい)何かを確認している様子だった。動くたびにピロンとファンシーな音が聞こえるのは幻聴ではないようだ。
「大丈夫みたいね。それにしても……なんて格好なの。言い伝えに聞く聖女とはかけ離れてるわね」
金髪妖精は呆れたように私の服装を見ていた。
「いや、だって」
制服姿を変な格好といわれても困る。
「ん……まてよ?」
さらっと会話をしたけど、妖精?
御伽噺なんかに出てくるあの妖精が目の前にいる。
え……妖精だ!
「うわー!」
女の子が出しちゃいけない声を出したと思う。周りにいたおじさま方もいきなりの大声に驚いたのか、びくっと肩を震わせ、兵士姿の人にいたっては腰に携えた剣に手を伸ばしていた。
私はずるずると後ろに引き下がり、バクバクと早鐘を打つ心臓を落ち着けるように胸に手を当てた。
「な、なんで? なんで妖精? てか、ここどこ! あなたたち誰! う、うちは
一般家庭だからお金なんてないんだけど!」
どこかで押さえつけていた感情が爆発する。言葉として出てくるのは思いついた疑問ばかりだった。「なんでそんな格好をしているのか」とか「剣を抜くな」とか「大の大人が女の子囲んで恥ずかしくないの」とか。とにかくあらんかぎりで思いつくことだけを叫んでやった。
などと騒いでいると、金髪妖精がまた自分の目の前に飛んできた。
「落ち着いて、何もとって食おうってわけじゃないの」
妖精は気が強そうだったが、意外と優しい言葉をかけてくれる。落ち着かせようとしてくれているのか、ぺしぺしと頬を撫でてくれる。
「私はラミネ。妖精じゃないわ。ガランド王に仕える守護精霊、聖女の水先案内人、王家の守護を任された初代様から数えて百二代目なの」
「そ、そうですか……」
妖精が物理的に小さな体で大きく胸を張って言った。まるで「どう?」とでも言いたげな表情だ。
すごいとかいう前に可愛いという感想が飛び込んでくるが、ちょっとそれは口に出せそうな雰囲気ではなかった。妖精はさておき、その後ろに控えるおじさま方はかなり剣呑としているように見える。
「ラミネ! その者が聖女であるのは間違いないのだな!」
兵士の中でもひときわ目立つ鎧を着た強面の男が怒鳴る。その威圧的な言葉を受けてもラミネは「うるさいわねぇ」とげんなりとした表情を向けて対応していた。
「控えなさいメッツァ。私は王家を守護する精霊よ。万に一つの間違いがあるわけがないわ」
ラミネは自分の何十倍もあろう大男に対しても気の強そうな態度を崩さなかった。
「なにおぅ!」
メッツァと呼ばれた兵士は顔を真っ赤にしながら大股でこちらに歩み寄ってくる。全身筋肉と言った躯体はそれだけで見た目以上に大きく見える。
私にはメッツァという男が何メートルもある巨漢に見えていた。無骨というべき灰色の鎧で体中を防護して、重たそうな両刃の剣を携えている。あちこちにトゲトゲというか出っ張りがあるのも見た目以上に体を大きく見せていた。
「よせ、メッツァ。ラミネがいうのであれば間違いはないだろう」
玉座に居座る王様らしき人が一声。それだけで大男のメッツァはピタッと前進を止めた。
しかし不服なのか、渋面を作って後ろを振り向き、「ですがクードゥー王!」と叫んでいる。
王様、クードゥー王はひじ掛けに腕をかけて頬杖をつきながら「くどいぞ」と静かに言い放つ。今度こそメッツァは大人しくなり、しぶしぶと横に引いた。
するとちょうど私の視線とクードゥー王の視線がぶつかり合う。クードゥー王は「フッ」と微笑を湛えた。
(やだ、ちょっとダンディ……趣味じゃないけど)
確かに目の前のクードゥー王はハンサムだ。
茶色の髭は、不精さはなく、むしろ精鍛さを感じさせ、同じ色をした長髪は手入れが行き届いており、なびくように降ろされている。メッツァ程の巨躯ではないが、胸板は厚そうでビロードのマントの内側からでもはっきりと肉体がわかる。
金色に宝石をちりばめた王冠はクードゥー王には小さいようで、少し不釣り合いな形をしていたが、それでも彼が『王様』だというのは否応なしにでも感じさせる気迫がある。
まぁ私には年配趣味はないのだけど、昼間に管を巻いてテレビを眺めている主婦の方々には人気が出そうな甘いマスクだとは思う。なんというか、ハリウッド顔?
「メッツァが失礼を致した。私はクードゥー・ガランドである。突然の事と驚きではあるだろうが、聖女様にはぜひとも我が国を救っていただきたいのです」
王様はいきなり、小娘な私に頭を下げてきた。それに倣うように周りの大人たちも一斉に私にお辞儀をする。
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