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第120話 巨大鉄道網計画の序曲

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 鉄道を作る。それは戦争という側面を除けば私にとっては一番のプロジェクトとなる。飛行船に関して言えばあれは短時間を安定する飛行止まりで十分だった。少なくともドンパチにぎやかな戦争が終わらない限りは飛行ルートの開拓なんて恐ろしくてできない。
 第一として地盤が確固たるものとなっていない以上、空も安定しない。
 だからこそ鉄道を大陸に敷き詰めたいのだ。長い年月はかかるし、それこそ私の子孫たちに受け継がれる大事業だけど、基盤ぐらいは固めておきたい。
 少なくとも、サルバトーレとダウ・ルーの横断ぐらいは実現させなければ。

 一応、各種鉱山から工場に直結するレールの開拓は進んでいるけど、さてこれも試行錯誤の連続だ。理屈としてレールを作成できても質の安定化というのは難しいもの。作って、破損して、直して、を繰り返す。
 細々と進んでいるのであれば、それでよしとしているけど、もどかしいのは確か。
 とはいえこればかりは待つしかない。国家間や街の間を網羅するような鉄道を敷くのは単純に時間との戦いだ。

 しかし、それだけじゃ意味がない。
 ただ鉄道を敷くだけで、鉄道網が完成とは言い難い。鉄道というものには何が必要か。考えればすぐにわかる。
 駅が必要だ。これは馬を使う今の交通手段でもいえることで、日本でも西洋でも馬を交換させたり、休ませる駅というのは各所に存在していた。
 飛脚たちが休む宿もあったと聞くし、宿場町というのもまさしくそういう点もある。
 高度経済成長期において、日本の鉄道を広めることに貢献した人々はただ鉄道を敷くのではなく、まず観光地の整備や街を作り、そこに鉄道を敷くように勧めた。
 頭の良い方法だと思う。何もない場所に鉄道を作るのが無駄ならば、何かを用意して、足を運ばせるようにする。
 事実それで日本のいくつかの観光地は潤ったと聞く。

 果たして私が行おうとするそれが、そこまでの成果を出せるかどうかはわからないけど、やって意味のないことではないはず。
 で、その駅となる場所はハイカルンなどを予定している。
 そうつまり、これは復興作業と同時進行で行うべき事業なのだ。どうせ、鉄道を完全に敷くには時間がかかる。そしてハイカルンの毒素を浄化するのも時間がかかる。
 だったらそれらに合わせて活動を始めればいい。それだけの話なのだ。

 途方もない計画かつ、まずもって蒸気機関車と鉄道を完成させないことには意味の始まらないものとなるけど、一つの国を復活させる……あ、いや正確には二つか。二つの国家を復活させるという大事業となるわけだし、それそのものは無駄ではないだろう。
 ただ、正確なことを言えば、復活するのは国というよりはサルバトーレ統治下の領地、属国扱いとなる。
 正直、これは仕方がないことだ。私は難しいことはわからないけどようは政治的な基盤が崩壊して、それを統治するにしても結局は強い親分が後ろで面倒をみないといけない。
 特にハイカルンはダメージが大きい。王族の生き残りはラウだけで、しかも今のところ、表向きには死亡している。
 大々的な復活を遂げてもらうにしても、それじゃあ百パーセントの求心力を戻せるかといえばそうではないだろう。理由はどうあれ、ハイカルン滅亡の遠因は王家にあるわけだし、その部分で納得がいかない国民も多い。
 その心をほどけさせるのは長い時間がいるだろう。そしてラウの手腕にかかっている。

「また悪だくみをしているな?」
「ノックをして……といっても、どうせしたんでしょうね。あぁ、最近、耳が遠くなったのかしら」

 いつものようにアベルが色々と報告書をもってやってくる。

「まだ小娘の年齢の癖にババア臭いこといってんじゃねぇよ」

 実は中身はもう三十路なのとは言えない。

「こんなにも激務をこなしている小娘が他にいる?」
「プリンセスグレースだろ」
「反論できないわね。彼女、よくやってくれてるわ……王族も大変ね」

 グレースは妊娠する前は諸外国との同盟の為、色々と会議やパーティーに参加していたらしい。さすがに今は無理だけど、それでも広まった交友関係の相手に手紙を送ったり、色々と便宜を図ったりと仕事そのものは続けているらしい。
 あちこちに飛び回ることはなくとも頭を使う仕事はしなきゃいけないのだから大変よね。
 そこにつわりとの戦いもあるし、初めての出産というちょっとした恐怖というか未知の体験への手探りな状況は多分、相当にきついと思う。
 同じ女だからそこを理解、とかはできないよね、私。子供産んだことないし。

「ま、さすがにそろそろお手紙作戦も中止だろうな。母体の事を考えるなら自由にさせるべきだ。戦争を控えて、しかもなぜかお相手が自分をご指名とか妊婦にゃひでぇストレスだ」

 アベルの言うとおりね。温泉とかあればそういうところでのんびりさせたいわね。
 またうちの大浴場に誘ってあげようかしら……あぁ、駄目ね、工場まみれのマッケンジー領は妊婦には酷い環境だわ。

「私としては、あの子が元気な赤ちゃんを産むまでにさっさと戦争を終わらせたいと思っているわ」
「同感だ。新しい命は常に祝福されなきゃならん。ったく、皇国もアホなことをしてくるぜ。何も今じゃなくてもいいのによ」
「そうね……本当にそう」

 戦争の影は、再び迫ってきていた。
 海域ではついに皇国の艦艇を見たという報告もあるし、偵察活動も活発になってきている。
 お互いにまだ戦端は開いてないけど、それだって時間の問題だ。
 飛行船、気球、戦艦、蒸気機関、小銃、そして製鋼。私は今、できる限りのことはしていた。
 これで、勝てなきゃおしまい。
 鉄道計画だって白紙になるし、私のこの奇妙な人生も終わる。
 そんなのは、嫌よ。
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