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第114話 宣戦布告への秒読み
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グレースをよこせ。なんとも俗っぽい理由をぶつけてきたわね。
神なる皇帝と名乗る奴がなんといっていいやら。こんなめでたい席を盛大に汚すなんてなんて奴なのかしら。反吐が出るとはこのことだ。
それは私だけではない。かつてグレースと青春を謳歌した男たちも目の色を変えて、それぞれの反応で怒りを見せていた。
アルバートは声高に無礼であると叫び、あのザガートすらも拳に力を入れて、震えている。ケイン先生だけは冷静に見えたけど、手にしたグラスがみしみしと音を立てているのを見れば静かなる怒りがどれほどのものかがわかる。
そしてラウもまた子供らしくない形相で若干の興奮状態に陥りながら、怒りを隠そうともしていない。
「プリンセスを寄越せとは、件の皇国にプリンセスの写真でもわたっていたか?」
この中で唯一、本当の意味で冷静なのはアベルぐらいだった。良くも悪くも、彼はプリンセスと密接に親しいわけじゃない。もちろん、国の代表を貶されて怒らないわけじゃないけど、アベルとしては個人的な要素は薄いというだけの事。
「大方、裏切者たちがそれとなく情報を手渡していたんでしょう」
「お前の両親やドウレブか……しかし、だからってなぜだ。プリンセスは、そりゃまぁ美しい方だ。古今東西、美女をめぐっての戦争はなくはないが、今回は海を隔てた大戦だぞ。その理由がプリンセス一人ってのがどうにも釈然としねぇ」
「男って、そういう理由で争いを始めるものでしょう?」
「否定はしないが、いくら王様でも本心を隠す為には建前を作る。大半は資源を求めてとかだ。その過程で、女をかっさらう。戦争するってことは資源を得る為と土地を支配する為、そして権威。これらがないといかに絶大な権力を持っていても末端の動きが鈍るからな」
「……確かにそうだわ」
サビュロスとかいう皇帝様が何をもってグレースを求めているのか、冷静に考えるとそこがわからない。ただ文章としては寄越せの一言だし。いくらお美しいプリンセス様が欲しいと言ってたかがそれだけでくだらない内戦を誘発したり、艦隊を差し向けてくるかしら。
内通者まで作り出して、そんな回りくどいことをして、得る者が女の子一人?
確かに割に合わない。何かある? 一体なんだ……?
資源だとしても、海を渡れる基盤を持った国であるなら相応の支配地域は多いはず。となれば覇権拡大の方向性になる可能性も否定はできない。資源が枯渇し始める、もしくはその予兆があるから戦争を仕掛けるというのは歴史の常だけど……何かが引っかかる。
「しかし、これは公式の文章だ。ご丁寧に皇帝の名の印もある。誰が書いたかはさておき、この文章は皇国が認めて出したものであると宣言しているようなものだ」
幾分か落ち着きを取り戻したらしいザガートは手紙を隅々まで読んで判断を下した。
「一国の王が、大海に出られるほどの力を持った王が、このようなふざけた文章を送ってくるのか!」
まだ興奮冷めやらぬアルバートは唾を撒き散らす勢いで叫び、立ち上がった。
「うるさい、アルバート。この無礼に怒りを出すのはいいが、今は冷静になる時だ」
「ザガート! だがな、これは侮辱以上のものだぞ!」
「だからこそ、冷静になるべきだ。俺とて、使者が目の前にいたら切り殺していたかもしれん。だがな、それをやれば相手に口実を与える。連中は、難癖をつけて貴様らの船を拿捕し、捕虜を虐殺したんだぞ」
皇国にしてみればこっちを襲うことは確定しているというわけだ。
その理由が不透明だからこそ不気味なのだけど。
「理屈が通じない相手だ……全く読めない」
ケイン先生の知恵をもってしても敵の目的は計り知れない様子だった。
「支配力の強化ってことならまだわかりやすいのだけどね……」
戦争の理由。かつて、日本はモンゴルという国から二度の大侵攻を受けたことがある。元寇と呼ばれる戦いだ。この戦いはモンゴルの支配力を強化と同時に当時、モンゴルが戦っていた他の国との通商を破壊する為のものでもあった。
と同時に、モンゴルは天から祝福を受けた大帝国であり、方々の国を支配することを義務としている的な考えもあったらしい。意外なことにモンゴルは支配地域に関しては比較的寛大だったとも言われていた。
皇国が、元いた世界のモンゴルのような動きをしているのであれば、まだ理由としてはわかる。
でも、そうではないことがわかる。
実際、モンゴルは何度も日本に使者を送り、数年単位で返事を待っていたぐらいだ。国に下るのであれば軍を差し向けることはしないとすら言っていた。実際はどうなっていたかはさておいて、実はいきなり奇襲を仕掛けてきたわけではないらしい。
だけどこっちの、皇国は違う。内部工作もして、言いがかりもつけて、あまつさえこれだ。
「神なる皇帝を名乗っているぐらいだし、天から世界を支配せよと仰せつかりましたぐらいは言ってきても良かったのだけどね。そうじゃないのが不気味よ」
「関係ありません。敵は悪魔です。邪悪なるものです。徹底的に打ちのめすのがよろしいでしょう」
ラウはラウで怒りの頂点を越えすぎて逆に冷静になってしまっている。
「まぁサビュロスとかいう皇帝を始末するべきね。危険思想の持主かもしれないし、どうあっても私たちは相いれないわ。だけど、それを国全てに当て嵌めたくはないわね。倒すべき敵というものを見定めなきゃ」
国一つを攻め滅ぼすような殲滅戦争はやるだけ無駄よ。
それに私たちはまだ敵のことを知らなさすぎる。気持ちの悪い文章を送ってくる皇帝がいるというのがわかったのは大きいのだけどね?
「今頃、王子たちは大臣たちを集めて対策会議に入っているでしょうね。結果は考えるまでもなくノーを突き返して宣戦布告でしょうけど」
しかし、そうなるとますます各種の開発を急がせないといけないわね。
軍の再編もあるだろうし、またしばらく徹夜が続くかも。
「さぁ、皆さん。お茶の時間は終わりよ。仕事に取り掛かりましょう」
神なる皇帝と名乗る奴がなんといっていいやら。こんなめでたい席を盛大に汚すなんてなんて奴なのかしら。反吐が出るとはこのことだ。
それは私だけではない。かつてグレースと青春を謳歌した男たちも目の色を変えて、それぞれの反応で怒りを見せていた。
アルバートは声高に無礼であると叫び、あのザガートすらも拳に力を入れて、震えている。ケイン先生だけは冷静に見えたけど、手にしたグラスがみしみしと音を立てているのを見れば静かなる怒りがどれほどのものかがわかる。
そしてラウもまた子供らしくない形相で若干の興奮状態に陥りながら、怒りを隠そうともしていない。
「プリンセスを寄越せとは、件の皇国にプリンセスの写真でもわたっていたか?」
この中で唯一、本当の意味で冷静なのはアベルぐらいだった。良くも悪くも、彼はプリンセスと密接に親しいわけじゃない。もちろん、国の代表を貶されて怒らないわけじゃないけど、アベルとしては個人的な要素は薄いというだけの事。
「大方、裏切者たちがそれとなく情報を手渡していたんでしょう」
「お前の両親やドウレブか……しかし、だからってなぜだ。プリンセスは、そりゃまぁ美しい方だ。古今東西、美女をめぐっての戦争はなくはないが、今回は海を隔てた大戦だぞ。その理由がプリンセス一人ってのがどうにも釈然としねぇ」
「男って、そういう理由で争いを始めるものでしょう?」
「否定はしないが、いくら王様でも本心を隠す為には建前を作る。大半は資源を求めてとかだ。その過程で、女をかっさらう。戦争するってことは資源を得る為と土地を支配する為、そして権威。これらがないといかに絶大な権力を持っていても末端の動きが鈍るからな」
「……確かにそうだわ」
サビュロスとかいう皇帝様が何をもってグレースを求めているのか、冷静に考えるとそこがわからない。ただ文章としては寄越せの一言だし。いくらお美しいプリンセス様が欲しいと言ってたかがそれだけでくだらない内戦を誘発したり、艦隊を差し向けてくるかしら。
内通者まで作り出して、そんな回りくどいことをして、得る者が女の子一人?
確かに割に合わない。何かある? 一体なんだ……?
資源だとしても、海を渡れる基盤を持った国であるなら相応の支配地域は多いはず。となれば覇権拡大の方向性になる可能性も否定はできない。資源が枯渇し始める、もしくはその予兆があるから戦争を仕掛けるというのは歴史の常だけど……何かが引っかかる。
「しかし、これは公式の文章だ。ご丁寧に皇帝の名の印もある。誰が書いたかはさておき、この文章は皇国が認めて出したものであると宣言しているようなものだ」
幾分か落ち着きを取り戻したらしいザガートは手紙を隅々まで読んで判断を下した。
「一国の王が、大海に出られるほどの力を持った王が、このようなふざけた文章を送ってくるのか!」
まだ興奮冷めやらぬアルバートは唾を撒き散らす勢いで叫び、立ち上がった。
「うるさい、アルバート。この無礼に怒りを出すのはいいが、今は冷静になる時だ」
「ザガート! だがな、これは侮辱以上のものだぞ!」
「だからこそ、冷静になるべきだ。俺とて、使者が目の前にいたら切り殺していたかもしれん。だがな、それをやれば相手に口実を与える。連中は、難癖をつけて貴様らの船を拿捕し、捕虜を虐殺したんだぞ」
皇国にしてみればこっちを襲うことは確定しているというわけだ。
その理由が不透明だからこそ不気味なのだけど。
「理屈が通じない相手だ……全く読めない」
ケイン先生の知恵をもってしても敵の目的は計り知れない様子だった。
「支配力の強化ってことならまだわかりやすいのだけどね……」
戦争の理由。かつて、日本はモンゴルという国から二度の大侵攻を受けたことがある。元寇と呼ばれる戦いだ。この戦いはモンゴルの支配力を強化と同時に当時、モンゴルが戦っていた他の国との通商を破壊する為のものでもあった。
と同時に、モンゴルは天から祝福を受けた大帝国であり、方々の国を支配することを義務としている的な考えもあったらしい。意外なことにモンゴルは支配地域に関しては比較的寛大だったとも言われていた。
皇国が、元いた世界のモンゴルのような動きをしているのであれば、まだ理由としてはわかる。
でも、そうではないことがわかる。
実際、モンゴルは何度も日本に使者を送り、数年単位で返事を待っていたぐらいだ。国に下るのであれば軍を差し向けることはしないとすら言っていた。実際はどうなっていたかはさておいて、実はいきなり奇襲を仕掛けてきたわけではないらしい。
だけどこっちの、皇国は違う。内部工作もして、言いがかりもつけて、あまつさえこれだ。
「神なる皇帝を名乗っているぐらいだし、天から世界を支配せよと仰せつかりましたぐらいは言ってきても良かったのだけどね。そうじゃないのが不気味よ」
「関係ありません。敵は悪魔です。邪悪なるものです。徹底的に打ちのめすのがよろしいでしょう」
ラウはラウで怒りの頂点を越えすぎて逆に冷静になってしまっている。
「まぁサビュロスとかいう皇帝を始末するべきね。危険思想の持主かもしれないし、どうあっても私たちは相いれないわ。だけど、それを国全てに当て嵌めたくはないわね。倒すべき敵というものを見定めなきゃ」
国一つを攻め滅ぼすような殲滅戦争はやるだけ無駄よ。
それに私たちはまだ敵のことを知らなさすぎる。気持ちの悪い文章を送ってくる皇帝がいるというのがわかったのは大きいのだけどね?
「今頃、王子たちは大臣たちを集めて対策会議に入っているでしょうね。結果は考えるまでもなくノーを突き返して宣戦布告でしょうけど」
しかし、そうなるとますます各種の開発を急がせないといけないわね。
軍の再編もあるだろうし、またしばらく徹夜が続くかも。
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