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第85話 鉄鋼戦艦計画の始動
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合金の精製方法という思わぬ収穫と、それに伴う危険性を再認識して再封印を施して後の事。
ゴドワンたちが王都より帰還。蒸気機関のお披露目は手ごたえを感じたという。魔法を使わず、ただ蒸気だけの力で自走する鉄の塊。このインパクトは凄まじいらしく、また蒸気のあふれる音や駆動音がさらに王族や他貴族たちへのアピールにつながったとか。
そういったパフォーマンスを経て、ゴドワンやケイン先生から利点を説明されれば、彼らも認めざるを得ないというわけである。
「はっはっは! お前たちにも見せてやりたかったな。最初は奇妙奇天烈なもの程度にしか見ていなかった連中が、轟音を上げて自走した瞬間には腰を抜かしおったわ」
ゴドワン的にはとっても上機嫌。ある意味、彼の人生の中で、今は最も輝いている事だろう。地方領主に甘んじていたと思いきや今や王国の一大産業を抱え、例外的な措置ではあるけれど爵位まで上がった。
大臣すらも兼任し、他の古くからの貴族たちですら、ゴドワンを軽くは扱えない。
なぜならばマッケンジー領が及ぼしたサルバトーレへの多くの貢献は他貴族も認める所だからだ。
「とはいえ、蒸気機関による駆動機械はまだまだ改善の余地がありますよ。それに、蒸気機関を扱うスタッフの育成も必要です。事故の防止、対応もそうですけど、そもそもの知識がなければこういった大掛かりな仕掛けは動かないですからね」
いついかなる時でも冷静を心がけるケイン先生らしい言葉も頂いた。
とにかく、蒸気機関への覚えめでたく、研究費用もいくらかは融通してくれることは決まっているそうな。
これで、ますますサルバトーレ内におけるマッケンジーの立場は強くなる。なんせ、王家からもそうだけど、後ろ盾には騎士団もいるわけだしね。
古くから王家の側近を務めている貴族たちからすれば面白くもないだろうけど、下手な文句も言えないそんな立場。
仮に、私たちに何かがあれば、何度も言うようだけど、サルバトーレの栄光は消滅する。それを、理解しないほど、うちの貴族連中はバカではないらしい。
「それで、イスズ。お前、また悪だくみを考えているな」
機嫌が良いこともあってか、ゴドワンはいつになく饒舌で、態度も大らかだった。
にやりと笑みを浮かべて、聞いてくる。
「悪だくみじゃありませんわ。近い将来、直面する危機に対応しようと頑張っているにすぎません」
「軍艦一隻を買う事がか? 一隻ではどうにもならんぞ?」
さすがに耳が早い。
件の軍艦はまだお金も払ってないし、交渉も終わってないので、手元にはないけど、遠くないうちに私たちのものになる。
その場合、私たちがダウ・ルーにお邪魔することになるんだけどね。
さすがに内陸に船をもっていくのは大変だし。
「アルバート様は蒸気機関をお求めになっていますし、我らがサルバトーレとダウ・ルーは同盟国。お互いに協力しあうのは当然ですし、海の脅威に対抗できるのは結局は、海洋国家のダウ・ルーだけですもの。かの国を助ける為に、私は新しい戦艦を考えているだけですわ」
そうなのだ。
皇国との戦争は避けられないけど、じゃあどこが矢面に立つかといえば、間違いなく海に面したダウ・ルーだ。
アルバート曰く、皇国軍はこの大陸の未開拓地への侵入が確認されているとの事だけど、いくらそこに基地や拠点を作ろうとも、数が制限される。
ならば海戦での勝利を経て、ダウ・ルーを占拠した方が後々の為になる……ということらしい。これが本当かどうかの判断は私にはできないけど、まぁ言わんとすることは大体わかる。
なにより、ダウ・ルーはこの大陸の出入り口なのだ。攻め落とし、確保するだけの価値はあるということだ。
そしてサルバトーレには海軍なんて存在しないし、そのノウハウもない。実は、結構ダウ・ルーには頑張ってもらわないといけないところもある。私は、大陸に上陸された場合の対応は万全にしてはいるつもりだけど、上陸された時点で負けは確定だろうし、やはりダウ・ルーには防波堤として、機能してもらう必要がある。
だから、戦艦の開発を急がせているのだ。
「装甲艦とかいう奴か。蒸気機関を組み込んで、帆船とは違い、自力で航行する船」
ゴドワンはちらっとケイン先生に目配せをする。知恵袋としての意見を求められた先生は、「そうですねぇ」と呟いてから、腕を組み、思案を始める。
だが、それは一秒程度のもので、先生はなにか答えを得たらしく、頷いていた。
「不可能ではないですね。鉄を装甲にした船は全くないわけではありませんでしたが、一番のネックはその重さでした。そんな重たい船でも、海には浮かびますし、風を受けて進むこともできなくはない。ですが、鈍重すぎる。それを、蒸気機関ならばカバーできます。計算上では、ということを付け加えさせてもらいますが」
うんうん、頭のいい人がいるだけで話ってとんとん拍子に進むわよね。
なおかつ私の不得意な分野に対して知恵が回るってのがいいわ。ほんと、ゲヒルト騎士団長には頭が下がる。
貴重な人材をこうして手に入れることができたのだし。
「船大工や鍛冶職人を集める必要があります。まぁ、それぐらいは見越して動いているのでしょうけど」
「えぇ、アルバート様にはその旨も伝えてあります。技術者たちも同行するとのことですから。船の改造に立ち会う関係上、しばらくはあちらの国に滞在することになりますが?」
「必要な行為だ。あちらには出向いてきてもらってばかりだからな。こちらからも顔を出す必要がある。初日はわしも同行するが、その後は代理としてアベルを置いていく。イスズ、お前も残るだろう?」
「はい、お船もそうですが、お塩の工房も覗いておきたいですからね」
「留守の間は任せておけ。まぁ、難民たちの帰化も落ち着いてきたし、工場の方もしばらくは通常稼働で済む。蒸気機関も組み立て作業だけならば、今の面々でも可能だろう。船のことで、ケインは連れていくのだろう」
この、つーかーなやり取りだけを見ると、呼吸のあった夫婦に見えるんだろうなぁ。
実際は割り切ったビジネスパートナー同士とは思わないでしょうね。
「さぁ、勝つための商売を始めに参りましょうか」
ゴドワンたちが王都より帰還。蒸気機関のお披露目は手ごたえを感じたという。魔法を使わず、ただ蒸気だけの力で自走する鉄の塊。このインパクトは凄まじいらしく、また蒸気のあふれる音や駆動音がさらに王族や他貴族たちへのアピールにつながったとか。
そういったパフォーマンスを経て、ゴドワンやケイン先生から利点を説明されれば、彼らも認めざるを得ないというわけである。
「はっはっは! お前たちにも見せてやりたかったな。最初は奇妙奇天烈なもの程度にしか見ていなかった連中が、轟音を上げて自走した瞬間には腰を抜かしおったわ」
ゴドワン的にはとっても上機嫌。ある意味、彼の人生の中で、今は最も輝いている事だろう。地方領主に甘んじていたと思いきや今や王国の一大産業を抱え、例外的な措置ではあるけれど爵位まで上がった。
大臣すらも兼任し、他の古くからの貴族たちですら、ゴドワンを軽くは扱えない。
なぜならばマッケンジー領が及ぼしたサルバトーレへの多くの貢献は他貴族も認める所だからだ。
「とはいえ、蒸気機関による駆動機械はまだまだ改善の余地がありますよ。それに、蒸気機関を扱うスタッフの育成も必要です。事故の防止、対応もそうですけど、そもそもの知識がなければこういった大掛かりな仕掛けは動かないですからね」
いついかなる時でも冷静を心がけるケイン先生らしい言葉も頂いた。
とにかく、蒸気機関への覚えめでたく、研究費用もいくらかは融通してくれることは決まっているそうな。
これで、ますますサルバトーレ内におけるマッケンジーの立場は強くなる。なんせ、王家からもそうだけど、後ろ盾には騎士団もいるわけだしね。
古くから王家の側近を務めている貴族たちからすれば面白くもないだろうけど、下手な文句も言えないそんな立場。
仮に、私たちに何かがあれば、何度も言うようだけど、サルバトーレの栄光は消滅する。それを、理解しないほど、うちの貴族連中はバカではないらしい。
「それで、イスズ。お前、また悪だくみを考えているな」
機嫌が良いこともあってか、ゴドワンはいつになく饒舌で、態度も大らかだった。
にやりと笑みを浮かべて、聞いてくる。
「悪だくみじゃありませんわ。近い将来、直面する危機に対応しようと頑張っているにすぎません」
「軍艦一隻を買う事がか? 一隻ではどうにもならんぞ?」
さすがに耳が早い。
件の軍艦はまだお金も払ってないし、交渉も終わってないので、手元にはないけど、遠くないうちに私たちのものになる。
その場合、私たちがダウ・ルーにお邪魔することになるんだけどね。
さすがに内陸に船をもっていくのは大変だし。
「アルバート様は蒸気機関をお求めになっていますし、我らがサルバトーレとダウ・ルーは同盟国。お互いに協力しあうのは当然ですし、海の脅威に対抗できるのは結局は、海洋国家のダウ・ルーだけですもの。かの国を助ける為に、私は新しい戦艦を考えているだけですわ」
そうなのだ。
皇国との戦争は避けられないけど、じゃあどこが矢面に立つかといえば、間違いなく海に面したダウ・ルーだ。
アルバート曰く、皇国軍はこの大陸の未開拓地への侵入が確認されているとの事だけど、いくらそこに基地や拠点を作ろうとも、数が制限される。
ならば海戦での勝利を経て、ダウ・ルーを占拠した方が後々の為になる……ということらしい。これが本当かどうかの判断は私にはできないけど、まぁ言わんとすることは大体わかる。
なにより、ダウ・ルーはこの大陸の出入り口なのだ。攻め落とし、確保するだけの価値はあるということだ。
そしてサルバトーレには海軍なんて存在しないし、そのノウハウもない。実は、結構ダウ・ルーには頑張ってもらわないといけないところもある。私は、大陸に上陸された場合の対応は万全にしてはいるつもりだけど、上陸された時点で負けは確定だろうし、やはりダウ・ルーには防波堤として、機能してもらう必要がある。
だから、戦艦の開発を急がせているのだ。
「装甲艦とかいう奴か。蒸気機関を組み込んで、帆船とは違い、自力で航行する船」
ゴドワンはちらっとケイン先生に目配せをする。知恵袋としての意見を求められた先生は、「そうですねぇ」と呟いてから、腕を組み、思案を始める。
だが、それは一秒程度のもので、先生はなにか答えを得たらしく、頷いていた。
「不可能ではないですね。鉄を装甲にした船は全くないわけではありませんでしたが、一番のネックはその重さでした。そんな重たい船でも、海には浮かびますし、風を受けて進むこともできなくはない。ですが、鈍重すぎる。それを、蒸気機関ならばカバーできます。計算上では、ということを付け加えさせてもらいますが」
うんうん、頭のいい人がいるだけで話ってとんとん拍子に進むわよね。
なおかつ私の不得意な分野に対して知恵が回るってのがいいわ。ほんと、ゲヒルト騎士団長には頭が下がる。
貴重な人材をこうして手に入れることができたのだし。
「船大工や鍛冶職人を集める必要があります。まぁ、それぐらいは見越して動いているのでしょうけど」
「えぇ、アルバート様にはその旨も伝えてあります。技術者たちも同行するとのことですから。船の改造に立ち会う関係上、しばらくはあちらの国に滞在することになりますが?」
「必要な行為だ。あちらには出向いてきてもらってばかりだからな。こちらからも顔を出す必要がある。初日はわしも同行するが、その後は代理としてアベルを置いていく。イスズ、お前も残るだろう?」
「はい、お船もそうですが、お塩の工房も覗いておきたいですからね」
「留守の間は任せておけ。まぁ、難民たちの帰化も落ち着いてきたし、工場の方もしばらくは通常稼働で済む。蒸気機関も組み立て作業だけならば、今の面々でも可能だろう。船のことで、ケインは連れていくのだろう」
この、つーかーなやり取りだけを見ると、呼吸のあった夫婦に見えるんだろうなぁ。
実際は割り切ったビジネスパートナー同士とは思わないでしょうね。
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