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第78話 ゴム銃とコルク銃
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銃の開発というものは別に私がどうこう言わなくてもすでに研究は進んでいる。このあたりはさすがは文明といったところかしら。ここで私が偉そうに講釈を垂れ流す必要はない。
私が銃開発に対して行うのは資金援助と資源の提供に過ぎない。一時期、技術者たちを囲うように集めた関係か、気が付くとマッケンジー領はある種の科学技術工房のような存在へと移行していた。
まさしく文化の最先端をひた走るような状況だということ。
進んでいく技術と文化が戦争のものばかりというのは気に入らないけれど、これこそまさしく時期が悪いって奴だと思う。
「小銃の開発が進めば、サルバトーレは軍事的には他国を、一歩も二歩も先を行くことになる……大国故の経済力と技術力といったところでしょうか」
アザリーの姿をしたラウは銃工房の見学もしたいということなので、私はそのまま、二人で工房へを足を運ぶ。このあたりの区画はどうしてもこう、鼻につくにおいがする。火薬の原料のせいだけど、そこは深く考えないことにしていた。
「いずれ、戦場は剣や魔法ではなくこの火薬と鉄の塊が飛び交うことになると思いますわ王子……いえ、アザリー」
個人の戦闘であればまだしも、集団による戦いともなれば結局は飛び道具と破壊力のある兵器が重要になるのだと思う。私は戦争というかミリタリーについては詳しくないから、細かいところはわからないけど、人間の歴史で火薬と銃が発展していったことを考えれば、この異世界もそう変わらないものだと思う。
魔法があるから銃は進歩しないかもしれない。そんなよくわからない理屈が、一瞬だけ私の脳裏を駆け巡ったことはあったけど、それはないと今なら断言できる。
結局のところ、この世界で魔法が扱えるものは、魔法が使えないものよりも少ない。
魔法は、人間が一人で持つには十分すぎる力だし、事実いくつもの奇跡を実現させる。冷蔵庫もないにものを凍らせて保存できるのだから、実際便利だ。
ゆえに魔法は権威となり、力となり、貴族という立場を名乗ることを許されている。
多分、この構図は変わらないと思う。なんだかんだといっても魔法が使えるというのは個人にとっては大きなアドバンテージだ。
しかし、プライドで人間は戦いには勝てない。限度がある。それを補うのが武器であり、兵器というわけだ。
「騎士の時代は終わるのですか、母上」
「んーそうは思わないわね。確かに戦争は様変わりするかもしれないし、遠い未来では想像もつかないようなものが使われるかもしれない。だけど、貴族は貴族、騎士は騎士という概念は形は変わっても残ると思うわ」
私は試作品の火縄銃を手に取る。ただ形だけも模型のようなものだが、発射機構がないだけで、引き金を引いたりはできる。
私は見様見真似な格好で銃を構えた。うぅん、重いし、狙いが付けられるとは思えないわね。
もともと、初期の銃は命中精度に難があり、射程距離も大砲程ではなかった。命中すれば確かに鎧を貫通し、致命傷を与えるけど、連射が出来なくて一度撃てばその間は脆弱になる。
それを解決するのが、単純な話、数を揃えるというものだ。
私のような日本人(元)からすれば織田信長の三段撃ちなんかが有名だろうか。あれも諸説あるけど、信長が行ったとされる戦法は銃を使う上、西洋では当然のごとく考えられていた戦法なわけだし。
「剣や槍を持つ騎士から、銃に代わるだけ。そうね、銃士とでもいいましょうか。ただ持つべき武器が変わるだけ。それに、人間って一度根付いた習慣をそう簡単には捨てられないものよ。」
元いた世界でも古来より続く王族は残っているし、騎士や貴族という存在は消えていない。かつてほどのものではなくとも、名誉として受け継がれ、与えられているものだ。
「それに、私としては銃というのは人を殺すだけじゃない。大型の野生動物に立ち向かう時、剣や槍だけじゃ恐ろしいけれど、銃があればもしくは……と考えられるでしょう?」
まぁ、クマなんかを相手にするときに、果たしてマスケット銃とかの威力で通用するかどうかは色々と疑問だけど。聞くところによると、あいつら近代の銃ですら普通に耐えてくるとかなんとか。全く以って恐ろしい。
しかも、この世界、異世界でファンタジーなせいか、一応モンスターなる存在もいる。大半が野生動物の延長線で、よっぽどの大物でもない限りは対処も難しくないとかなんとか。
ただ、そういえばアルバートが海には頭がたくさんあるデカいサメがいるとか言ってたわね……陸地にもいるんだろうなぁ、そういうの……。
「うむ、そうですね。陸ザメは恐ろしいと聞きます。連中は、地上を這って泳ぐように進むと聞きますし」
「……ねぇ、それサメじゃなくてワニ……」
「いえ、サメです。サメの頭と体を持っています。それが地面を突き進んで、陸地をびったん、びったんと這うようです。確か、北の方の土地では繁殖期になるといつも被害が出るとか」
ちょっと待って。
なんで、この世界、サメなの。なんか、開発者の趣味が透けて見えてくるわよ。
「まさかと思うけど、手足のはえたサメ人間なんていないでしょうね」
「魚人ですか? さぁ、ここでは見たことないですね。遥か極東の国ではそれらが住まう国があると聞きますが」
そういやこの世界、一応亜人もいるらしいのよね。
ゲームにそんなキャラ出てきたかどうかすら怪しいけど。あれね、設定だけは作ったけど、出す機会がなかったとか、続編に使う予定とかそういうのね。
「ただ、サメなのに、尾びれ部分が人間の足をしたような化け物が打ち上げられていたという話は有名です」
もうサメはいいってば!
「そ、そう……怖いわね……と、とにかくよ。そういう危険生物から身を守る為にも銃は必要よ。そうだ、これこそまだ試作段階だけど、少し、撃つ?」
「え、銃が撃てるのですか?」
「えぇ、ですが、本物じゃありませんよ?」
そういって私はラウを連れて銃工房をあとにして、一度、鉄鋼会社に戻る。
仕事関係の物品は基本ここに置いておくのだ。社長室に向かい、ロッカーを開ける。そこには今まで作ってきた金属やその原料となる鉱石が一部保管されている。その隣の小さなロッカーを引き出すと、そこには細い木をくみ、ゴムで固定した銃を取りだす。
そう、輪ゴム銃だ。この世界だとゴムは結構貴重なのだけど、まぁそれはそれ。少しぐらい融通させた。
「あとは、これね。空気銃……とまではいかないか」
次いで取り出したのはお祭りなんかで見かけるコルク銃だ。
構造はかなり単純化させたもので、縁日で使うほどの威力はないけど、それでもコルクを発射することぐらいはできる。
「は、母上、これは!?」
「おもちゃよ。銃の玩具。ほら、こっちはトリガーを引けば……」
ぴしゅっと軽い音がなって、輪ゴムが飛び出す。
実は輪ゴム銃って、小さい頃よく父親に作ってもらったのよね。なので、私もそれに付き合って作り方を教えてもらったというわけだ。
「こういう、玩具も作れると、子供たちは喜ぶと思いましてね」
そういいながら、二つの玩具の銃をラウに渡すと、彼はかなり目を輝かせていた。アザリーの姿だから女の子が喜んでいるように見ええるけど、これはこれでまたさまになる。
それに、辛いことがあって、混乱するようなことになっている。
だったら、せめて私たちの前では、子供らしい扱いをしてあげたいと思うのが、人情じゃない?
私が銃開発に対して行うのは資金援助と資源の提供に過ぎない。一時期、技術者たちを囲うように集めた関係か、気が付くとマッケンジー領はある種の科学技術工房のような存在へと移行していた。
まさしく文化の最先端をひた走るような状況だということ。
進んでいく技術と文化が戦争のものばかりというのは気に入らないけれど、これこそまさしく時期が悪いって奴だと思う。
「小銃の開発が進めば、サルバトーレは軍事的には他国を、一歩も二歩も先を行くことになる……大国故の経済力と技術力といったところでしょうか」
アザリーの姿をしたラウは銃工房の見学もしたいということなので、私はそのまま、二人で工房へを足を運ぶ。このあたりの区画はどうしてもこう、鼻につくにおいがする。火薬の原料のせいだけど、そこは深く考えないことにしていた。
「いずれ、戦場は剣や魔法ではなくこの火薬と鉄の塊が飛び交うことになると思いますわ王子……いえ、アザリー」
個人の戦闘であればまだしも、集団による戦いともなれば結局は飛び道具と破壊力のある兵器が重要になるのだと思う。私は戦争というかミリタリーについては詳しくないから、細かいところはわからないけど、人間の歴史で火薬と銃が発展していったことを考えれば、この異世界もそう変わらないものだと思う。
魔法があるから銃は進歩しないかもしれない。そんなよくわからない理屈が、一瞬だけ私の脳裏を駆け巡ったことはあったけど、それはないと今なら断言できる。
結局のところ、この世界で魔法が扱えるものは、魔法が使えないものよりも少ない。
魔法は、人間が一人で持つには十分すぎる力だし、事実いくつもの奇跡を実現させる。冷蔵庫もないにものを凍らせて保存できるのだから、実際便利だ。
ゆえに魔法は権威となり、力となり、貴族という立場を名乗ることを許されている。
多分、この構図は変わらないと思う。なんだかんだといっても魔法が使えるというのは個人にとっては大きなアドバンテージだ。
しかし、プライドで人間は戦いには勝てない。限度がある。それを補うのが武器であり、兵器というわけだ。
「騎士の時代は終わるのですか、母上」
「んーそうは思わないわね。確かに戦争は様変わりするかもしれないし、遠い未来では想像もつかないようなものが使われるかもしれない。だけど、貴族は貴族、騎士は騎士という概念は形は変わっても残ると思うわ」
私は試作品の火縄銃を手に取る。ただ形だけも模型のようなものだが、発射機構がないだけで、引き金を引いたりはできる。
私は見様見真似な格好で銃を構えた。うぅん、重いし、狙いが付けられるとは思えないわね。
もともと、初期の銃は命中精度に難があり、射程距離も大砲程ではなかった。命中すれば確かに鎧を貫通し、致命傷を与えるけど、連射が出来なくて一度撃てばその間は脆弱になる。
それを解決するのが、単純な話、数を揃えるというものだ。
私のような日本人(元)からすれば織田信長の三段撃ちなんかが有名だろうか。あれも諸説あるけど、信長が行ったとされる戦法は銃を使う上、西洋では当然のごとく考えられていた戦法なわけだし。
「剣や槍を持つ騎士から、銃に代わるだけ。そうね、銃士とでもいいましょうか。ただ持つべき武器が変わるだけ。それに、人間って一度根付いた習慣をそう簡単には捨てられないものよ。」
元いた世界でも古来より続く王族は残っているし、騎士や貴族という存在は消えていない。かつてほどのものではなくとも、名誉として受け継がれ、与えられているものだ。
「それに、私としては銃というのは人を殺すだけじゃない。大型の野生動物に立ち向かう時、剣や槍だけじゃ恐ろしいけれど、銃があればもしくは……と考えられるでしょう?」
まぁ、クマなんかを相手にするときに、果たしてマスケット銃とかの威力で通用するかどうかは色々と疑問だけど。聞くところによると、あいつら近代の銃ですら普通に耐えてくるとかなんとか。全く以って恐ろしい。
しかも、この世界、異世界でファンタジーなせいか、一応モンスターなる存在もいる。大半が野生動物の延長線で、よっぽどの大物でもない限りは対処も難しくないとかなんとか。
ただ、そういえばアルバートが海には頭がたくさんあるデカいサメがいるとか言ってたわね……陸地にもいるんだろうなぁ、そういうの……。
「うむ、そうですね。陸ザメは恐ろしいと聞きます。連中は、地上を這って泳ぐように進むと聞きますし」
「……ねぇ、それサメじゃなくてワニ……」
「いえ、サメです。サメの頭と体を持っています。それが地面を突き進んで、陸地をびったん、びったんと這うようです。確か、北の方の土地では繁殖期になるといつも被害が出るとか」
ちょっと待って。
なんで、この世界、サメなの。なんか、開発者の趣味が透けて見えてくるわよ。
「まさかと思うけど、手足のはえたサメ人間なんていないでしょうね」
「魚人ですか? さぁ、ここでは見たことないですね。遥か極東の国ではそれらが住まう国があると聞きますが」
そういやこの世界、一応亜人もいるらしいのよね。
ゲームにそんなキャラ出てきたかどうかすら怪しいけど。あれね、設定だけは作ったけど、出す機会がなかったとか、続編に使う予定とかそういうのね。
「ただ、サメなのに、尾びれ部分が人間の足をしたような化け物が打ち上げられていたという話は有名です」
もうサメはいいってば!
「そ、そう……怖いわね……と、とにかくよ。そういう危険生物から身を守る為にも銃は必要よ。そうだ、これこそまだ試作段階だけど、少し、撃つ?」
「え、銃が撃てるのですか?」
「えぇ、ですが、本物じゃありませんよ?」
そういって私はラウを連れて銃工房をあとにして、一度、鉄鋼会社に戻る。
仕事関係の物品は基本ここに置いておくのだ。社長室に向かい、ロッカーを開ける。そこには今まで作ってきた金属やその原料となる鉱石が一部保管されている。その隣の小さなロッカーを引き出すと、そこには細い木をくみ、ゴムで固定した銃を取りだす。
そう、輪ゴム銃だ。この世界だとゴムは結構貴重なのだけど、まぁそれはそれ。少しぐらい融通させた。
「あとは、これね。空気銃……とまではいかないか」
次いで取り出したのはお祭りなんかで見かけるコルク銃だ。
構造はかなり単純化させたもので、縁日で使うほどの威力はないけど、それでもコルクを発射することぐらいはできる。
「は、母上、これは!?」
「おもちゃよ。銃の玩具。ほら、こっちはトリガーを引けば……」
ぴしゅっと軽い音がなって、輪ゴムが飛び出す。
実は輪ゴム銃って、小さい頃よく父親に作ってもらったのよね。なので、私もそれに付き合って作り方を教えてもらったというわけだ。
「こういう、玩具も作れると、子供たちは喜ぶと思いましてね」
そういいながら、二つの玩具の銃をラウに渡すと、彼はかなり目を輝かせていた。アザリーの姿だから女の子が喜んでいるように見ええるけど、これはこれでまたさまになる。
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