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第71話 鉱害汚染
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私の前世ともいうべきか、元いた世界における鉱業に関して、避けることのできない問題がある。これが鉱害と呼ばれる自然破壊。分かりやすく言えば公害というもの。
イタイイタイ病と呼ばれる事件が最も有名かもしれない。
なんであれ、山を崩して、鉄を作るという作業は多大なる被害を周囲に与える。
もちろん、技術の発展した現代社会であれば、多少なりとも被害を押さえ、汚染物質の軽減、もしくは再利用、同時に自然環境の回復に努めるけれど、そのような技術が確立したのはかなり最近の話。
仮に、この世界でそれを実現しようとすれば、それこそ数百年単位の技術革新を待たないといけない。
この問題に対して、私は多少、目を瞑っている部分もある。なるべく気を付けるようにはしているけれど、じゃあ今この世界で完璧にこれらの処理が行えるかというとそうでもない。
魔法はそこまで便利じゃないし、魔法使いである貴族はいまだに腰が重たい。こっちのお抱え魔法使いたちじゃ四六時中走り回ったって汚染物質を浄化なんてできっこない。
そもそも、そんな都合のいい魔法は存在しないし。
「これは、私個人の見解だから、その通りに受け取らないで欲しいのだけど、鉱物というのは有益なものだけじゃありません。使い方次第では私たちの生活を豊かにするでしょうけど、未だ、それらは私たちの手に負えるものばかりではないのです」
私は換気のつもりで窓を開けた。あまり、意味はないかもしれないけれど。念のため、簡易魔法で風を起こして、ちょっとした気流を作る。これでスティブナイトの粉末が消えてくれればいいけれど……微量だから、多分、大丈夫、だと思いたい。
そして私はペンダントに触れた手を消毒しておく。
「スティブナイト……輝安鉱とも呼ばれるこれは非常に毒性の強い鉱物です。見た目は、非常に美しく、まるで剣のような固まりは迫力があります。ですが……これには人を死に至らしめるほどの毒が含まれているのです。アンチモンと言えば、聞き覚えがありましょう?」
「銅貨や活字版を作るときに混ぜるあれか……!」
どうやらゴドワンはピンと来たらしい。
輝安鉱などはアンチモンと呼ばれる金属に属している。実はこのアンチモン系は古くから、利用されてきた金属だったりする。ゴドワンの言った通り、銅などに混ぜると化学反応によってその強度が増す。また活字合金とも呼ばれ、画期的な発明の一つとされてきた。
どうやらこの世界でもそれらの扱いは変わらないようだった。同時に、使用してはならない使用方法もあったようだけど。
「アンチモンを化粧に使った時代があると、虫が嫌う臭いを発するということで王族の女たちが顔に塗っていたと幼いころに教えてもらった」
「おいおい、毒なんだろ? 大丈夫なのかよ」
アベルはあきれた様子だった。
「女ってのは毒を塗ってまで、キレイになりたいのか?」
「馬鹿、そんなわけがあるか。それなりの被害はあったらしい。目に入って、失明したという話も聞いた。なんにせよ、おいそれと使えるものではない。取り扱いは、錬金術師でも気を付けるものだ。ゆえに、貴族の錬金術師はこわがり、扱うことがめっきり少なくなった」
ゴドワンの言う通り、アンチモンは顔料として使われた歴史がある。有名どころで言えば、どうやらクレオパトラはこれをアイシャドーとして使っていたとかなんとか。
それに、これは未来の発展に期待だけど、アンチモンは電池やプラスチックなどの原料にもなる。非常に有益な鉱物なのは間違いない。
きちんと取り扱える、技術が確立すればの話だけど。
かつて、日本は輝安鉱の鉱山があったぐらいだし、海底資源の開発が進めばその埋蔵量は数百年分を賄えると言われたぐらい。
「しかし、なんでまたそんな危ないものが……」
「知識がなければ、本当に勘違いするわよ……第一、鉱物を単なる石の固まりと思っている人はたくさんいる。触れれば手が焼けただれるようなものだってあるのに。中には、取り返しのつかない状態にまで体を破壊する悪魔のような石だってあるのよ……!」
例えば放射能。放射性物質と呼ばれるものだって、鉱物の中には存在するわ。
これらは、正直、手に負えない。利用できれば莫大なエネルギーを得られるけど、それこそ今は禁忌の代物。私はごめんよ、そんな危険を冒してまでは使いたくない。
それ以上に、輝安鉱なんて言う危険な鉱物を献上品に使う? それも食器として? これは明確な侵略であり、攻撃よ。
ハイカルンは毒物による汚染を受けていたんだわ。
「大至急、調べるべきだし、もっと言えばハイカルンに滞在している兵力を今すぐにでも下げさせる必要があるわ。嫌な予感がするの。輝安鉱のようなアンチモンだけで済めばいいけど、もっと恐ろしい事だって考えられる。ネリーっていう侍女の様子を見れば、そうも思いたくなるわ……彼女、血を吐いたのよ。内臓にダメージがあるのよ……!」
一体、何が原因なのかは分からない。
複数の原因があるのだろう。戦争被害というストレス、国から離れ放浪するという疲労、精神的にも肉体的にもハイカルンの国民はダメージを負っている可能性がある。
だけど、私は輝安鉱を見つけてしまった。気が付いてしまった。だからこそ、怖いのだ。
「敵は、鉱物の毒の事を知っている……偶然なのか、それとも意図的なのか……どちらにせよ、許せることじゃないわ」
イタイイタイ病と呼ばれる事件が最も有名かもしれない。
なんであれ、山を崩して、鉄を作るという作業は多大なる被害を周囲に与える。
もちろん、技術の発展した現代社会であれば、多少なりとも被害を押さえ、汚染物質の軽減、もしくは再利用、同時に自然環境の回復に努めるけれど、そのような技術が確立したのはかなり最近の話。
仮に、この世界でそれを実現しようとすれば、それこそ数百年単位の技術革新を待たないといけない。
この問題に対して、私は多少、目を瞑っている部分もある。なるべく気を付けるようにはしているけれど、じゃあ今この世界で完璧にこれらの処理が行えるかというとそうでもない。
魔法はそこまで便利じゃないし、魔法使いである貴族はいまだに腰が重たい。こっちのお抱え魔法使いたちじゃ四六時中走り回ったって汚染物質を浄化なんてできっこない。
そもそも、そんな都合のいい魔法は存在しないし。
「これは、私個人の見解だから、その通りに受け取らないで欲しいのだけど、鉱物というのは有益なものだけじゃありません。使い方次第では私たちの生活を豊かにするでしょうけど、未だ、それらは私たちの手に負えるものばかりではないのです」
私は換気のつもりで窓を開けた。あまり、意味はないかもしれないけれど。念のため、簡易魔法で風を起こして、ちょっとした気流を作る。これでスティブナイトの粉末が消えてくれればいいけれど……微量だから、多分、大丈夫、だと思いたい。
そして私はペンダントに触れた手を消毒しておく。
「スティブナイト……輝安鉱とも呼ばれるこれは非常に毒性の強い鉱物です。見た目は、非常に美しく、まるで剣のような固まりは迫力があります。ですが……これには人を死に至らしめるほどの毒が含まれているのです。アンチモンと言えば、聞き覚えがありましょう?」
「銅貨や活字版を作るときに混ぜるあれか……!」
どうやらゴドワンはピンと来たらしい。
輝安鉱などはアンチモンと呼ばれる金属に属している。実はこのアンチモン系は古くから、利用されてきた金属だったりする。ゴドワンの言った通り、銅などに混ぜると化学反応によってその強度が増す。また活字合金とも呼ばれ、画期的な発明の一つとされてきた。
どうやらこの世界でもそれらの扱いは変わらないようだった。同時に、使用してはならない使用方法もあったようだけど。
「アンチモンを化粧に使った時代があると、虫が嫌う臭いを発するということで王族の女たちが顔に塗っていたと幼いころに教えてもらった」
「おいおい、毒なんだろ? 大丈夫なのかよ」
アベルはあきれた様子だった。
「女ってのは毒を塗ってまで、キレイになりたいのか?」
「馬鹿、そんなわけがあるか。それなりの被害はあったらしい。目に入って、失明したという話も聞いた。なんにせよ、おいそれと使えるものではない。取り扱いは、錬金術師でも気を付けるものだ。ゆえに、貴族の錬金術師はこわがり、扱うことがめっきり少なくなった」
ゴドワンの言う通り、アンチモンは顔料として使われた歴史がある。有名どころで言えば、どうやらクレオパトラはこれをアイシャドーとして使っていたとかなんとか。
それに、これは未来の発展に期待だけど、アンチモンは電池やプラスチックなどの原料にもなる。非常に有益な鉱物なのは間違いない。
きちんと取り扱える、技術が確立すればの話だけど。
かつて、日本は輝安鉱の鉱山があったぐらいだし、海底資源の開発が進めばその埋蔵量は数百年分を賄えると言われたぐらい。
「しかし、なんでまたそんな危ないものが……」
「知識がなければ、本当に勘違いするわよ……第一、鉱物を単なる石の固まりと思っている人はたくさんいる。触れれば手が焼けただれるようなものだってあるのに。中には、取り返しのつかない状態にまで体を破壊する悪魔のような石だってあるのよ……!」
例えば放射能。放射性物質と呼ばれるものだって、鉱物の中には存在するわ。
これらは、正直、手に負えない。利用できれば莫大なエネルギーを得られるけど、それこそ今は禁忌の代物。私はごめんよ、そんな危険を冒してまでは使いたくない。
それ以上に、輝安鉱なんて言う危険な鉱物を献上品に使う? それも食器として? これは明確な侵略であり、攻撃よ。
ハイカルンは毒物による汚染を受けていたんだわ。
「大至急、調べるべきだし、もっと言えばハイカルンに滞在している兵力を今すぐにでも下げさせる必要があるわ。嫌な予感がするの。輝安鉱のようなアンチモンだけで済めばいいけど、もっと恐ろしい事だって考えられる。ネリーっていう侍女の様子を見れば、そうも思いたくなるわ……彼女、血を吐いたのよ。内臓にダメージがあるのよ……!」
一体、何が原因なのかは分からない。
複数の原因があるのだろう。戦争被害というストレス、国から離れ放浪するという疲労、精神的にも肉体的にもハイカルンの国民はダメージを負っている可能性がある。
だけど、私は輝安鉱を見つけてしまった。気が付いてしまった。だからこそ、怖いのだ。
「敵は、鉱物の毒の事を知っている……偶然なのか、それとも意図的なのか……どちらにせよ、許せることじゃないわ」
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