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第55話 姫君の自覚
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パブでの料理は意外と豪華というか、サワークリーム的な白くてさっぱりとしたソースのかかったサラダに、鶏肉が添えられたちょっぴりおしゃれな代物。
というか、この鶏肉、もしかしなくても鴨肉じゃないだろうか。
鴨肉って高級品ってイメージがあるのだけど。いや、普通に高級品よね?
なのに、お値段はちょっとは高いけど、平民でも支払えなくはないレベル。
「あぁ、これとってもおいしいですよ! 鴨のお肉なんて、私、初めてです!」
そしてグレースはここ最近で一番の笑顔じゃないかってぐらい、花満開な表情を浮かべている。グルメなのかしら。プレイした範囲では、まぁ確かによく何かを食べているイメージがあったけど、まさかここまでとはね。
お菓子が好きって設定は確か公式のものだったと思うけど、こんな痩せの大食いみたいな子だったの?
グレースは鴨肉サラダをぺろりと平らげ、今度はソーセージに手を付ける。なんだか妙に赤いけど、これはたぶん、血のソーセージかな?
「あなた、それ、よく食べられるわね……」
赤黒いソーセージをグレースは気にした様子もなくほおばっていく。
添え物の薄いクレープや、これまたサラダなんかと一緒に食べては幸せそうな顔を浮かべている。
「へ? だって、ソーセージですよね?」
「いや、そうだけどさ。それ、豚の血とか入ってるのよ?」
「そりゃあお肉ですし、入ってますよね?」
なに変なこと言ってんだろうこの人、みたいな目で見られた。
なんだろう。これはこれでちょっと、むかつく。
「や、そうじゃなくて」
血のソーセージ。これだけ言うとなんだか変な単語に聞こえるけど、この時代だとそう珍しいものじゃないらしい。私も初めて食卓に並んだ時は引きつったものだ。
家畜の血を混ぜ込んで、無駄なく処理するという名目。あと一応、栄養価も高いとか。
でもなぁ、私、これ苦手なのよね。アベルとかは「この風味が溜まらねぇ」とか言ってるけど、血が入って真っ赤なソーセージって……うん。
本来なら、お祝い事に出すはずのものだけど、どうやらここでは普通に提供しているらしい。
「ブラッドソーセージって、苦手な人が多いんですよね。でも、美味しいですよ?」
「あぁ、全くですプリンセス。このソーセージとシードルがあれば一日の疲れも吹っ飛ぶ勢いでさぁ。それなのに、イスズは酒は飲まない、好き嫌いは多いとわがままな女なのです。これで領主の妻というのですから、示しがつきませんとも」
「あら、それはダメよ、マヘリ……イスズさん。食材すべてに感謝を込めて食さないと。失礼に当たります」
な、なんだこいつら。
なんで結託してきたんだ。私はキッとアベルを睨みつける。が、アベルは全く気にせず自分の食事を続けた。
何よ、何よ。好き嫌いあって悪いのかしら。こっちはね、中身現代っ子なのよ。
三十路だけど。
「ふん、いんですよーだ。私は、日々の業務でカロリーを消費しているのですからね」
という言い訳を挟みつつ私はとにかくお肉を食べる。サラダもそれなりに。なんにせよ、料理が新鮮でおいしいのはいいことだわ。
ファンタジーだとか中世だとかのイメージする料理ってもうちょっと粗雑な感じがしたけど、案外そうじゃないし。
「というかね、グレース。あなた、同じこと言うかもだけど、プリンセスなのだから、そんなふらーっと外に出るだなんて真似はおよしなさい」
「そ、それは先ほど謝ったじゃないですか」
「謝って済むうちはそれでいいかもだけど……もしあなたがケガでもしたら、私、首飛ぶわよ」
「う……」
ありゃ、ちょっといじめ過ぎたかしら。
でも事実だし。
「お前、なんつーか、世話焼きの母親みてぇだな」
「誰が母親よ。あいにくと私はまだ……」
私はアベルの脛を蹴る。
「ってぇ! なんでだよ!」
「破廉恥なことを言わせようとしたからよ」
「お前が勝手に言い出したんだろうが!」
「ちょ、ちょっと、お二人。またそうやって」
そんなこんなで騒がしい昼食が続いていく。
このあともグレースはやたらと料理を注文するし、アベルは調子に乗って昼間から酒を飲もうとするので、もう一度はたいておいた。
騒がしいし、うるさいけど、まぁ、確かに楽しい昼食ではあったわね。
***
「ゲットーというものが見てみたいのです」
お腹もいっぱいになったし、さて次はどうしようかと考えていた矢先の事だった。
アベルが馬車の準備をしてくるという間、私たちは個室で待機していたのだけど、その時にグレースがそんなことを言い出した。
私は食後の紅茶を飲みながら、きょとんとしている。
「ゲットーに? またなんで」
「私は、戦争は嫌いです。争いが嫌いです。でも、起きてしまった事についてとやかく言えるような立場でもありませんし、その現実も知りません。ですから、戦争が何をもたらしたのかを見ておきたいのです」
「ふぅん?」
ゲットー。つまりはハイカルンによって国を追われた難民たちの居住区。私は彼らを手厚く保護して、労働力や戦力の確保に利用していた。全てが善意ではなく打算的なところもあるけれど。
そして彼らは今、私の期待以上に働いてくれている。作業に慣れてきたのと、仇敵打倒を掲げた今、彼らの士気は非常に高い。
そんな彼らの下に、グレースか……ちょっとしたお祭り騒ぎになりそうではあるわね。
でも、悪くはないと思う。
そろそろ私も見に行く時期だと思っていたし、グレースにも必要なことだと思うから。
「いいわよ。すぐに手配しましょう。ただ、あまり気持ちの良いものではないわよ?」
言葉は悪いが彼らは敗残者たちだ。
かつて、彼らを保護した直後は目が淀んでいて、多くの怪我人もいた。
今なお、それに苦しむものもいる。家族や土地を失った憎しみをたぎらせるものもいる。
もしかすれば、グレースにとっては心無い言葉を投げかけられるかもしれないが、それは、試練だと思うわ。
「私も、彼らのあの姿を見るまでは、戦争なんて遠いよその出来事だと思っていたけど……違ったわ。だから、気持ちのよいものじゃない。彼らを普通の生活に戻す為には、長い長い時間がかかりそうだって、思うわ」
だからこそ、戦争には勝つ。
絶対的に、圧倒的な勝利の下で。
というか、この鶏肉、もしかしなくても鴨肉じゃないだろうか。
鴨肉って高級品ってイメージがあるのだけど。いや、普通に高級品よね?
なのに、お値段はちょっとは高いけど、平民でも支払えなくはないレベル。
「あぁ、これとってもおいしいですよ! 鴨のお肉なんて、私、初めてです!」
そしてグレースはここ最近で一番の笑顔じゃないかってぐらい、花満開な表情を浮かべている。グルメなのかしら。プレイした範囲では、まぁ確かによく何かを食べているイメージがあったけど、まさかここまでとはね。
お菓子が好きって設定は確か公式のものだったと思うけど、こんな痩せの大食いみたいな子だったの?
グレースは鴨肉サラダをぺろりと平らげ、今度はソーセージに手を付ける。なんだか妙に赤いけど、これはたぶん、血のソーセージかな?
「あなた、それ、よく食べられるわね……」
赤黒いソーセージをグレースは気にした様子もなくほおばっていく。
添え物の薄いクレープや、これまたサラダなんかと一緒に食べては幸せそうな顔を浮かべている。
「へ? だって、ソーセージですよね?」
「いや、そうだけどさ。それ、豚の血とか入ってるのよ?」
「そりゃあお肉ですし、入ってますよね?」
なに変なこと言ってんだろうこの人、みたいな目で見られた。
なんだろう。これはこれでちょっと、むかつく。
「や、そうじゃなくて」
血のソーセージ。これだけ言うとなんだか変な単語に聞こえるけど、この時代だとそう珍しいものじゃないらしい。私も初めて食卓に並んだ時は引きつったものだ。
家畜の血を混ぜ込んで、無駄なく処理するという名目。あと一応、栄養価も高いとか。
でもなぁ、私、これ苦手なのよね。アベルとかは「この風味が溜まらねぇ」とか言ってるけど、血が入って真っ赤なソーセージって……うん。
本来なら、お祝い事に出すはずのものだけど、どうやらここでは普通に提供しているらしい。
「ブラッドソーセージって、苦手な人が多いんですよね。でも、美味しいですよ?」
「あぁ、全くですプリンセス。このソーセージとシードルがあれば一日の疲れも吹っ飛ぶ勢いでさぁ。それなのに、イスズは酒は飲まない、好き嫌いは多いとわがままな女なのです。これで領主の妻というのですから、示しがつきませんとも」
「あら、それはダメよ、マヘリ……イスズさん。食材すべてに感謝を込めて食さないと。失礼に当たります」
な、なんだこいつら。
なんで結託してきたんだ。私はキッとアベルを睨みつける。が、アベルは全く気にせず自分の食事を続けた。
何よ、何よ。好き嫌いあって悪いのかしら。こっちはね、中身現代っ子なのよ。
三十路だけど。
「ふん、いんですよーだ。私は、日々の業務でカロリーを消費しているのですからね」
という言い訳を挟みつつ私はとにかくお肉を食べる。サラダもそれなりに。なんにせよ、料理が新鮮でおいしいのはいいことだわ。
ファンタジーだとか中世だとかのイメージする料理ってもうちょっと粗雑な感じがしたけど、案外そうじゃないし。
「というかね、グレース。あなた、同じこと言うかもだけど、プリンセスなのだから、そんなふらーっと外に出るだなんて真似はおよしなさい」
「そ、それは先ほど謝ったじゃないですか」
「謝って済むうちはそれでいいかもだけど……もしあなたがケガでもしたら、私、首飛ぶわよ」
「う……」
ありゃ、ちょっといじめ過ぎたかしら。
でも事実だし。
「お前、なんつーか、世話焼きの母親みてぇだな」
「誰が母親よ。あいにくと私はまだ……」
私はアベルの脛を蹴る。
「ってぇ! なんでだよ!」
「破廉恥なことを言わせようとしたからよ」
「お前が勝手に言い出したんだろうが!」
「ちょ、ちょっと、お二人。またそうやって」
そんなこんなで騒がしい昼食が続いていく。
このあともグレースはやたらと料理を注文するし、アベルは調子に乗って昼間から酒を飲もうとするので、もう一度はたいておいた。
騒がしいし、うるさいけど、まぁ、確かに楽しい昼食ではあったわね。
***
「ゲットーというものが見てみたいのです」
お腹もいっぱいになったし、さて次はどうしようかと考えていた矢先の事だった。
アベルが馬車の準備をしてくるという間、私たちは個室で待機していたのだけど、その時にグレースがそんなことを言い出した。
私は食後の紅茶を飲みながら、きょとんとしている。
「ゲットーに? またなんで」
「私は、戦争は嫌いです。争いが嫌いです。でも、起きてしまった事についてとやかく言えるような立場でもありませんし、その現実も知りません。ですから、戦争が何をもたらしたのかを見ておきたいのです」
「ふぅん?」
ゲットー。つまりはハイカルンによって国を追われた難民たちの居住区。私は彼らを手厚く保護して、労働力や戦力の確保に利用していた。全てが善意ではなく打算的なところもあるけれど。
そして彼らは今、私の期待以上に働いてくれている。作業に慣れてきたのと、仇敵打倒を掲げた今、彼らの士気は非常に高い。
そんな彼らの下に、グレースか……ちょっとしたお祭り騒ぎになりそうではあるわね。
でも、悪くはないと思う。
そろそろ私も見に行く時期だと思っていたし、グレースにも必要なことだと思うから。
「いいわよ。すぐに手配しましょう。ただ、あまり気持ちの良いものではないわよ?」
言葉は悪いが彼らは敗残者たちだ。
かつて、彼らを保護した直後は目が淀んでいて、多くの怪我人もいた。
今なお、それに苦しむものもいる。家族や土地を失った憎しみをたぎらせるものもいる。
もしかすれば、グレースにとっては心無い言葉を投げかけられるかもしれないが、それは、試練だと思うわ。
「私も、彼らのあの姿を見るまでは、戦争なんて遠いよその出来事だと思っていたけど……違ったわ。だから、気持ちのよいものじゃない。彼らを普通の生活に戻す為には、長い長い時間がかかりそうだって、思うわ」
だからこそ、戦争には勝つ。
絶対的に、圧倒的な勝利の下で。
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