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第三章 コルマノン大騒動
113 定め
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「とりあえず止血しとけ。お前の異能なら何とかできるだろ」
「……ああ」
バロットの手を取り、体勢を整えたシルヴァ。バロットの助言に対し、神妙な顔つきでうなずいた。直後、不意に忘れていた左腕の強烈な痛みがシルヴァを襲い、かみしめる。激痛に目を細めつつも、『支配』の力を千切れて無くなった左腕の断片にかけ、疑似的に止血を施した。
痛みは消えない。だが、これ以上血液が外に流れることはない。不安を残した一安心、といったところでそんなシルヴァの耳を一瞬の破裂音が襲った。
「……っ!」
赤いオーラを纏ったシルヴァの拳。振り下ろされたそれをサラは波羅夷の刀身で受け止めていた。シルヴァの耳がとらえた破裂音とは、これらが相殺された時の音だった。
そう、ここはいまだ戦場。自分のことばかりに気をとられている場合ではない。シルヴァはごくんと息をのみ、痛みを意識から遠ざける。
「あァくそ……お前、早く死ね……!」
「随分と……っ! 短絡的ね……!」
シルヴァはそう震える声でサラを睨んでいた。その頬は涙に濡れて、振り下ろした拳は力か悲しみか怒りか、小刻みに震えていた。
そんな彼の拳を前に平然とした言葉遣いで応えるサラだったが、その表情には余裕がない。今でさえ拳と波羅夷で拮抗しているが、少しでも気を抜けばサラは力負けするだろう――戦闘経験が浅いシルヴァでも理解できた。
それをシルヴァのそばで見ていたバロットは腰からナイフを取り出し、両手にそれぞれ握る。それからシェルムから視線を外さず、シルヴァへ声をかけた。
「お前が落とした武器を手に取れ。ありゃルトブルク製の銃器だ――手ぶらよりかは役に立つ」
「……よく知ってるな」
シェルムは多少のいがいがを覚えつつも、バロットの言葉に従う。気づけばシルヴァは『虚無の短銃』を落としてしまっていた。右腕が千切れたときに落としてしまったのだろう。暗闇の中に落ちていた『虚無の短銃』を『支配』の力で取り寄せ、右手に収める。
――ルトブルクとは、世界に存在する大国の一つであり、その中で唯一軍事国家を名乗る灰色の国。
バロットの言葉を信じるならば、『虚無の短銃』はルトブルクで造られたもののようだ。軍事に秀でた国であるからして、こんな兵器を造れるのも納得だ。しかし、どうしてルトブルクで造られた兵器がコルマノンの飯屋の亭主に渡ったのか――。
「いや、そんなことは後……!」
シルヴァはその疑問を振り切り、右手から短銃へ魔力を充填してシェルムへ向ける。
「まずはあのイカレた野郎を止める!」
「へっ、その通りだ」
魔弾を発砲。バロットも同時ににやりと笑い、地面を蹴った。
「……らぁっ!」
「!!」
サラは地面を踏みしめ、渾身の力でシェルムを押し返した。シェルムははっとした表情をしつつ、浮いた体を後ろ足でがっしりと地面へつける。同時に一発の魔弾がシェルムのもとへ到達しようとしていた。
「くどい!」
けれどその魔弾はシェルムに到達することなく、その直前の虚空で赤い火花を散らして消滅した。それを見てシルヴァは舌打ちしつつ、次弾の魔力を装填する。
その背後からサラが波羅夷でシェルムを切りつけるも、その奇襲に気づいていたシェルムは再びそれを赤い拳ではじき返した。そしてそのまま第二撃を与えようとシェルムは左腕を振り上げる。サラははじかれた波羅夷を足を踏み込み無理やり振り下ろし、その左腕の拳へとぶつけた。
甲高い破裂音。両者の攻撃がぶつかり合い、互いに退け合う。
そこへ飛び込んだのが両手にナイフを構えたバロットだった。とびかかる彼の姿がシェルムの赤く染まった瞳孔に映り込む。シェルムの体はサラの攻撃との相殺にあたり、反動で退いていた。普通ならばバロットの攻撃に対応できないであろう。
「――」
シェルムの瞳が赤く光る。バロットはそれを見た途端、何かを感じ取って咄嗟に両手のナイフで体を防御した。
刹那、シェルムの右手の中に赤い結晶が構築されたと思うと、それはどんどん構成され上へと――まるで一瞬で結晶化した塩のように――伸びていき、バロットの行き先を阻んだ。あらかじめ防御に回していたナイフでその赤い結晶を弾き、バロットはその反動でシェルムの距離をとって着地する。
シェルム、サラも遅れて体勢を立て直す。そしてその三人の立ち位置はバロットとサラがシェルムを挟む位置取りになっていて、シェルムは二人を交互に見据え冷静に状況を把握する。
遅れてシルヴァがバロットの後ろから駆け寄った。三対一。圧倒的にシェルムの人数不利。しかし、シェルムの瞳は冷静だった。
「……かつての味方と刃を交わす……か」
シェルムはぼそりと呟き、瞳を閉じる。その隙にバロットとサラは構えなおし、シルヴァも少し遅れてそれに倣った。
「……巡り巡って、我が経験となるか」
シェルムは再び瞳を開く。同時に右手の赤い結晶棒が砕け散り、その小さな粒が暗闇に光って舞い落ちる。
「因果応報でもない。ただの定めか」
「……ああ」
バロットの手を取り、体勢を整えたシルヴァ。バロットの助言に対し、神妙な顔つきでうなずいた。直後、不意に忘れていた左腕の強烈な痛みがシルヴァを襲い、かみしめる。激痛に目を細めつつも、『支配』の力を千切れて無くなった左腕の断片にかけ、疑似的に止血を施した。
痛みは消えない。だが、これ以上血液が外に流れることはない。不安を残した一安心、といったところでそんなシルヴァの耳を一瞬の破裂音が襲った。
「……っ!」
赤いオーラを纏ったシルヴァの拳。振り下ろされたそれをサラは波羅夷の刀身で受け止めていた。シルヴァの耳がとらえた破裂音とは、これらが相殺された時の音だった。
そう、ここはいまだ戦場。自分のことばかりに気をとられている場合ではない。シルヴァはごくんと息をのみ、痛みを意識から遠ざける。
「あァくそ……お前、早く死ね……!」
「随分と……っ! 短絡的ね……!」
シルヴァはそう震える声でサラを睨んでいた。その頬は涙に濡れて、振り下ろした拳は力か悲しみか怒りか、小刻みに震えていた。
そんな彼の拳を前に平然とした言葉遣いで応えるサラだったが、その表情には余裕がない。今でさえ拳と波羅夷で拮抗しているが、少しでも気を抜けばサラは力負けするだろう――戦闘経験が浅いシルヴァでも理解できた。
それをシルヴァのそばで見ていたバロットは腰からナイフを取り出し、両手にそれぞれ握る。それからシェルムから視線を外さず、シルヴァへ声をかけた。
「お前が落とした武器を手に取れ。ありゃルトブルク製の銃器だ――手ぶらよりかは役に立つ」
「……よく知ってるな」
シェルムは多少のいがいがを覚えつつも、バロットの言葉に従う。気づけばシルヴァは『虚無の短銃』を落としてしまっていた。右腕が千切れたときに落としてしまったのだろう。暗闇の中に落ちていた『虚無の短銃』を『支配』の力で取り寄せ、右手に収める。
――ルトブルクとは、世界に存在する大国の一つであり、その中で唯一軍事国家を名乗る灰色の国。
バロットの言葉を信じるならば、『虚無の短銃』はルトブルクで造られたもののようだ。軍事に秀でた国であるからして、こんな兵器を造れるのも納得だ。しかし、どうしてルトブルクで造られた兵器がコルマノンの飯屋の亭主に渡ったのか――。
「いや、そんなことは後……!」
シルヴァはその疑問を振り切り、右手から短銃へ魔力を充填してシェルムへ向ける。
「まずはあのイカレた野郎を止める!」
「へっ、その通りだ」
魔弾を発砲。バロットも同時ににやりと笑い、地面を蹴った。
「……らぁっ!」
「!!」
サラは地面を踏みしめ、渾身の力でシェルムを押し返した。シェルムははっとした表情をしつつ、浮いた体を後ろ足でがっしりと地面へつける。同時に一発の魔弾がシェルムのもとへ到達しようとしていた。
「くどい!」
けれどその魔弾はシェルムに到達することなく、その直前の虚空で赤い火花を散らして消滅した。それを見てシルヴァは舌打ちしつつ、次弾の魔力を装填する。
その背後からサラが波羅夷でシェルムを切りつけるも、その奇襲に気づいていたシェルムは再びそれを赤い拳ではじき返した。そしてそのまま第二撃を与えようとシェルムは左腕を振り上げる。サラははじかれた波羅夷を足を踏み込み無理やり振り下ろし、その左腕の拳へとぶつけた。
甲高い破裂音。両者の攻撃がぶつかり合い、互いに退け合う。
そこへ飛び込んだのが両手にナイフを構えたバロットだった。とびかかる彼の姿がシェルムの赤く染まった瞳孔に映り込む。シェルムの体はサラの攻撃との相殺にあたり、反動で退いていた。普通ならばバロットの攻撃に対応できないであろう。
「――」
シェルムの瞳が赤く光る。バロットはそれを見た途端、何かを感じ取って咄嗟に両手のナイフで体を防御した。
刹那、シェルムの右手の中に赤い結晶が構築されたと思うと、それはどんどん構成され上へと――まるで一瞬で結晶化した塩のように――伸びていき、バロットの行き先を阻んだ。あらかじめ防御に回していたナイフでその赤い結晶を弾き、バロットはその反動でシェルムの距離をとって着地する。
シェルム、サラも遅れて体勢を立て直す。そしてその三人の立ち位置はバロットとサラがシェルムを挟む位置取りになっていて、シェルムは二人を交互に見据え冷静に状況を把握する。
遅れてシルヴァがバロットの後ろから駆け寄った。三対一。圧倒的にシェルムの人数不利。しかし、シェルムの瞳は冷静だった。
「……かつての味方と刃を交わす……か」
シェルムはぼそりと呟き、瞳を閉じる。その隙にバロットとサラは構えなおし、シルヴァも少し遅れてそれに倣った。
「……巡り巡って、我が経験となるか」
シェルムは再び瞳を開く。同時に右手の赤い結晶棒が砕け散り、その小さな粒が暗闇に光って舞い落ちる。
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