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第三章 コルマノン大騒動
111 鬼血
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「ちっ……」
シルヴァをのみ込んだ赤き閃光。庭の半分が消し飛び、薄く煤煙が漂う中でシェルムは忌々しそうに舌打ちをした。
「……ぅぁ……」
シルヴァは焦げた地面にひれ伏しながら、小さくうめき声をあげる。
霞む視界。シルヴァは薄い意識で苛立ちを隠せないシェルムを見上げた。
体の各部位が焼け焦げて、ヒリヒリするような不思議な感覚だった。手が、足が、どこにあるのか分からない。動かすこともできない。動いているのか分からない。
それでもシルヴァは視界にシェルムの姿が入ると、これまでのことが脳裏に浮かんできて、"自分がなすべきこと"を本能的に捉えた。だから彼は立ち上がろうとする。
「……ぁ?」
左腕を支えにして立ち上がろうとしたはずが、シルヴァは思いっきりバランスを崩して倒れた。地面に倒れ、視界がぐらりと変化する。
そして倒れたシルヴァの視界に入った、黒い物体。長方形のように見えたけど、凝視してみるとそれは円柱に近かった。それは地面に落ちていた。どこか見覚えがある気がした。ふにゃり、と途中で凹んでいる。柔らかそうで、しかしその先っぽからは突出物があって、棒を軸に柔らかいものがついているようだった。
その突出物は骨だった。
倒れこんだシルヴァが見たものは、自らの左腕だった。
「あ……ぁあぁあ!?」
"それ"を理解した途端、強烈な電流を流されたのかのように、シルヴァの左腕あたりに激痛が走った。正確にはシルヴァの左腕は千切れていたので、左肩の断面に激痛が走ったのだろう。
「あぁぁあぁぁ……!」
それは痛みであるかさえも定かではない。熱なのか、電流なのか、凍なのか。シルヴァの想像を超えた感覚が彼の脳へと届いていた。足を曲げ、体を転げ、黒く枯れた大地の上で、シルヴァはのたうち回る。
「馴染みきれねぇ……。クソ、やっぱり適性がねぇとこうなるのか」
シェルムは呻いて転げまわるシルヴァなど気にもしない様子で、やはり苛立っていた。
シルヴァへと放った赤い光線――赤隠の威光。それは本来ならば、シルヴァの左腕ごときではなく、その全身を消し炭ににしてこの世から消滅させていただろう。
しかし、結果的にシルヴァは左腕が"千切れた程度"で済んでいる。その原因はシェルムが取り込んだ『鬼血』にあった。
『鬼血』。通常の者が無理やりに取り込めば、体が『鬼血』に耐え切れず、皮膚が乾き体は瓦解する。実のところ、シェルムもその"通常の者"に該当していた。
ではなぜ彼の体は無事なのか。それは単純明快、彼の意識と肉体が無理やり『鬼血』を押さえつけているに過ぎない。つまり、シェルムの体は力加減一つ違っただけで瓦解し始める段階にあるということだ。
シェルムはその体と『鬼血』のせめぎあいの調整にリソースを割いていた。そちらへ意識の大半を向けていたから、『赤隠の威光』の威力が疎かになったのだ。
シェルムはそれを理解しつつ、自分に言い聞かせるようにぼやく。
「だがもう少し……時間さえあれば……っ!」
シェルムに着弾する斬撃。それを受け止めた彼は激しい轟音と共に衝撃で地面に足が埋まり、体が滑っていく。も、何とかその斬撃を『鬼血』の腕で払った。斬撃は青き粒子となって虚空に消え、斬撃とシェルムのぶつかり合いの余波である砂埃だけがその場に残る。
シェルムは深い息を吐くと、斬撃が飛んできた方向を見て睨んだ。
「……俺が乗り捨てた女狐がァ……! しゃしゃり出てくんな……!」
「お生憎様――生命力だけは自信があるのよ」
その先にいたのは、長髪の女性だった。腰まで続く長い髪は、その大半が赤いが毛先が黄色に染まっている。狐目の紅い瞳孔でシェルムを睨みつけ、手には妖刀を携えていた。
その女性――サラを見たシェルムは、心底嫌そうに顔を歪めたのだった。
シルヴァをのみ込んだ赤き閃光。庭の半分が消し飛び、薄く煤煙が漂う中でシェルムは忌々しそうに舌打ちをした。
「……ぅぁ……」
シルヴァは焦げた地面にひれ伏しながら、小さくうめき声をあげる。
霞む視界。シルヴァは薄い意識で苛立ちを隠せないシェルムを見上げた。
体の各部位が焼け焦げて、ヒリヒリするような不思議な感覚だった。手が、足が、どこにあるのか分からない。動かすこともできない。動いているのか分からない。
それでもシルヴァは視界にシェルムの姿が入ると、これまでのことが脳裏に浮かんできて、"自分がなすべきこと"を本能的に捉えた。だから彼は立ち上がろうとする。
「……ぁ?」
左腕を支えにして立ち上がろうとしたはずが、シルヴァは思いっきりバランスを崩して倒れた。地面に倒れ、視界がぐらりと変化する。
そして倒れたシルヴァの視界に入った、黒い物体。長方形のように見えたけど、凝視してみるとそれは円柱に近かった。それは地面に落ちていた。どこか見覚えがある気がした。ふにゃり、と途中で凹んでいる。柔らかそうで、しかしその先っぽからは突出物があって、棒を軸に柔らかいものがついているようだった。
その突出物は骨だった。
倒れこんだシルヴァが見たものは、自らの左腕だった。
「あ……ぁあぁあ!?」
"それ"を理解した途端、強烈な電流を流されたのかのように、シルヴァの左腕あたりに激痛が走った。正確にはシルヴァの左腕は千切れていたので、左肩の断面に激痛が走ったのだろう。
「あぁぁあぁぁ……!」
それは痛みであるかさえも定かではない。熱なのか、電流なのか、凍なのか。シルヴァの想像を超えた感覚が彼の脳へと届いていた。足を曲げ、体を転げ、黒く枯れた大地の上で、シルヴァはのたうち回る。
「馴染みきれねぇ……。クソ、やっぱり適性がねぇとこうなるのか」
シェルムは呻いて転げまわるシルヴァなど気にもしない様子で、やはり苛立っていた。
シルヴァへと放った赤い光線――赤隠の威光。それは本来ならば、シルヴァの左腕ごときではなく、その全身を消し炭ににしてこの世から消滅させていただろう。
しかし、結果的にシルヴァは左腕が"千切れた程度"で済んでいる。その原因はシェルムが取り込んだ『鬼血』にあった。
『鬼血』。通常の者が無理やりに取り込めば、体が『鬼血』に耐え切れず、皮膚が乾き体は瓦解する。実のところ、シェルムもその"通常の者"に該当していた。
ではなぜ彼の体は無事なのか。それは単純明快、彼の意識と肉体が無理やり『鬼血』を押さえつけているに過ぎない。つまり、シェルムの体は力加減一つ違っただけで瓦解し始める段階にあるということだ。
シェルムはその体と『鬼血』のせめぎあいの調整にリソースを割いていた。そちらへ意識の大半を向けていたから、『赤隠の威光』の威力が疎かになったのだ。
シェルムはそれを理解しつつ、自分に言い聞かせるようにぼやく。
「だがもう少し……時間さえあれば……っ!」
シェルムに着弾する斬撃。それを受け止めた彼は激しい轟音と共に衝撃で地面に足が埋まり、体が滑っていく。も、何とかその斬撃を『鬼血』の腕で払った。斬撃は青き粒子となって虚空に消え、斬撃とシェルムのぶつかり合いの余波である砂埃だけがその場に残る。
シェルムは深い息を吐くと、斬撃が飛んできた方向を見て睨んだ。
「……俺が乗り捨てた女狐がァ……! しゃしゃり出てくんな……!」
「お生憎様――生命力だけは自信があるのよ」
その先にいたのは、長髪の女性だった。腰まで続く長い髪は、その大半が赤いが毛先が黄色に染まっている。狐目の紅い瞳孔でシェルムを睨みつけ、手には妖刀を携えていた。
その女性――サラを見たシェルムは、心底嫌そうに顔を歪めたのだった。
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