傀儡使いと獣耳少女の世界遍歴

トンボ

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第三章 コルマノン大騒動

109 地下室の執事

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 武装した使用人の二人を鎖鎌で縛り上げた後、跳び蹴りで気絶させた。鎖にまかれ、うなだれる二人を前にしてシアンは息を吐く。

 彼女はリスチーヌの言葉を聞き、地下室への階段を見つけたところだった。今シアンが下した二人はその見張りであろう。

「この下に……!」

 シアンは下へと続く不気味な階段を見つめた。そこからはひんやりと冷たい空気が流れてきていて、シアンの足元をなでる。

 液状武装を鎖鎌から指輪に戻した。そして瞳をつぶり息を整えると、足音をたてないようにしながら地下室へと向かった。

 明かりは壁に設置されている蝋燭のみ。シアンは薄暗い階段をひたすら下だる。

 と、少し下ったところで明かりが見えた。姿勢を低くし、その先を見据えるように勝手を変える。

 一段、また一段と、階段を下りていくにつれて、明かりの向こうの景色が見えてきた。明かりは真っすぐいったところの、突き当たって左から漏れていた。その地下道は階段から一直線でそこに繋がっている。

「……」

 シアンは足音を消して、角まで迫った。そしてゆっくりと向こう側に顔を出し――、

「――っ」

 その額に一閃の刃が走った。シアンはギリギリのところで転んでかわし、その使用者を見る。

「ほぅ。避けますかな」

 皺だらけのその男は感心したように言った。そして自らの剣を構えなおす。

 シアンへ攻撃したのは、顔中が皺だらけで白い髭に白髪の老人だった。着ている服からして、この屋敷の執事であろう。シアンもその老人に対し、息をのんで構えた。

「そのご様子ですと、リスチーヌ様は……」
「……うん、倒したよ」

 静かに目を伏せる執事に、シアンは真実を言い放った。ここで嘘を言っても仕様がない。正直なシアンに執事は目を見開くと、くすくすと小さく笑う。

「そうですか……とても残念です。おっと、自己紹介がまだでした」

 初老の執事はなんと自らの剣を鞘に納めた。

「私の名はランドル。この屋敷でご主人様の執事をしております。故に、貴女を通すわけにはいかない」
「ということは、この先にディヴィさんがいるんだね?」
「えぇ。我が主と共に」

 それを聞いたシアンは『液状武装』の指輪を大鎌に変化させ、その柄を握りしめた。それを見たランドルは驚いて目を見開いた。

 指輪という小物から、大鎌という大ぶりな武器への変化。――『液状武装』を知っている者はともかく、ランドルのような所見の者は大鎌が突然現れたように思えるのだろう。

 ランドルは見開いた瞳を細めると、感慨深そうに言った。

「ほぅ……。奇特な術を使うのですねぇ」

 ランドルは腰に差した剣をゆっくり抜き取り、構える。その構えは静かで地味ながらも、隙は感じられない。

 この人、強い……!

 シアンは息を吐き、自らを落ち着かせるように彼へと言った。

「……ご老人だからって、手加減できないからね?」
「えぇ。どうぞ全力で」

 ランドルは余裕の表情でそう返す。シアンは息を呑んで大鎌を握りなおした。
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