108 / 119
第三章 コルマノン大騒動
106 二手に
しおりを挟む
「……っ!」
シルヴァとシアンの目線の先にある、赤い旋風。それは徐々に収束していき、その中心にいたシェルムの手のひらに収まる。模型のように小さくなった竜巻をひらの上に遊ばせながら、シェルムは笑った。
「やろう。最終戦だ」
「くそ……っ!」
彼と対峙していたバロットはその言葉を聞きもせず、サラが倒れている方向へ走り出す。それを悟ったシェルムは手のひらの旋風に魔方陣を重ね、形を曲げると球形に束ねた。
その球体にはシルヴァの素人目から見ても分かるほど、凄まじい力が圧縮されている。どう使うのかは分からないが、どう使ったとしても大きな影響を及ぼすのだろう。
だからシルヴァはほぼ反射的に引き金を引いていた。
「……」
銃声は三つ。シェルムの目玉がぎょろりと動き、バロットからシルヴァへ標的を移す。
シルヴァの『虚無の短銃』から放たれた三つの魔弾は、シェルムの手のひらの上にある赤い球体へと向かっていった。
シルヴァはなんとしてでも、あの球体を壊さなければいけない気がしたのだ。自然と照準がその球体へと向いていた。
「……ふ」
「……!?」
それを見据えたシェルムは小さく笑う。同時に放たれた三つの魔弾が球体へと直撃した。
――否、三つ全ての魔弾が球体へと吸い込まれるように軌道が曲げられ、球体の中へと波紋を残して消えていった。その事実を前にして、シルヴァは目を見開く。
「なるほど……」
シェルムは少し納得したように綻ばせると、手の上の球体を握りつぶした。赤い球体は小さな火の粉のようなに、ひらりと舞う粒子となって虚空へと消えていく。
その刹那、シェルムは地面を蹴った。彼は瞬く間にバロットの前へと降り立つと、その右足をバロットに向かって放つ。
「そんなに俺に注目したいか……ッ?」
その動きをいち早く察知していたバロットはギリギリのところで右腕で蹴りを防御するも、その衝撃によって踏ん張りがつかず吹っ飛んだ。芝生の上を弾んで、屋敷と外を隔てる柵へと打ち付けられる。
「アンタは一つの"指標"なんですよ」
シャルムは吹っ飛んだバロットを見逃さない。右手の内で赤い光輪を出現させる。
「それに、アンタが死ねば――」
シェルムはそう言いながら、その光輪から放たれた一閃の赤い光をバロットに放った。
「俺がようやく見つかるかもしれない……!」
「――ッ!!」
その光は一瞬にして、いや、"それ"は質量を持たぬ現象。芝生を巻き上げ、一直線にバロットへ向かっていた"それ"は、本物の光のように、存在感もなく、バロットを射抜き、その周囲を爆風で包んだ。
その爆風はシェルムの前髪を優しく撫でた。それを立ち尽くして見ていたシルヴァとシアンの体も、ほんのり暖かい爆風に当てられる。その刹那の時間が、とても久しぶりに感じる静寂とも呼べるものだった。
しかしその静寂はすぐに過ぎ去った。シェルムの瞳が、シルヴァ達へと向いたのだ。
「ッシアン!」
シルヴァは咄嗟に叫びながら、シアンの前に立つと『虚無の短銃』へ魔力を充填する。
「君は屋敷の中にいるディヴィさんを探して! 僕はコイツを、できる限り止める!」
「し、シルヴァ……? でも」
「はやく! ディヴィさんを見つけたら二人で逃げろ! とても遠くに! 君か僕か、長く持つのは多分僕だ!」
シルヴァは息を呑んで、短銃を握りしめ、シェルムを睨んだ。
シアンは何か言いたそうに口を開こうとするも、すぐに閉じた。シアンも分かっていた。二人が束になっても、シェルムには敵わないと。
二人死ぬよりも一人。どちらかが囮の犠牲になれば、一人は生きて帰れるかもしれない。その希望を、みすみす捨てるわけにはいかなかった。
そしてシルヴァの『支配』の力は広範囲に及ぶ。物理的な攻撃鹿手段を持ち合わせているそれは、シアンよりも足止めに適している異能だった。
「お前らに大した恨みはない……。けれども」
シェルムはそう言いながら、ゆっくりとシルヴァ達の方へ体を向ける。それから腕を上げ、その指先をシルヴァの方へ差し出すと、ニヤリを口元を大きく曲げて笑った。
「それが見逃す理由にはならないんだよなァ……! 無残で印象的な死骸はァ! 多い方が目立つ!」
「シアン行け!」
シルヴァが叫ぶも、その視界に赤い何かがキラリと光る。
シェルムの指先の周囲に赤い光輪が展開された。シルヴァが息を呑む。それを見て愉悦そうに微笑むシェルム。
刹那、赤い光輪の中心からシルヴァに向かって赤い光が放たれた。それはバロットにとどめをさしたそれと酷似していた。シルヴァは咄嗟に『支配』の能力を"重ねる"。
シルヴァの方へ放たれた赤光は爆風を巻き起こす。爆音が耳を劈くと同じくして、シェルムの耳辺りにかかっていた白い髪が揺れた。一転して、さっきまでの笑いはどこへやら、シェルムは真剣な眼差しで巻き起こる土煙の方を見つめていた。
「……僕の死骸を地に転がしたいなら、もっとよく狙うんだね」
晴れていく土煙の中で、無傷のまま立っていたシェルムは、そう言って薄く笑ったのだった。
シルヴァとシアンの目線の先にある、赤い旋風。それは徐々に収束していき、その中心にいたシェルムの手のひらに収まる。模型のように小さくなった竜巻をひらの上に遊ばせながら、シェルムは笑った。
「やろう。最終戦だ」
「くそ……っ!」
彼と対峙していたバロットはその言葉を聞きもせず、サラが倒れている方向へ走り出す。それを悟ったシェルムは手のひらの旋風に魔方陣を重ね、形を曲げると球形に束ねた。
その球体にはシルヴァの素人目から見ても分かるほど、凄まじい力が圧縮されている。どう使うのかは分からないが、どう使ったとしても大きな影響を及ぼすのだろう。
だからシルヴァはほぼ反射的に引き金を引いていた。
「……」
銃声は三つ。シェルムの目玉がぎょろりと動き、バロットからシルヴァへ標的を移す。
シルヴァの『虚無の短銃』から放たれた三つの魔弾は、シェルムの手のひらの上にある赤い球体へと向かっていった。
シルヴァはなんとしてでも、あの球体を壊さなければいけない気がしたのだ。自然と照準がその球体へと向いていた。
「……ふ」
「……!?」
それを見据えたシェルムは小さく笑う。同時に放たれた三つの魔弾が球体へと直撃した。
――否、三つ全ての魔弾が球体へと吸い込まれるように軌道が曲げられ、球体の中へと波紋を残して消えていった。その事実を前にして、シルヴァは目を見開く。
「なるほど……」
シェルムは少し納得したように綻ばせると、手の上の球体を握りつぶした。赤い球体は小さな火の粉のようなに、ひらりと舞う粒子となって虚空へと消えていく。
その刹那、シェルムは地面を蹴った。彼は瞬く間にバロットの前へと降り立つと、その右足をバロットに向かって放つ。
「そんなに俺に注目したいか……ッ?」
その動きをいち早く察知していたバロットはギリギリのところで右腕で蹴りを防御するも、その衝撃によって踏ん張りがつかず吹っ飛んだ。芝生の上を弾んで、屋敷と外を隔てる柵へと打ち付けられる。
「アンタは一つの"指標"なんですよ」
シャルムは吹っ飛んだバロットを見逃さない。右手の内で赤い光輪を出現させる。
「それに、アンタが死ねば――」
シェルムはそう言いながら、その光輪から放たれた一閃の赤い光をバロットに放った。
「俺がようやく見つかるかもしれない……!」
「――ッ!!」
その光は一瞬にして、いや、"それ"は質量を持たぬ現象。芝生を巻き上げ、一直線にバロットへ向かっていた"それ"は、本物の光のように、存在感もなく、バロットを射抜き、その周囲を爆風で包んだ。
その爆風はシェルムの前髪を優しく撫でた。それを立ち尽くして見ていたシルヴァとシアンの体も、ほんのり暖かい爆風に当てられる。その刹那の時間が、とても久しぶりに感じる静寂とも呼べるものだった。
しかしその静寂はすぐに過ぎ去った。シェルムの瞳が、シルヴァ達へと向いたのだ。
「ッシアン!」
シルヴァは咄嗟に叫びながら、シアンの前に立つと『虚無の短銃』へ魔力を充填する。
「君は屋敷の中にいるディヴィさんを探して! 僕はコイツを、できる限り止める!」
「し、シルヴァ……? でも」
「はやく! ディヴィさんを見つけたら二人で逃げろ! とても遠くに! 君か僕か、長く持つのは多分僕だ!」
シルヴァは息を呑んで、短銃を握りしめ、シェルムを睨んだ。
シアンは何か言いたそうに口を開こうとするも、すぐに閉じた。シアンも分かっていた。二人が束になっても、シェルムには敵わないと。
二人死ぬよりも一人。どちらかが囮の犠牲になれば、一人は生きて帰れるかもしれない。その希望を、みすみす捨てるわけにはいかなかった。
そしてシルヴァの『支配』の力は広範囲に及ぶ。物理的な攻撃鹿手段を持ち合わせているそれは、シアンよりも足止めに適している異能だった。
「お前らに大した恨みはない……。けれども」
シェルムはそう言いながら、ゆっくりとシルヴァ達の方へ体を向ける。それから腕を上げ、その指先をシルヴァの方へ差し出すと、ニヤリを口元を大きく曲げて笑った。
「それが見逃す理由にはならないんだよなァ……! 無残で印象的な死骸はァ! 多い方が目立つ!」
「シアン行け!」
シルヴァが叫ぶも、その視界に赤い何かがキラリと光る。
シェルムの指先の周囲に赤い光輪が展開された。シルヴァが息を呑む。それを見て愉悦そうに微笑むシェルム。
刹那、赤い光輪の中心からシルヴァに向かって赤い光が放たれた。それはバロットにとどめをさしたそれと酷似していた。シルヴァは咄嗟に『支配』の能力を"重ねる"。
シルヴァの方へ放たれた赤光は爆風を巻き起こす。爆音が耳を劈くと同じくして、シェルムの耳辺りにかかっていた白い髪が揺れた。一転して、さっきまでの笑いはどこへやら、シェルムは真剣な眼差しで巻き起こる土煙の方を見つめていた。
「……僕の死骸を地に転がしたいなら、もっとよく狙うんだね」
晴れていく土煙の中で、無傷のまま立っていたシェルムは、そう言って薄く笑ったのだった。
0
お気に入りに追加
670
あなたにおすすめの小説
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜
西園寺おとば🌱
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。
どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。
- カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました!
- アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました!
- この話はフィクションです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜
EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」
優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。
傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。
そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。
次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。
最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
しかし、運命がそれを許さない。
一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか?
※他サイトにも掲載中

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい
斑目 ごたく
ファンタジー
「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。
さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。
失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。
彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。
そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。
彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。
そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。
やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。
これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。
火・木・土曜日20:10、定期更新中。
この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる