97 / 119
第三章 コルマノン大騒動
95 推測
しおりを挟むサラの身体を奪い取ったシェルムが、その黄色い瞳でバロットの方へ瞳を向け、じっと細める。バロットは息を整え、再び袖の中からナイフを滑らせ両手に掴んだ。
「套賊とはよく言ったものだな」
バロットはそう言ってシェルムが新たに得た黄色い瞳をドス黒い瞳で見返した。
「『身体を奪い取る』――それがお前の能力だったはずだが、いつの間にか能力だけを抜き取れるようにもなってんじゃねェか」
「あァ~~? んなこと、さっきの一瞬で気づくかぁ普通?」
「発動条件は『接触』。武器同士による間接的なものも含まれてるな。接触時間が長いほど、多くの能力を抜き取れる……違うか?」
「……」
バロットの言葉にシェルムがついに押し黙る。それから一つため息をこぼすと、手に取った刀を右手で遊ばせた。
「まァ。そういうことにしといてもいいんじゃねぇ~の?」
面白くなさそうな面で手元の刀に目を移すシェルム。そんな彼をバロットは注意深く見張っていた。
バロットによるシェルムの能力推測。それはいかにも知り尽くした風を装い発言されたが、それが正解であるという確証はない。シェルムの反応を見て、バロットの推測がどこまであっているのか答え合わせをする、または情報アドバンテージの開示による揺さぶりをかけるつもりだった。
けれど、シェルムの反応がとても判断材料にしにくいものであり、バロットは内心で舌打ちをした。全く持って役に立たなかった反応というわけでもないのがせめてもの救いか。
バロットの推測は半分ほど的を射ている。だが、どこかニュアンスが違う。シェルムの態度をもとにして、バロットが立てた解答だ。
その場で立ち尽くし、勝負を一時中断しているバロットとシェルムの二人。その嵐の前の静寂を打ち破ったのは、先ほどの勝負を口を開けて見つめることしかできなかった、ステフだった。
「な、何をしている貴様ら!? 早くアイツを叩き潰せ! 数で押し込むのだ!」
ステフと同じように、幻想が入り混じった三人の戦闘に尻込みしていた使用人たちに、そうやってステフは怒鳴る。その声にビクリと背中を震わせた使用人たちだったが、それと同時にバロットと対峙していたシェルムが割り込んでステフの方を振り向き、まさに鬼の形相ともとれる圧巻とした表情で怒鳴り返した。
「うっせぇぇええ! テメェらカスはすっこんでろ! こいつの相手は僕一人で――」
「――」
それは圧倒的な隙でもあった。バロットは一瞬にして自身の体を透過させ、シェルムの懐へと駆けこむ。
「っ!」
はっとしてシェルムはバロットの方へ視線を戻すが、すでに遅い。そこにはすでにバロットの姿はなく、代わりに自身の体を吹き飛ばす衝撃がシェルムを襲った。
「ぐっ……!」
毒づくシェルムはそのまま屋敷の二階の窓へと吹っ飛びガラスをぶち割って、ガラスの破片と共に中へと倒れ込んだ。
そのシェルムを蹴り飛ばしたバロットは、自らにかけた透過を解くとステフ率いる使用人たちをギロリと黒い眼で見返す。その深淵を想起させるような瞳孔に、ステフと彼率いる使用人たちは一斉にびくりと恐怖で顔が引きつった。
「俺は死体を積むことに疑念はない。……死にたい奴は出てくるといいさ」
バロットはそう言って屋敷へと向かって歩き出す。その様子に使用人たちは手も足も出せず、一歩下がって歩くバロットを見つめることしかできなかった。使用人たちへ怒鳴ったステフでさえも、息を呑んでそれを見守っている。
バロットはついに屋敷の目の前、すなわちステフが立つ前までたどり着いた。彼の両隣に構えていた二人のA級冒険者はすでに二歩ほど後ずさっており、ステフはバロットに対して一人で直面している形になっている。
そんな状況で、バロットはステフの目の前で立ち止まり、手を顔につけて小さく笑う。
「――臆病者め」
それだけ告げると、バロットは地面を蹴った。横に跳んで着地すると、もう一度地面を蹴って、今度はシェルムが吹っ飛ばされた二階の窓へと飛び乗った。窓の内側の縁を掴み、躊躇なく部屋の中を覗く。
「……」
豪華な装飾の施された部屋の真ん中には、二本の足が折れて壊れているテーブルがあった。さらにその倒れたテーブルには真ん中にヒビが大きく入っており、恐らくシェルムはこのテーブルに背中を打ったのだろうと推測できる。
部屋の目につく物はそれほどしかなく、肝心のシェルムの姿はなかった。恐らく彼はサラの異能である『幻惑』を使って、その部屋のどこかに潜んでいるのだろうか。けれど、その部屋と廊下を接続する白い扉はキーキーという音を立てて半開きの状態でかすかに動いている。それだけ見るとシェルムは急いで部屋を出たということもありえた。
とりあえず、バロットは部屋の中へと足を踏み入れた。
「……さて」
完全に待たれている戦況。バロットはナイフを両手に構えたのだった。
0
お気に入りに追加
670
あなたにおすすめの小説
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜
西園寺おとば🌱
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。
どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。
- カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました!
- アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました!
- この話はフィクションです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜
EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」
優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。
傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。
そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。
次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。
最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
しかし、運命がそれを許さない。
一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか?
※他サイトにも掲載中

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい
斑目 ごたく
ファンタジー
「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。
さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。
失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。
彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。
そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。
彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。
そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。
やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。
これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。
火・木・土曜日20:10、定期更新中。
この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる