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第三章 コルマノン大騒動
84 魔弾
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「――ッ!」
シルヴァは笑みを浮かべるバロットに対し、すぐさま手に持った虚無の短銃の引き金を引いた。同時に体の中から力が奪われ、それらは『弾丸』に姿を変えてバロットに向けて発射される。
バロットは後ろに跳び去りながら、一本のナイフを放たれた弾丸と相殺されるべく投げた。しかしシルヴァの弾丸はナイフを真正面からかち割り、勢いを緩めずバロットへと向かっていく。それを見据えながら、バロットは鉄の手すりに両足をつけ着地した。
「魔力を充填する銃か」
バロットはそう言いながら瞬時に手すりに手をつける。同時に夜の暗闇の中に溶け込みそうな鈍い色の手すりは、その姿を完全に闇夜へ溶かした。――バロットの能力、『透化』が使われたのだろう。
しかしその光景をシルヴァは不思議に思った。
今更そんなことしたところで、戦況は変わらない。魔の弾丸は一秒もしないうちにバロットを貫き、吹っ飛ばすだろう。足場の手すりを透明にしたところで、どうすることも――。
バロットは透明になった手すりを掴み、正面を向く。前には弾丸。もう数センチまで迫っていた。
「……っ!」
その直後、バロットの姿が消える。そしてシルヴァの脇腹に入る激痛。それがバロットによる蹴りであったことに気づいたのは、吹っ飛ばされ貯水槽の下の支えの棒に体を打ってからだった。
そのままバロットの姿はシルヴァの視界の中からも消える。――違う、消えたように見えるほど速く移動したのだ。
この状況でバロットが高速で移動した訳。シルヴァはそれを高速化した頭の回転で理解し、すぐさま『支配』の異能を発動させた。
「後ろっ……!」
「!」
シアンを狙って背後から彼女を奇襲したバロット。その蹴りはシルヴァにしたように彼女の脇腹へヒットすると思われたが、鈍い金属の音と共にその想像は裏切られる。
バロットの死角からの蹴りを、シアンは自らの鎌で防いでいた。足をがっしりと構え、その蹴りの衝撃をどうにか受け止めている。その彼女の防御に、バロットもかすかに表情を変えた。恐らく彼女の『未来視』が発動し、奇襲を読み取ったのだろう。
この時だ。シルヴァは『支配』の力を作用させた。
「くっ!」
明後日の方向から微かに、唸り空気を斬る音がバロットへと近づいてきていた。それにバロットは寸でのところで気づき、その場所から体が弾かれるように動かしたが、少し遅かった。
シルヴァの『支配』の力によって、制御され戻ってきた虚無の短銃の魔弾がバロットの頬をかする。その弾はそのままシルヴァの上にある貯水槽を打ち抜き、その空いた穴から水が吹き出した。
「まだだ……!」
シルヴァはよろめきながらも立ち上がり、再び虚無の短銃の引き金を、今度は二回引いた。それはシルヴァの体から力――もとい、バロットの言っていたことが正しいとするなら、シルヴァの体から魔力を徴収し、それを弾に還元して放った。
しかし、その発射を見ていたバロットが、その弾に当たるはずがない。先ほどのように、その速い動きでそれらを優にかわすと、シルヴァへと屋上に滴った水を踏みしめながら駆け出した。外れた弾丸がバロットの能力によって消えた手すりのどこかを打ち抜き、金属音が響く。
「――っ!」
さっきシルヴァの『支配』によって帰ってきた、一つの弾丸。それはバロットへの攻撃の意図も含まれていたが、それだけではない。
あの弾丸はバロットの頬をかすめたあと、貯水槽を打ち抜いた。その結果、中の水が屋上へと溢れ出る結果となった。そしてその水は屋上を薄く張り、その上を駆けるものを音と飛沫で表すレーダーとなる。
バロットの動きは速い。しかし二つの飛沫と音さえ分かればいい。その二つを感知できれば、その行く先を粗方予想できる。シルヴァは彼の行動に合わせ、自らの虚無の短銃を握りしめた。そして、それに魔力をこめる。
「――っおおお!」
「なっ……!」
今度は蹴りではなく、ナイフを手に持って刺しにかかったバロットの攻撃に、シルヴァは手の中にある虚無の短銃を持ち替え、弾を発射する細長い場所であるフレームとバレルのところを掴み、グリップの部分でバロットへ殴りかかった。
それはバロットのナイフとかち合い、お互いに相殺される。その勢いのまま、再びナイフで切りかかるバロット。一方シルヴァは振り下ろした虚無の短銃から手を離した。そのまま地面へと投げ出される短銃。それでもシルヴァは銃を持っていた手ではなく、もう片方の素手でバロットに殴りかかった。――この時、シルヴァの手から離れた虚無の短銃に、シルヴァは『支配』の力を込めていた。
間髪入れず、シルヴァの手から離れた短銃から、闇を切り裂く火花が散る。シルヴァの『支配』の力によって、空中で引かれた引き金。そしてその引き金によって放たれた魔弾はバロットの持つナイフの刃を打ち抜き、それを砕いた。刃を失ったバロットの動きが一旦止まる。そんな武器で差し掛かっても意味はないと瞬時に悟ったのだろう。が、その判断は間違いだった。何故なら、バロットにはシルヴァの拳が迫っていたのだから。
「ぐ……っ!」
シルヴァの拳がそのまま振るわれ、バロットに命中した。バロットの頬にシルヴァの渾身の拳が直撃し、彼はそのまま吹っ飛ぶ。そしてその先にいるのは、鎌を構えたシアン。
「これで……っ!」
シアンは鎌を振りかぶる。バロットはそれに気づき、忌々しそうに噛みしめた。
「こんなとこで……っ!」
バロットは吹っ飛んだままの状態で、懐から新たなナイフを取り出すと、それを屋上の床に突き刺して無理やり体の動きを緩めた。しかしそれだけでは止まるはずがない。突き刺したナイフが傾き、バロットの体がシアンの方へ吹っ飛びながら地面に落ちていく。
それでもバロットは突き刺したナイフを手から離すと、再びナイフを取り出す。そして再び地面へと突き刺した。今度は完全に体を止めることに成功したが、その位置はシアンの鎌のリーチの内だった。
「……っ!」
振り下ろされるシアンの鎌。バロットはそれでもあきらめず、ナイフを持った手に力を入れて、そのナイフを握る手を唯一の視点として、逆立ちをする。そしてそのまま体を前に倒して、ギリギリ鎌のリーチから逃れ、シアンの攻撃を躱した。
体をしならせ、なんとかそのまま立ち上がったバロット。しかし彼は気づいていなかった。背後から近づく、二つの風を斬る音に。
金属を打ち抜く二つの音。それに気づいて後ろを振り向こうとするバロットだったが、もう遅い。
「がっ……!?」
シルヴァの『支配』によって操られ、戻ってきた二発の魔弾がバロットを背中から射抜いた。これはバロットをけん制するために、彼の視界の中でシルヴァが放った二発の弾丸だ。シルヴァは撃った時から、その二つの弾丸に『支配』の力を込めていた。
「なっ……!」
背中を貫かれ、水の張った屋上に膝をつくバロット。そんな彼を見下ろしながら、シルヴァはゆっくりと歩いて近づいた。
「さっきぶりだけど、さっきとは違かったでしょ?」
バロットは怪我を負った背中を抑え、そんなシルヴァを見上げる。その視線を受けて、シルヴァはさっきバロットがシルヴァ達にやってみせたように、薄く笑って見せた。
「よく分からないけど……。最近の僕は、自分の『成長』を感じられるんだ。そして今も、貴方のおかげで『成長』できた」
以前、『オルレゾー』でゴルドという無精ひげの男と戦った時と同じ感覚を得ながら、シルヴァはそう言って虚無の短銃の砲口をバロットに向けたのだった。
シルヴァは笑みを浮かべるバロットに対し、すぐさま手に持った虚無の短銃の引き金を引いた。同時に体の中から力が奪われ、それらは『弾丸』に姿を変えてバロットに向けて発射される。
バロットは後ろに跳び去りながら、一本のナイフを放たれた弾丸と相殺されるべく投げた。しかしシルヴァの弾丸はナイフを真正面からかち割り、勢いを緩めずバロットへと向かっていく。それを見据えながら、バロットは鉄の手すりに両足をつけ着地した。
「魔力を充填する銃か」
バロットはそう言いながら瞬時に手すりに手をつける。同時に夜の暗闇の中に溶け込みそうな鈍い色の手すりは、その姿を完全に闇夜へ溶かした。――バロットの能力、『透化』が使われたのだろう。
しかしその光景をシルヴァは不思議に思った。
今更そんなことしたところで、戦況は変わらない。魔の弾丸は一秒もしないうちにバロットを貫き、吹っ飛ばすだろう。足場の手すりを透明にしたところで、どうすることも――。
バロットは透明になった手すりを掴み、正面を向く。前には弾丸。もう数センチまで迫っていた。
「……っ!」
その直後、バロットの姿が消える。そしてシルヴァの脇腹に入る激痛。それがバロットによる蹴りであったことに気づいたのは、吹っ飛ばされ貯水槽の下の支えの棒に体を打ってからだった。
そのままバロットの姿はシルヴァの視界の中からも消える。――違う、消えたように見えるほど速く移動したのだ。
この状況でバロットが高速で移動した訳。シルヴァはそれを高速化した頭の回転で理解し、すぐさま『支配』の異能を発動させた。
「後ろっ……!」
「!」
シアンを狙って背後から彼女を奇襲したバロット。その蹴りはシルヴァにしたように彼女の脇腹へヒットすると思われたが、鈍い金属の音と共にその想像は裏切られる。
バロットの死角からの蹴りを、シアンは自らの鎌で防いでいた。足をがっしりと構え、その蹴りの衝撃をどうにか受け止めている。その彼女の防御に、バロットもかすかに表情を変えた。恐らく彼女の『未来視』が発動し、奇襲を読み取ったのだろう。
この時だ。シルヴァは『支配』の力を作用させた。
「くっ!」
明後日の方向から微かに、唸り空気を斬る音がバロットへと近づいてきていた。それにバロットは寸でのところで気づき、その場所から体が弾かれるように動かしたが、少し遅かった。
シルヴァの『支配』の力によって、制御され戻ってきた虚無の短銃の魔弾がバロットの頬をかする。その弾はそのままシルヴァの上にある貯水槽を打ち抜き、その空いた穴から水が吹き出した。
「まだだ……!」
シルヴァはよろめきながらも立ち上がり、再び虚無の短銃の引き金を、今度は二回引いた。それはシルヴァの体から力――もとい、バロットの言っていたことが正しいとするなら、シルヴァの体から魔力を徴収し、それを弾に還元して放った。
しかし、その発射を見ていたバロットが、その弾に当たるはずがない。先ほどのように、その速い動きでそれらを優にかわすと、シルヴァへと屋上に滴った水を踏みしめながら駆け出した。外れた弾丸がバロットの能力によって消えた手すりのどこかを打ち抜き、金属音が響く。
「――っ!」
さっきシルヴァの『支配』によって帰ってきた、一つの弾丸。それはバロットへの攻撃の意図も含まれていたが、それだけではない。
あの弾丸はバロットの頬をかすめたあと、貯水槽を打ち抜いた。その結果、中の水が屋上へと溢れ出る結果となった。そしてその水は屋上を薄く張り、その上を駆けるものを音と飛沫で表すレーダーとなる。
バロットの動きは速い。しかし二つの飛沫と音さえ分かればいい。その二つを感知できれば、その行く先を粗方予想できる。シルヴァは彼の行動に合わせ、自らの虚無の短銃を握りしめた。そして、それに魔力をこめる。
「――っおおお!」
「なっ……!」
今度は蹴りではなく、ナイフを手に持って刺しにかかったバロットの攻撃に、シルヴァは手の中にある虚無の短銃を持ち替え、弾を発射する細長い場所であるフレームとバレルのところを掴み、グリップの部分でバロットへ殴りかかった。
それはバロットのナイフとかち合い、お互いに相殺される。その勢いのまま、再びナイフで切りかかるバロット。一方シルヴァは振り下ろした虚無の短銃から手を離した。そのまま地面へと投げ出される短銃。それでもシルヴァは銃を持っていた手ではなく、もう片方の素手でバロットに殴りかかった。――この時、シルヴァの手から離れた虚無の短銃に、シルヴァは『支配』の力を込めていた。
間髪入れず、シルヴァの手から離れた短銃から、闇を切り裂く火花が散る。シルヴァの『支配』の力によって、空中で引かれた引き金。そしてその引き金によって放たれた魔弾はバロットの持つナイフの刃を打ち抜き、それを砕いた。刃を失ったバロットの動きが一旦止まる。そんな武器で差し掛かっても意味はないと瞬時に悟ったのだろう。が、その判断は間違いだった。何故なら、バロットにはシルヴァの拳が迫っていたのだから。
「ぐ……っ!」
シルヴァの拳がそのまま振るわれ、バロットに命中した。バロットの頬にシルヴァの渾身の拳が直撃し、彼はそのまま吹っ飛ぶ。そしてその先にいるのは、鎌を構えたシアン。
「これで……っ!」
シアンは鎌を振りかぶる。バロットはそれに気づき、忌々しそうに噛みしめた。
「こんなとこで……っ!」
バロットは吹っ飛んだままの状態で、懐から新たなナイフを取り出すと、それを屋上の床に突き刺して無理やり体の動きを緩めた。しかしそれだけでは止まるはずがない。突き刺したナイフが傾き、バロットの体がシアンの方へ吹っ飛びながら地面に落ちていく。
それでもバロットは突き刺したナイフを手から離すと、再びナイフを取り出す。そして再び地面へと突き刺した。今度は完全に体を止めることに成功したが、その位置はシアンの鎌のリーチの内だった。
「……っ!」
振り下ろされるシアンの鎌。バロットはそれでもあきらめず、ナイフを持った手に力を入れて、そのナイフを握る手を唯一の視点として、逆立ちをする。そしてそのまま体を前に倒して、ギリギリ鎌のリーチから逃れ、シアンの攻撃を躱した。
体をしならせ、なんとかそのまま立ち上がったバロット。しかし彼は気づいていなかった。背後から近づく、二つの風を斬る音に。
金属を打ち抜く二つの音。それに気づいて後ろを振り向こうとするバロットだったが、もう遅い。
「がっ……!?」
シルヴァの『支配』によって操られ、戻ってきた二発の魔弾がバロットを背中から射抜いた。これはバロットをけん制するために、彼の視界の中でシルヴァが放った二発の弾丸だ。シルヴァは撃った時から、その二つの弾丸に『支配』の力を込めていた。
「なっ……!」
背中を貫かれ、水の張った屋上に膝をつくバロット。そんな彼を見下ろしながら、シルヴァはゆっくりと歩いて近づいた。
「さっきぶりだけど、さっきとは違かったでしょ?」
バロットは怪我を負った背中を抑え、そんなシルヴァを見上げる。その視線を受けて、シルヴァはさっきバロットがシルヴァ達にやってみせたように、薄く笑って見せた。
「よく分からないけど……。最近の僕は、自分の『成長』を感じられるんだ。そして今も、貴方のおかげで『成長』できた」
以前、『オルレゾー』でゴルドという無精ひげの男と戦った時と同じ感覚を得ながら、シルヴァはそう言って虚無の短銃の砲口をバロットに向けたのだった。
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