傀儡使いと獣耳少女の世界遍歴

トンボ

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第三章 コルマノン大騒動

75 暴発した企み

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「……」

 冷たい夜風が通り過ぎては夜の冷涼を感じさせる。シルヴァとシアンは背後の男の言葉に背筋を凍らせていた。

「……」

 何かを言うべきか、いやこの場合は沈黙を貫くことが最善のはず。余計なことを言ってさらに疑われるわけにはいかない。

 けれど、気持ちの悪い沈黙は非常に居心地が悪い。つい何かを口走ってしまいたい気分がふつふつと湧いてくる。

 シルヴァはこのタイミングを利用して、彼らを撃退しようという算段も頭に浮かんだが、逆にそれこそがあの男の狙いなんじゃないかとも思えてきた。

「……」

 シルヴァはちらりと、後ろの二人を見つめる。ナイフの柄の部分をシルヴァの背中に押し付ける男と、その隣にはサラと呼ばれたシアンを確保した女がいた。

 やはり二人は後ろにいた。そこからはシアンのメッセージを視界に入れることはできないはず。ならば、これはブラフか。

 そこまで考えなおして、ちょっと安堵するシルヴァ。
 けれど、それは次の瞬間に危機感へと姿を変えた。

「――」

「ぐっ……!」

 背後へと意識を向けていたシルヴァの横から、シアンのくぐもった悲鳴が聞こえる。
 シルヴァはすぐさま彼女の方へ視線を向けた。

「なっ……!」

 そこには、後ろにいたはず・・・・・・・のサラがシアンの首を掴み、その軽い体を持ち上げていた。シルヴァはその事態に面食らっていたその瞬間に、男はシルヴァの背後に回ってナイフの刃を首元に晒し、腕でシルヴァの首もしめる。

「この指輪……」

 サラはシアンの首を絞める腕とは反対側の腕で、指輪となった『液状武装』をはめている指を手に取って、まじまじと見ていた。男に羽交い絞めにされながらも、シルヴァはもう一度さっきまでサラがいた場所を見る。そこには暗闇が漂っているだけで、当然ながらそこにサラはいない。

 いつの間にかサラは音もなくシアンの前に移動していたのだ。どういうカラクリなのかは不明だが、この状況からして『液状武装』による秘密の合図も見られていた、ということか。

「っ……!」

 ここまできては逆王手にかけられたようなもの。異能支配を隠し通すのは、もう止めだ。

「――っ」
「お……?」

 サラの『液状武装』をまじまじと見る視線、そしてシルヴァを力強く絞める男の微かな震えが止まる。――シルヴァの『支配』が発動したのだ。

 そしてすぐさま二人をそれぞれ逆の方向へ吹っ飛ばす。彼らは数メートル遠くまで吹っ飛び、サラは建物のコクリートに叩きつけられ、もう一人の男は倉庫か何かの建物のガラスをかち割って、その中へ吹き飛ばされた。

「シアン!」

「ごほっ……! だ、大丈夫……っ!」

 サラの手から解放されたシアンは地面に崩れ落ち、咳き込みながらも何とかすぐに立ち上がる。

「あの女の人……いきなり前に来て……」

「ああ……。僕も後ろを見てたけど、一瞬で前に移動してた……。仕組みを見破らないと相手をするのは危険かも」

 シルヴァはそう言いながら、前方後方にそれぞれ吹っ飛ばした彼らを見定めた。男の方は建物の中まで入ってしまったので分からないが、サラという女の方はすでに立ち上がっている。

 シアンもそれに気づいていたようで、『液状武装』を指輪から槍へと変形させて構えた。シルヴァも姿勢を低くし、襲撃に備える。

「シルヴァ、これからどうする……? あの二人を相手にするの?」

「……本音は姿をくらまして、安全圏から二人を狙いたいところだけどね……。この状況だと……」

 シルヴァはこちらへ歩いて向かってくるサラを見て目を細めた。

「素直に逃がしてはくれなさそうだ」

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