傀儡使いと獣耳少女の世界遍歴

トンボ

文字の大きさ
上 下
75 / 119
第三章 コルマノン大騒動

73 装い

しおりを挟む

 シルヴァはひとまず両手を上げて、反逆の意思はないと示す。右手には『虚無の短銃セフル・ラサーサ』が握られているが、首元にナイフを突きつけられいる状況では流石に役に立たない。

 それに――シルヴァは自分にナイフを突きつけている男を見る――シルヴァの前にいる男からは、ただならぬ威圧が放たれている。凍えるほどに冷たくて、それでいてドス黒い瞳がシルヴァを映していた。

「……目的は」

「連れていく。お前と、もう一人」

「……!」

 シルヴァの視線は驚いて腰を抜かしたように布団の上に座り込んで、こちらを見上げているドルフへ向けられる。そんな彼に対し、シルヴァを襲撃した男は全く持って無反応だ。

 つまり、今考えられる『もう一人』が誰かというのは。

「――っ! 分かった! 僕たち・・は抵抗しない! だから、ドルフさんたち・・には手を出すな!!」

 その『誰か』が誰を示しているのか、結論にたどり着いたシルヴァは真っ先にそう叫んだ。しんと静まった真夜中の一室で、シルヴァ一人の叫びを妨害するものはない。当然、隣の部屋にも届いたはずだ。

 男が侵入した際に、シルヴァの耳は他の音も捉えていた。普通ならば見逃してしまう程、小さく些細な音。それは隣の部屋から聞こえてきた。

「……」

 侵入者の男はじっとシルヴァを見定めるかのように目を細めると、右手の『虚無の短銃セフル・ラサーサ』を取り上げる。シルヴァはそれを黙って見過ごした。

 恐らく、侵入者は二人組。ドルフの部屋に入ると同時に、隣のニーナの部屋にも侵入している者がいるのだろう。これはシルヴァのほとんど根も葉もない推測であるのだけれど、それにも関わらず、シルヴァはその推測に対してどこか確信を得ていた。

 その一つの理由として、彼は『もう一人』と言っていたこと。シルヴァ以外の一人。ドルフにはノータッチであることから、それに該当するのは隣の部屋にいるシアンかニーナ。恐らくシアンだろう。二人狙うなら一人よりも二人で襲撃した方が不透明なイレギュラーも少ない……のではないだろうか。シルヴァの個人的な見解であるし、やはり根拠と呼べる根拠はない推測だが。

「僕をどうするつもりですか」

「……おい、そこの男。何か羽織るものを持ってこい」

 侵入者の男は立ち位置をシルヴァの背後に回るのと同時に、シルヴァの質問を完全に無視した。侵入者の男に指示されたドルフは恐れを顔に出しながらも、唾をのんで男の指示に従う。

 ドルフは緊張に満ちた硬い足取りでタンスに向かい、中からハンガーにかかっていたこげ茶色のコートを取り出した。それを握りしめると、後ろからナイフを突きつけられたシルヴァのもとへ行き、手渡す。

「……羽織ればいいんですよね?」

「……」

「いてっ……」

 シルヴァは背後でナイフを構える男に軽い調子で問うも、無言のままナイフの柄の部分で軽くどつかれた。無駄口は慎めということだろうか。全く余裕のない態度――否、ここはシルヴァに余裕を与えない立ち回りというべきだろう。どんな相手であれ、油断を見せず隙を与えない徹底ぶりだ。シルヴァは黙ってコートを羽織る。

 この時点では、まだシルヴァの『支配』する能力で抵抗できることはできる。しかし、暗く戦闘員でもないドルフがいる比較的狭い部屋でおっぱじめるのは危険だ。だから、侵入者がシルヴァを殺そうとしない限り、まだ・・抵抗はしない。

 男はシルヴァに『連れていく』と言い、わざわざドルフのコートを着させた。ということは、必ず外にシルヴァ達を連れ出すはずだ。その時が狙い目。反撃のチャンスということだ。

 シルヴァは余裕を装いながらも、内心でゴクンと息を呑んだのだった。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜

西園寺おとば🌱
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく
ファンタジー
 「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。  さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。  失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。  彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。  そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。  彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。  そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。    やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。  これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。  火・木・土曜日20:10、定期更新中。  この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...