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第三章 コルマノン大騒動
66 食事処の夜
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太陽の代わりに月が昇る夜。
『食事処-彩食絹華』の店頭のランプには明かりが灯っていた。昼頃から玄関に下げていた『閉店』の小さな看板はもうそこにかかっていない。
中からも人の話し声が微かに聞こえてきていた。そしてまた、その戸をガラガラと開く者も現れる。
「いらっしゃい」
カウンター越しの厨房で、料理を作っている店の店主であり、料理人でもあるドルフが戸を跨いだ客に呼びかけた。
その客は店に入るや否や、店内を見渡す。
「なんだ、今日の昼に突然閉店したと聞いていたんだけど、大丈夫そうじゃないか」
「へい。おかげさまで」
お客の男の言葉に、ドルフは軽く頭を下げた。
自分以外の客足があったのと、店主であるドルフのいつもと変わらない態度に、その客は安堵の笑みをドルフに返した。
と、そんな客に近づいて来る青年が一人。客が彼に気づいて振り向くと、その青年は言った。
「お一人様ですね。こちらへ」
藍色の髪をした青年を見た客は少し驚いた後、すぐに表情をにこやかなものに戻す。そして、青年に案内されながら笑って言った。
「新しい店員さんを雇うなんて、ドルフさん、新しい試みかな。珍しいね」
カウンター席まで案内された客はその青年に「どうも」と軽く礼を言って、その席に座る。ドルフはカウンター越しに水の入ったコップを持ってきて、その客のテーブルに置いた。
「短い間ですがね。やっぱ人手があると楽ですわ」
「ハッハッハ! そりゃそうだ。じゃ、俺はいつもので」
「かしこまりました」
楽しそうな客を前に、ドルフも手慣れた様子でその『おまかせ』といういかにもな注文に了承する。
新入りの青年――シルヴァはその日常的によくあるやり取りにを前に、少しながらの疎外感を感じながら立ち尽くして見ていた。しかし、客の呼び出しがかかると、そうやって思いふけるのを止めて、返事をしてすぐにそちらへ向かったのだった。
どうしてシルヴァが店員として働いているのか。それは数時間前にまで遡る。
「泊まる宿決まってないなら、うちに泊まっていったら?」
それはニーナの一言だった。
レイニー家の一件があるせいで、シルヴァ達は外出さえ控えなくてはならない。そのことから、シルヴァは宿を取ることさえ躊躇してしまっていた。
そもそも、レイニー家の手がどこまで及んでいるかも分からない状態で、知らない宿で止まるということは中々リスキーだ。もし宿がライニー家の権力に渡っていた場合、食事に薬なんて混ぜられたら目も当てられない。
「それはありがたいな」
だから、そのニーナの提案は地味にありがたかった。ニーナたちはライニー家と衝突しているのであり、彼女らはシルヴァの味方だ。そういう心配はいらない。
「でもお店なんでしょ……? 迷惑じゃない……?」
シルヴァの隣に座るシアンは心配そうに獣耳を垂らした。
確かに、シアンの言う通りかもしれない。一階は食事処として、二階は生活スペースという仕組みになっている中で、二人が泊まるのは大きさ的に少し狭いかもしれない。
それに一階が商売どころであるので、何かの拍子で邪魔をしてしまうとまずい。
「うーん、大丈夫だよ」
と笑ってみせるニーナだけれど、少なくてもシルヴァの中で少し引っかかるものがあった。
そこでシアンが、
「ん~、じゃあさ、お店の仕事を私たちで手伝えばプラスマイナスゼロじゃない?」
と言ったのだった。
そんなこんなで、シルヴァが接客、シアンが厨房、と別れてバイト紛いのことをすることになった。
……まあ、たまにはこういうのもいいかな。
なんて、シルヴァは考えながら笑顔を張り付けて、接客をしていたのだった。
『食事処-彩食絹華』の店頭のランプには明かりが灯っていた。昼頃から玄関に下げていた『閉店』の小さな看板はもうそこにかかっていない。
中からも人の話し声が微かに聞こえてきていた。そしてまた、その戸をガラガラと開く者も現れる。
「いらっしゃい」
カウンター越しの厨房で、料理を作っている店の店主であり、料理人でもあるドルフが戸を跨いだ客に呼びかけた。
その客は店に入るや否や、店内を見渡す。
「なんだ、今日の昼に突然閉店したと聞いていたんだけど、大丈夫そうじゃないか」
「へい。おかげさまで」
お客の男の言葉に、ドルフは軽く頭を下げた。
自分以外の客足があったのと、店主であるドルフのいつもと変わらない態度に、その客は安堵の笑みをドルフに返した。
と、そんな客に近づいて来る青年が一人。客が彼に気づいて振り向くと、その青年は言った。
「お一人様ですね。こちらへ」
藍色の髪をした青年を見た客は少し驚いた後、すぐに表情をにこやかなものに戻す。そして、青年に案内されながら笑って言った。
「新しい店員さんを雇うなんて、ドルフさん、新しい試みかな。珍しいね」
カウンター席まで案内された客はその青年に「どうも」と軽く礼を言って、その席に座る。ドルフはカウンター越しに水の入ったコップを持ってきて、その客のテーブルに置いた。
「短い間ですがね。やっぱ人手があると楽ですわ」
「ハッハッハ! そりゃそうだ。じゃ、俺はいつもので」
「かしこまりました」
楽しそうな客を前に、ドルフも手慣れた様子でその『おまかせ』といういかにもな注文に了承する。
新入りの青年――シルヴァはその日常的によくあるやり取りにを前に、少しながらの疎外感を感じながら立ち尽くして見ていた。しかし、客の呼び出しがかかると、そうやって思いふけるのを止めて、返事をしてすぐにそちらへ向かったのだった。
どうしてシルヴァが店員として働いているのか。それは数時間前にまで遡る。
「泊まる宿決まってないなら、うちに泊まっていったら?」
それはニーナの一言だった。
レイニー家の一件があるせいで、シルヴァ達は外出さえ控えなくてはならない。そのことから、シルヴァは宿を取ることさえ躊躇してしまっていた。
そもそも、レイニー家の手がどこまで及んでいるかも分からない状態で、知らない宿で止まるということは中々リスキーだ。もし宿がライニー家の権力に渡っていた場合、食事に薬なんて混ぜられたら目も当てられない。
「それはありがたいな」
だから、そのニーナの提案は地味にありがたかった。ニーナたちはライニー家と衝突しているのであり、彼女らはシルヴァの味方だ。そういう心配はいらない。
「でもお店なんでしょ……? 迷惑じゃない……?」
シルヴァの隣に座るシアンは心配そうに獣耳を垂らした。
確かに、シアンの言う通りかもしれない。一階は食事処として、二階は生活スペースという仕組みになっている中で、二人が泊まるのは大きさ的に少し狭いかもしれない。
それに一階が商売どころであるので、何かの拍子で邪魔をしてしまうとまずい。
「うーん、大丈夫だよ」
と笑ってみせるニーナだけれど、少なくてもシルヴァの中で少し引っかかるものがあった。
そこでシアンが、
「ん~、じゃあさ、お店の仕事を私たちで手伝えばプラスマイナスゼロじゃない?」
と言ったのだった。
そんなこんなで、シルヴァが接客、シアンが厨房、と別れてバイト紛いのことをすることになった。
……まあ、たまにはこういうのもいいかな。
なんて、シルヴァは考えながら笑顔を張り付けて、接客をしていたのだった。
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