傀儡使いと獣耳少女の世界遍歴

トンボ

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第二章 大魔道書『神々の終焉讃歌録』

51 庶民派傀儡使い

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 シアンが『液体武装』をいじくっている間、シルヴァはアレンに言い忘れていたこを思い出した。シルヴァは楽しそうにしているシアンの邪魔をしないように、アレンへとぼそぼそ声で聞く。

「シアンの『未来視』の件なんだけど、任意で発動できないみたいなんだ。何か、発動のコツとか知ってる?」

「あー、無自覚の天然だったか。そればかりは本人次第だからなぁ……」

「そっか」

 シルヴァはアレンに小さくお礼をすると、再びシアンの方を見た。彼女なりに『液状武装』について研究しているらしく、今度はグローブにして腕にまとわせたりしている。

「グローブ、か。武器以外にも変化できるんだね」

「うん。武器以外にも変化させられるみたい」

 シアンはシルヴァの言葉を返すものの、視線はシルヴァには向かず『液状武装』に釘付けになっていた。
 グローブの次は小手。その次はなんとマントに変化させ、それを纏っていた。しかもマントに限っては青を被せた透明な色になっており、ひらひらとまるで布みたいな形状になっている。

「へえ。そんな変化もできるのか」

「ん? 知らなかったの?」

「ああ。武器になるとしか……。本当の布みたいだな」

 それはまさかの持ち主であるアレンすら知らない変化だったらしい。確かに名前からしても『液状武装』だし、防具ともいえなくはないマントに変化できてもおかしくはない、かもしれないが、布のようにヒラヒラと舞うまでとは。

 イスから少し離れ、体を回転させて楽しそうにマントをたなびかせるシアン。触っていないので質感は分からないが、本当に布みたいにマントはたなびいている。アレンだけでなく、シルヴァもその変化には驚きを隠せなかった。

「これ、想像以上に凄い代物っぽくない? ……本当に手放してよかったの?」

「うん? 別に構わないよ。どうせ使わないしね」

 シルヴァの言葉をアレンは笑って流した。
 まあよくよく考えてみれば、アレンに武器など必要ないのかもしれない。素手であれでけ戦えるのだ。もう武器一つで何かが変わる次元に彼はいないのかもしれない。

 シルヴァはふとシアンから目を離すと、テーブルの上に紫色の巾着があることに気づく。そういえば、アレンは『液状武装』のビンと一緒に、この巾着も持ってきていた。
 気になったシルヴァはアレンへ問う。

「こっちの巾着は?」

「そっちはくだらないものだ。あって困るものじゃないし、ぜひ使って」

 アレンはその巾着を掴むと、シルヴァへと軽く投げた。シルヴァは驚いてうまくキャッチできなかったものの、それが落ちてしまう寸前に支配の力で手元まで無理やり持っていく。
 そして手の中に入ったずっしりと重いそれを開けてみると、中にはキラキラと光る金貨がたくさん入っていた。

 シルヴァはそれを見た途端、思わずそれを投げ出した。口の開いた巾着がテーブルへ落ちて、中の金貨が音を立てて巾着の中から飛び出る。

「やばい……何この、え? モノホン?」

「本物だよ」

「うへぇ……」

 滅茶苦茶に驚くシルヴァにすまし顔でアレンは笑う。シルヴァは飛び出た金貨の前に顔を近づけると、ちょんちょんと指の先でそれをつついた。

 シルヴァはただの冒険者に過ぎなかったのだ。故にこのような金貨を手にしたことはない。今目の前にあるような大金を目にするのは初めてだった。

 ちょっと覗いて見えた金貨の量からして、半年は遊び惚けられるほどの量だった。シルヴァは震えながらアレンへ再び問う。

「え、本当にいただいても?」

「勿論」

「えぇぇ……」

 シルヴァは極めて庶民的だった。金持ちの欲望を秘めた神経があれば、その金貨を使って豪遊することを想像し、気分がとても楽しくなれたかもしれない。しかし、シルヴァは大金という無縁だったものを前にして、なんと少し恐怖していた。

「どうしよう……」

「えぇ……」

 今度はアレンが呆れたように変な声を上げる。大金を前にしたシルヴァは混乱していた。
 そんなシルヴァを知ってか、アレンはため息をつくと飛び出た金貨を巾着に戻し、その巾着をテーブルの上に滑らせてシルヴァの前によこした。そして言う。

「そんなおののくなって。シアンと美味いもんでも食べればいいよ」

 そう言ってほほ笑むアレンに、シルヴァは未だに神妙な顔をしながらも、今度はしっかりと受け取った。それからその巾着を懐へ仕舞う。

「ありがとう」

「それはこっちのセリフ。結果的に、俺は……」

 シルヴァが真剣な顔になり、アレンへ気持ちのこもった感謝を告げる。すると、アレンも同じくシルヴァを見つめた。けれど、そんなアレンから出てきた言葉は途中で途切れる。
 それを不可解に思ったシルヴァは訝し気な視線をアレンに向けるが、彼は困ったように笑って、

「なんでもない」

 と濁したのだった。
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