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第二章 大魔道書『神々の終焉讃歌録』
35 青い炎
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シルヴァ達の周りに漂う砂埃はほとんど消えていた。
ちらりと、精霊鷹の影から顔を出して、周囲を見てみる。八時の方向と十字の方向に鎧を着た誰かが倒れていて、そのさらに奥の林の茂みに動ける数人が隠れているようだ。
そして、その鎧たちがいる反対側に、アレンとカレンの姿を目視した。しゃがみ込むカレンと、彼女を守るような体制のアレン。
それらを見る限り、ひとまずは大丈夫そうだ。
しかし、彼らは戦えない。故に場の戦況を握ることができるのはシルヴァだけ――。
いや、違う。
シルヴァは倒れている鎧の方へ再び顔を出す。そして、彼らが持っていたと思われる槍と盾を、シルヴァは『支配』の能力で補足した。それからそれらを自分のもとへ引き寄せる。
シルヴァは自分の方へ飛ばしたそれらの装備を受け取ると、再び鷹の陰に隠れてシアンの方へ向いた。
「これ、渡しとく」
「……うん」
使い道だとか、そういう心得だとか、わざわざ言う必要もないだろう。シルヴァが差し出した槍と盾を、シアンはすんなりと受け取った。
「ところで、耳での感知はできるの? さっきは聞こえてたみたいだけど」
「それが、あの爆発のせいでちょっと聞きづらくなってる……。あんまり聞き取れない」
「そうか……。まあ、砂埃も消えたし、そこまで……」
シルヴァの言葉が途切れた。それはシルヴァがあえてそこで区切ったわけではない。
――肌にピリピリと、幻の痛みを伴うほどのプレッシャーを感じたのだ。
「何か来る……!」
「ああ……! アレン!」
シアンも同じようなものを感じいたようで、顔色を変えて槍と盾を構えた。
シルヴァは一目散にアレンの方へ叫ぶ。
「とりあえずこっちに!」
そのシルヴァの声を聞いて、アレンはシルヴァの方へ顔を向ける。あまり大声を出すのは得意ではなかったが、なんとか彼に届いたようだ。
しかし、
「……!?」
アレンがシルヴァの声を聞いたのは確かだったのだ。明らかにアレンはシルヴァの声に反応していた。
けれど、アレンが取った行動はそれに反するものだった。シルヴァの声を聞かなかったことにするかのように、シルヴァの指示にうなずきもせず、またその場から動こうとせず、再びカレンの方へ顔を戻したのだ。
その行動に何の意味があるのかは分からない。しかし、ヤバイ何かが来ることは肌で感じていた。故に、それを看過できない。
シルヴァは咄嗟に、シアンへ言った。
「僕が前に出て少しの間囮になる! だから君は、アレンの方に向かってくれ!」
「うんっ!」
盾にしていた精霊鷹を飛び越えて、敵陣の前に躍り出るシルヴァに、シアンはうなずいてその反対側、すなわちアレンの方へ向かった。
前線へ出てきたシルヴァだが、それに対抗して林の中で身を潜めている私兵たちは、何か攻撃を起こそうともしてこない。
少し嫌な予感が膨張していく中、シルヴァは盾としてさっきまで使っていた精霊鷹を、そちらの方へ『支配』の力を使って、勢いよくぶっ飛ばした。
ぶっ飛ばしただけだが、人が一人隠れられるほどの大きさの鷹だ。その分重量もあって、こう投げるだけでも直撃すれば、大きなダメージを与えられるはず。かなり地味な戦法だが。
――しかし、それは叶わない。
「――ッ!」
ゾクリ、と背筋が凍った。シルヴァは大きく目を見開き、どこからともなく来る凍えるほどの不安に恐怖する。
直後、兵たちが隠れていた林の奥から大きな火柱があがり、私兵ごと林の一面を吹き飛ばした。
シルヴァがその衝撃に腕で顔を抑える。飛ばした精霊鷹が、林の中からあふれ出る青い炎に包まれていった。
「よおアレン! 随分かわいい護衛を用意したなァ!」
燃え上がる林の中から、男の声がした。
不意に燃える炎の中から、空洞が生まれる。そして、そこを歩いてシルヴァの方へ向かってくる人影がひとつ。
シルヴァは身構えた。
「――さあ、テメェの持っている魔導書、頂こうか」
その男――ハーヴィンの後ろからとてつもない魔力が発せられ、燃え上がっていた辺りの炎が一気に鎮火した。
黒こげになっている木々の隙間から、シルヴァをプレッシャーで震え上がらせた原因であろう、その姿が露わになる。
青白い炎を宿した大きなトカゲ――一般には、サラマンダーと呼ばれる魔獣を従えて、ハーヴィンはその黄色い歯を見せて笑ったのだった。
ちらりと、精霊鷹の影から顔を出して、周囲を見てみる。八時の方向と十字の方向に鎧を着た誰かが倒れていて、そのさらに奥の林の茂みに動ける数人が隠れているようだ。
そして、その鎧たちがいる反対側に、アレンとカレンの姿を目視した。しゃがみ込むカレンと、彼女を守るような体制のアレン。
それらを見る限り、ひとまずは大丈夫そうだ。
しかし、彼らは戦えない。故に場の戦況を握ることができるのはシルヴァだけ――。
いや、違う。
シルヴァは倒れている鎧の方へ再び顔を出す。そして、彼らが持っていたと思われる槍と盾を、シルヴァは『支配』の能力で補足した。それからそれらを自分のもとへ引き寄せる。
シルヴァは自分の方へ飛ばしたそれらの装備を受け取ると、再び鷹の陰に隠れてシアンの方へ向いた。
「これ、渡しとく」
「……うん」
使い道だとか、そういう心得だとか、わざわざ言う必要もないだろう。シルヴァが差し出した槍と盾を、シアンはすんなりと受け取った。
「ところで、耳での感知はできるの? さっきは聞こえてたみたいだけど」
「それが、あの爆発のせいでちょっと聞きづらくなってる……。あんまり聞き取れない」
「そうか……。まあ、砂埃も消えたし、そこまで……」
シルヴァの言葉が途切れた。それはシルヴァがあえてそこで区切ったわけではない。
――肌にピリピリと、幻の痛みを伴うほどのプレッシャーを感じたのだ。
「何か来る……!」
「ああ……! アレン!」
シアンも同じようなものを感じいたようで、顔色を変えて槍と盾を構えた。
シルヴァは一目散にアレンの方へ叫ぶ。
「とりあえずこっちに!」
そのシルヴァの声を聞いて、アレンはシルヴァの方へ顔を向ける。あまり大声を出すのは得意ではなかったが、なんとか彼に届いたようだ。
しかし、
「……!?」
アレンがシルヴァの声を聞いたのは確かだったのだ。明らかにアレンはシルヴァの声に反応していた。
けれど、アレンが取った行動はそれに反するものだった。シルヴァの声を聞かなかったことにするかのように、シルヴァの指示にうなずきもせず、またその場から動こうとせず、再びカレンの方へ顔を戻したのだ。
その行動に何の意味があるのかは分からない。しかし、ヤバイ何かが来ることは肌で感じていた。故に、それを看過できない。
シルヴァは咄嗟に、シアンへ言った。
「僕が前に出て少しの間囮になる! だから君は、アレンの方に向かってくれ!」
「うんっ!」
盾にしていた精霊鷹を飛び越えて、敵陣の前に躍り出るシルヴァに、シアンはうなずいてその反対側、すなわちアレンの方へ向かった。
前線へ出てきたシルヴァだが、それに対抗して林の中で身を潜めている私兵たちは、何か攻撃を起こそうともしてこない。
少し嫌な予感が膨張していく中、シルヴァは盾としてさっきまで使っていた精霊鷹を、そちらの方へ『支配』の力を使って、勢いよくぶっ飛ばした。
ぶっ飛ばしただけだが、人が一人隠れられるほどの大きさの鷹だ。その分重量もあって、こう投げるだけでも直撃すれば、大きなダメージを与えられるはず。かなり地味な戦法だが。
――しかし、それは叶わない。
「――ッ!」
ゾクリ、と背筋が凍った。シルヴァは大きく目を見開き、どこからともなく来る凍えるほどの不安に恐怖する。
直後、兵たちが隠れていた林の奥から大きな火柱があがり、私兵ごと林の一面を吹き飛ばした。
シルヴァがその衝撃に腕で顔を抑える。飛ばした精霊鷹が、林の中からあふれ出る青い炎に包まれていった。
「よおアレン! 随分かわいい護衛を用意したなァ!」
燃え上がる林の中から、男の声がした。
不意に燃える炎の中から、空洞が生まれる。そして、そこを歩いてシルヴァの方へ向かってくる人影がひとつ。
シルヴァは身構えた。
「――さあ、テメェの持っている魔導書、頂こうか」
その男――ハーヴィンの後ろからとてつもない魔力が発せられ、燃え上がっていた辺りの炎が一気に鎮火した。
黒こげになっている木々の隙間から、シルヴァをプレッシャーで震え上がらせた原因であろう、その姿が露わになる。
青白い炎を宿した大きなトカゲ――一般には、サラマンダーと呼ばれる魔獣を従えて、ハーヴィンはその黄色い歯を見せて笑ったのだった。
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