傀儡使いと獣耳少女の世界遍歴

トンボ

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第二章 大魔道書『神々の終焉讃歌録』

33 束の間の

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 揺らぎぼやける視界。何かが軋む音。ぶわりと痛みの広がる頭。

 シルヴァは薄っすらと砂埃が舞う中、顔を上げた。どうやら生きているようだ。腕の中のシアンも、何とか生きている。

「けど、これは……」

 周りを見回すと、そこに家はなかった。視界に映るのは散乱した瓦礫と、なんとか残っている家の骨組み。緑の芝生は壊れて飛んだ家の材木に隠れ、辺りは姿を変えている。

 まるで、何かが爆発した後のようだ。――いや、十中八九そうなのだろう。
 白髪の男から出ていた青白い光。あれを放っていた何かが、爆発を起こした。そう考えるのが妥当だ。仕組みは分からないが。

「やばいな。すぐにアレンたちと合流しないと……」

 砂埃の中で目を細めるも、辺りに人影はない。アレンたちが心配だ。

 ふと、腕の中のシアンがやけに静かだという疑問が頭の中を過ぎ去る。
 もしかして、大けがを負ってしまったのか思い、彼女を揺らした。

「シアン! 大丈夫!?」

「……うん。大丈夫だよ……大丈夫……」

 シルヴァの声に、シアンは腕を上げて反応すると、彼の腕の中から出て、自らの足で立ち上がった。
 その少し淡々とした様子に心配になったシルヴァは、シアンへ問う。

「どうしたの? どこか痛んだり……?」

「……ううん。違う、違うの」

 シアンはシルヴァへ顔を向けると、元気のない笑顔を見せた。それからすぐに、自分の頭を両手で抑える。

 それを見たシルヴァはすぐさま立ち上がり、彼女の手をどけて、その獣耳のついた頭を優しく探った。しかし、どこにも怪我は見つからない。

 外部に怪我はない。ということは、内出血とかしているのだろうか――と、青ざめるシルヴァをシアンは制する。

 そして、小さくぼそぼそと言った。

「シルヴァ。私、こんなときになっても、頭から離れないの……」

「何が……?」

「……カレンだよ」

 シアンはそのまま優しく、自分の頭からシルヴァの手をどかした。

「……見ちゃったんだ。……言いたくなかったんだ。アレンが、魔導書を開いたとき、あの魔力にシルヴァも私も圧倒されてた。でも、」

 シアンは目を伏せて、獣耳をしゅんと垂らす。

「カレンは、あんなに近くにいたのに、平気そうな顔をしてた」

「……え」

 シアンの言葉をきっかけに、シルヴァもその時のことを思い出す。しかし、自分の意識は魔導書に集中していて、あの時カレンがどうしていたかなんて、覚えているはずもなかった。

 けれど、シアンの言葉が本当ならば、それは確かに気になる。シルヴァでさえ圧倒されたのに、あのカレンが平然としていたなんてどう考えてもおかしい。

 シアンは続ける。

「……さっき。アレンがすごい殺気みたいなのを私たちに向けたとき、あったよね……?」

「……もしかして」

「そう。……私、その瞬間に魔導書のときのことを思い出して、ちらっとカレンの方を見たんだよ……そしたら」

 シアンの声が徐々に震えていくのが、シルヴァには分かった。

「――カレン、笑ってた」

 瞳から涙を流し、そう言ったシアンの言葉に、シルヴァは自分の背筋がいつになく凍り付くのを感じていた。












 なあ。僕にならできるはずなんだ。

 僕には力がある。だから、少し性質を変えるぐらい、簡単なはずなんだ。

 ……そのはず、だったんだ。 
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