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第二章 大魔道書『神々の終焉讃歌録』
32 光は輝いて、そして
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シルヴァたちがアレンの家へ戻ると、家の外でアレンが玄関の戸に背をかけて立っていた。
アレンは最初にシルヴァたちが捕まえた四人の男たちを見たときはすかさず身構えたが、その後ろにシルヴァとシアンの姿を見るや否や、息を吐いて安堵する。
「おかえり。なんかお客さん増えてるね」
「……襲撃者を捕まえた。まだ他にも外にいるみたいだよ。こいつらを捕まえたことも、すぐにバレる」
「……なるほど。まあいい。とにかく、家に入りなよ」
アレンはそう言って手を後ろに回してノブを回した。
とりあえず言われたからにはそうするべきだ。シルヴァに操られた四人はのっそのっそと家の中へ入っていく。
「いいの?」
シルヴァの隣にいるシアンがアレンに聞く。
それもそのはず。襲撃者たちにこの家の場所が知られる寸前まできているのだ。早めにここを離れた方が賢い。
「……うん。あいつらに聞きたいこともあるしね。何か聞き出した?」
「少しは。詳しいことは今から聞くんでしょ?」
「そうなるなあ」
シルヴァの発言にアレンはそう答えると、そのまま家の中へ入って行った。
シルヴァもそれに続こうとしたところで、裾の先をシアンに引っ張られる。シルヴァがシアンを見ると、彼女は何ともいえない表情で言った。
「……どうするの?」
「どうするって?」
「アレンとカレンのことだよ。……私は、ずっと気になってて」
小声でシアンはそう言うと、目を伏せる。
そんな彼女に、シルヴァはそっと静かに言った。
「まあ、何とかなってほしいね」
家に入り、リビングへと上がるシルヴァとシアン。
そこには腕組をしたアレンと、心配そうに両手を胸の前に持ってきているカレンが四人の男の前で立っていた。
「来たね」
リビングに姿を現した二人を見て、アレンはうなずく。二人がアレンの隣まで行くと、カレンが神妙な足取りでシアンのそばへ駆け寄った。
刹那、シアンの獣耳がぴくりと動くが、彼女の表情に変化はない。それをシルヴァは視界の隅で捉えていた。
「えっと、この四人はシルヴァの能力で傀儡状態になってる、って解釈でいいんだよな?」
「そうだね」
シルヴァに確認をとったアレンは、そのまま四人組を睨みつける。
それから中の一人に定めをつけて、その男の前に立ちしゃがんだ。その男というのは、不幸なことにシルヴァにも尋問されていた、白髪の男だった。
「こいつ、喋れるほどに傀儡状態を緩めて。できる?」
「……まあ」
アレンの言葉に、シルヴァは表面上粗はださなかった。しかし、心の中で舌打ちをする。
彼の口を再び解放してしまうと、さっきアレンの体裁を聞いたことが漏れてしまうかもしれない。そうなる確率を低くするために、誰に尋問したかアレンに悟られないよう、全員の親指の骨を平等に折ったのだが役に立たなかった。
シルヴァは内心嫌がりながらも、その白髪の男の口を自由にしてやる。
それとほぼ同時に、アレンは言った。
「お前らが、僕を狙ってカレンを襲ったのか?」
「……ああ。俺たちのボス、ハーヴィンの命令でな」
白髪の男はアレンの質問にはすんなり答えた。恐らく、先ほどのシルヴァによる尋問にて、もう痛いのはコリゴリであると悟り、抗うことを断念したのだろう。
続けて、アレンは白髪に問う。
「どうしてだ?」
「……知らない。俺たちはボスに襲うよう指示されただけで、目的は知らされていない」
「……シルヴァ」
「ん?」
男の発言を聞いたアレンは立ち上がり、シルヴァへ声をかけた。
そして、アレン振り返る――。
「手足のどれか、バラせ」
「――ッ」
とてつもない透明な津波がシルヴァを襲った。――否、違う。
これは、殺気だ。
体が流されるかのような、透明で実体のない威圧感だ。思わず突風や津波かと思ってしまうような、息もできないほどの密度で編まれた鉄の殺気。
シルヴァは顔を腕で隠しながら、思わず後ずさった。
その隣にいたシアンも、あまりの衝突を伴わない衝撃に獣耳を押さえてその場でしゃがみこんだ。
「手足の一本ぐらい取れても、五分は生きていられる」
「――。……いや、そいつらは多分何も知らない」
アレンの変貌を前にして、少し心情的に尻込みしながらも、シルヴァは暴力的な提案をするアレンへ言った。
アレンはちらりとシルヴァを睨むかの如く見つめると、ふうと息を吐いた。それから立ち上がり、シルヴァの元へ歩いていく。
「すまない。少し、いや、かなり取り乱した」
「……まあ、しょうがないよ。姉が襲われただろ? そのぐらいは……」
「ああ。……すまない」
そう言って、アレンはシルヴァの肩に手を乗せた。そして振り返り、もう一度白髪の男の前へ歩いていく。
シルヴァはその白髪の男へ歩いていく背中を見つめていた。
しょうがない――確かにシルヴァはそう言ったし、その発言に嘘や偽りがあったわけではない。
しかし、なんだろうか。シルヴァはさっきのアレンの、高圧的にもほどがある情緒に、どこか引っかかりを覚えていた。
確かに身内を危険な目に遭わせた奴らは許せない。その気持ちはよく分かっている。そいつらの首をねじ切りたいほどに。
でも違う。シルヴァは何となくそう感じた。
姉が襲われた。そのことに対して怒りを爆発させているように見えるけれど、その怒りの元が少しズレている気がする。
言葉で表すにはその言語だと不十分な、第六感ともいえる感情の噴気に、シルヴァは歯がゆさを感じていた。
「……全員の親指が折れてる。シルヴァ、さっき君が言ったことというのは」
「……うん。僕が前もって、ちょっと脅しておいた。目的を知らないのも、その時に確認したんだ」
「そうか」
頭を冷やしたのか、親指が折れていることに気づき、言及したアレン。それにシルヴァはうなずいた。
「……じゃあ、改めて詳しく……」
「――ぐっ……!?」
アレンがそう言ったところで、急に白髪の男の口から嗚咽が漏れた。
どういうことか分からないうちに、男の容体は変わっていく。顔はみるみる青白く変色していき、大量の汗が発生し頬から首筋にまで流れ落ちていった。
「――シルヴァ!」
「ああ!」
アレンの怒声と共に、シルヴァは白髪の男の支配を解いた。彼は今まで口で話せる程度にしか解放されていなかった。だから、どこかに異常が発生しても『嗚咽を漏らすこと』しかできなかったのだ。
故に、こうして解放すれば、どこに異常が出たのかが彼の行動によって露出し、状況の把握が可能になる。
アレンはその間に守るようにしてカレンの前へ立ち、シアンもシルヴァの後ろに隠れた。
「ぐ……ッ! ……ァあ……!」
シルヴァの『支配』から解放された白髪の男は、真っ先に鎧の中に手をいれた。その中で、もぞもぞと手を動かしている。
「何かが、鎧の中にいるのか……?」
シルヴァがそう口走った。白髪の男が鎧の中に手を突っ込み、一心不乱に動かしまくっている姿は、服の中に入ってしまった虫を捕まえようとする仕草のように見えたのだ。
それを聞いたアレンは、咄嗟に目を見開いて叫んだ。
「――そうか! くそッ! シルヴァ! シアンを守れッ!」
直後、男の鎧の中から、青白い光が溢れ出してくる。同時にアレンの怒声を鼓膜で捉えていたシルヴァは、その光に嫌悪感を覚えた。
何かヤバイ!
瞬時に思ったシルヴァ。
アレンがカレンを抱き上げたのを視界の端に捉える。
シルヴァは後ろの抱きかかえると、『支配』の能力を発動した。
その白髪の男を支配下におきながら、テーブルを自らの前に移動させて盾代わりにする。
そして白髪の男を全力で吹き飛ばした。彼はアレン宅の家の壁をぶち破り、外へ吹っ飛んでいく。
――と思ったが、壁をぶち破って外に出た時点で、その青白く不気味な光は一気に辺りを埋めた。
刹那、鼓膜を殴る轟音と共に視界が乱雑に乱れ、シルヴァはシアンと共に、何も分からぬまま、吹き飛ばされた――。
その男は、林の中から煙が上がったのを見ていた。
そして自らが率いる私兵たちの方を振り向き、その鋭い眼光で指示を出す。
「行くぞ」
その男――ハーヴィンは、作戦の最終段階へと足を踏み入れたのだった。
アレンは最初にシルヴァたちが捕まえた四人の男たちを見たときはすかさず身構えたが、その後ろにシルヴァとシアンの姿を見るや否や、息を吐いて安堵する。
「おかえり。なんかお客さん増えてるね」
「……襲撃者を捕まえた。まだ他にも外にいるみたいだよ。こいつらを捕まえたことも、すぐにバレる」
「……なるほど。まあいい。とにかく、家に入りなよ」
アレンはそう言って手を後ろに回してノブを回した。
とりあえず言われたからにはそうするべきだ。シルヴァに操られた四人はのっそのっそと家の中へ入っていく。
「いいの?」
シルヴァの隣にいるシアンがアレンに聞く。
それもそのはず。襲撃者たちにこの家の場所が知られる寸前まできているのだ。早めにここを離れた方が賢い。
「……うん。あいつらに聞きたいこともあるしね。何か聞き出した?」
「少しは。詳しいことは今から聞くんでしょ?」
「そうなるなあ」
シルヴァの発言にアレンはそう答えると、そのまま家の中へ入って行った。
シルヴァもそれに続こうとしたところで、裾の先をシアンに引っ張られる。シルヴァがシアンを見ると、彼女は何ともいえない表情で言った。
「……どうするの?」
「どうするって?」
「アレンとカレンのことだよ。……私は、ずっと気になってて」
小声でシアンはそう言うと、目を伏せる。
そんな彼女に、シルヴァはそっと静かに言った。
「まあ、何とかなってほしいね」
家に入り、リビングへと上がるシルヴァとシアン。
そこには腕組をしたアレンと、心配そうに両手を胸の前に持ってきているカレンが四人の男の前で立っていた。
「来たね」
リビングに姿を現した二人を見て、アレンはうなずく。二人がアレンの隣まで行くと、カレンが神妙な足取りでシアンのそばへ駆け寄った。
刹那、シアンの獣耳がぴくりと動くが、彼女の表情に変化はない。それをシルヴァは視界の隅で捉えていた。
「えっと、この四人はシルヴァの能力で傀儡状態になってる、って解釈でいいんだよな?」
「そうだね」
シルヴァに確認をとったアレンは、そのまま四人組を睨みつける。
それから中の一人に定めをつけて、その男の前に立ちしゃがんだ。その男というのは、不幸なことにシルヴァにも尋問されていた、白髪の男だった。
「こいつ、喋れるほどに傀儡状態を緩めて。できる?」
「……まあ」
アレンの言葉に、シルヴァは表面上粗はださなかった。しかし、心の中で舌打ちをする。
彼の口を再び解放してしまうと、さっきアレンの体裁を聞いたことが漏れてしまうかもしれない。そうなる確率を低くするために、誰に尋問したかアレンに悟られないよう、全員の親指の骨を平等に折ったのだが役に立たなかった。
シルヴァは内心嫌がりながらも、その白髪の男の口を自由にしてやる。
それとほぼ同時に、アレンは言った。
「お前らが、僕を狙ってカレンを襲ったのか?」
「……ああ。俺たちのボス、ハーヴィンの命令でな」
白髪の男はアレンの質問にはすんなり答えた。恐らく、先ほどのシルヴァによる尋問にて、もう痛いのはコリゴリであると悟り、抗うことを断念したのだろう。
続けて、アレンは白髪に問う。
「どうしてだ?」
「……知らない。俺たちはボスに襲うよう指示されただけで、目的は知らされていない」
「……シルヴァ」
「ん?」
男の発言を聞いたアレンは立ち上がり、シルヴァへ声をかけた。
そして、アレン振り返る――。
「手足のどれか、バラせ」
「――ッ」
とてつもない透明な津波がシルヴァを襲った。――否、違う。
これは、殺気だ。
体が流されるかのような、透明で実体のない威圧感だ。思わず突風や津波かと思ってしまうような、息もできないほどの密度で編まれた鉄の殺気。
シルヴァは顔を腕で隠しながら、思わず後ずさった。
その隣にいたシアンも、あまりの衝突を伴わない衝撃に獣耳を押さえてその場でしゃがみこんだ。
「手足の一本ぐらい取れても、五分は生きていられる」
「――。……いや、そいつらは多分何も知らない」
アレンの変貌を前にして、少し心情的に尻込みしながらも、シルヴァは暴力的な提案をするアレンへ言った。
アレンはちらりとシルヴァを睨むかの如く見つめると、ふうと息を吐いた。それから立ち上がり、シルヴァの元へ歩いていく。
「すまない。少し、いや、かなり取り乱した」
「……まあ、しょうがないよ。姉が襲われただろ? そのぐらいは……」
「ああ。……すまない」
そう言って、アレンはシルヴァの肩に手を乗せた。そして振り返り、もう一度白髪の男の前へ歩いていく。
シルヴァはその白髪の男へ歩いていく背中を見つめていた。
しょうがない――確かにシルヴァはそう言ったし、その発言に嘘や偽りがあったわけではない。
しかし、なんだろうか。シルヴァはさっきのアレンの、高圧的にもほどがある情緒に、どこか引っかかりを覚えていた。
確かに身内を危険な目に遭わせた奴らは許せない。その気持ちはよく分かっている。そいつらの首をねじ切りたいほどに。
でも違う。シルヴァは何となくそう感じた。
姉が襲われた。そのことに対して怒りを爆発させているように見えるけれど、その怒りの元が少しズレている気がする。
言葉で表すにはその言語だと不十分な、第六感ともいえる感情の噴気に、シルヴァは歯がゆさを感じていた。
「……全員の親指が折れてる。シルヴァ、さっき君が言ったことというのは」
「……うん。僕が前もって、ちょっと脅しておいた。目的を知らないのも、その時に確認したんだ」
「そうか」
頭を冷やしたのか、親指が折れていることに気づき、言及したアレン。それにシルヴァはうなずいた。
「……じゃあ、改めて詳しく……」
「――ぐっ……!?」
アレンがそう言ったところで、急に白髪の男の口から嗚咽が漏れた。
どういうことか分からないうちに、男の容体は変わっていく。顔はみるみる青白く変色していき、大量の汗が発生し頬から首筋にまで流れ落ちていった。
「――シルヴァ!」
「ああ!」
アレンの怒声と共に、シルヴァは白髪の男の支配を解いた。彼は今まで口で話せる程度にしか解放されていなかった。だから、どこかに異常が発生しても『嗚咽を漏らすこと』しかできなかったのだ。
故に、こうして解放すれば、どこに異常が出たのかが彼の行動によって露出し、状況の把握が可能になる。
アレンはその間に守るようにしてカレンの前へ立ち、シアンもシルヴァの後ろに隠れた。
「ぐ……ッ! ……ァあ……!」
シルヴァの『支配』から解放された白髪の男は、真っ先に鎧の中に手をいれた。その中で、もぞもぞと手を動かしている。
「何かが、鎧の中にいるのか……?」
シルヴァがそう口走った。白髪の男が鎧の中に手を突っ込み、一心不乱に動かしまくっている姿は、服の中に入ってしまった虫を捕まえようとする仕草のように見えたのだ。
それを聞いたアレンは、咄嗟に目を見開いて叫んだ。
「――そうか! くそッ! シルヴァ! シアンを守れッ!」
直後、男の鎧の中から、青白い光が溢れ出してくる。同時にアレンの怒声を鼓膜で捉えていたシルヴァは、その光に嫌悪感を覚えた。
何かヤバイ!
瞬時に思ったシルヴァ。
アレンがカレンを抱き上げたのを視界の端に捉える。
シルヴァは後ろの抱きかかえると、『支配』の能力を発動した。
その白髪の男を支配下におきながら、テーブルを自らの前に移動させて盾代わりにする。
そして白髪の男を全力で吹き飛ばした。彼はアレン宅の家の壁をぶち破り、外へ吹っ飛んでいく。
――と思ったが、壁をぶち破って外に出た時点で、その青白く不気味な光は一気に辺りを埋めた。
刹那、鼓膜を殴る轟音と共に視界が乱雑に乱れ、シルヴァはシアンと共に、何も分からぬまま、吹き飛ばされた――。
その男は、林の中から煙が上がったのを見ていた。
そして自らが率いる私兵たちの方を振り向き、その鋭い眼光で指示を出す。
「行くぞ」
その男――ハーヴィンは、作戦の最終段階へと足を踏み入れたのだった。
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