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第二章 大魔道書『神々の終焉讃歌録』
29 代償は親指だけ?
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「それで、捕まえた人たちはどうするの?」
結界の境界線のすぐ内側。シアンはシルヴァに聞いた。
シルヴァは自分とシアンで捕まえた、シルヴァの『支配』の能力で組み伏せている計四人の雇われ兵を見る。
今、彼らは話すことすらできず、体は正座して腕を頭を後ろに回す状態で固定されていた。とりあえず兜は脱がしておいた。かぶっらままだと、声がくぐもって聞きたいことが聞こえにくいからだ。
「アレンに送り届ける……の前に、聞きたいことを聞いちゃおう」
「聞きたいことって」
「うん。今の状況からして、残念ながらアレンはちょっと怪しいからね。アレンがいないときだからこそだ」
シルヴァはそう言うと、四人のうち一番左にいる白髪の中年男を指さした。
「……貴方だ。今、貴方に喋れるだけの自由を与えた」
「――っ! くっ……!」
シルヴァに指定された男は、彼の言葉を聞いて自分の口が動くことに気づく。そしてバツの悪そうに舌打ちをした。
「聞かせてもらうよ。何故、貴方たちは……いや、貴方の雇い主か。そいつはなんで、カレンを狙うように指示したんだ?」
「……」
シルヴァの質問に、その白髪の男は答えようともせず、沈黙をまといながらシルヴァを睨んだ。その視線を気にすることなく、シルヴァは白髪の男を見つめ続ける。
周囲が環境音に包まれる。シルヴァが催促をすることもなく、白髪の男も答えるような様子を見せない。
それに痺れをきらしたのか、シアンは言った。
「……言わないと思うな、この人。別の人に変えない?」
「いいや、喋らせるよ。無理やりにでも」
その直後、四人の右腕が頭上へと上がる。もちろん、彼らが自分で上げたわけではない。シルヴァの能力で無理やりやらせたのだ。
「何をするの?」
シアンは不安そうにシルヴェへ問う。シルヴァは彼女の顔も見ることなく、ただ淡々と答えた。
「大丈夫。――臭いは残さないし、服も汚さない」
直後、その四人の上げた指先に変化が起こり始めた。細かくいえば、四人の親指に。
親指が、少しずつ反っていく。最初は自力でもできるような角度だが、それはそこで止まる気配はない。
ゆっくりと、だがしっかりと、親指は反り続けて、関節が許容する角度を超えて曲がっていく。
「あがァああああ……!」
四人の内、白髪の男だけから悲鳴が上がった。他の三人も言葉を発せられる身なら、そうしていただろう。しかし、今はシルヴァの能力により、嗚咽一つ漏らせない。加えて、表情一つ動かせない状態で、痛みだけが身に染みていた。
しばらくの間、嗚咽交じりのかすれかすれな悲鳴が、途切れ途切れ林の中に響き渡る。白髪の男は顔中に汗を流し、顔色も青白く変わっていった。
その痛々しい状況を目にしたシアンは、必死に自分の獣耳を両腕で抑えた。
半面、シルヴァは冷徹な視線で表情ひとつ変えず、それを見ている。
ついに、四人の親指の爪が、手の甲へとついた。骨はもう折れている。
それから少し間をおいて、シルヴァは口を開いた。
「さあ、どうしてカレンを狙ったか、言う気になった?」
「はぁ……はぁ……。く……き、貴様……!」
「うーん。次は中指と小指、同時にいこうか」
「なっ……!」
反発する白髪男を見たシルヴァは、わざとらしく腕を組んで考える素振りをしてみせる。
その様子に、白髪の男は青白く汗で冷え切った顔を、さらに悲痛に歪ませた。ここで彼は気づいたのだ。
この男を敵に回した時点で勝てるわけがなかった、と。
それを知ってか知らずか、シルヴァは畳みかけるように言う。
「貴方が言わない限り、まあ連帯責任ってやつかな、お仲間さんも痛い目に遭うよ。早くゲロっちゃいな。僕はとしては三本同時に折ってもいいし、なんなら手の指足の指に限らず、腕とか脚、背中の骨をボキボキにもできるんだけどなぁ」
「わ、分かった! 話す! だからもう、それはやめてくれ……!」
「いいね。じゃ、話してよ」
シルヴァの冷たい視線を受けながら、白髪の男はポツポツと話し始めた。
結界の境界線のすぐ内側。シアンはシルヴァに聞いた。
シルヴァは自分とシアンで捕まえた、シルヴァの『支配』の能力で組み伏せている計四人の雇われ兵を見る。
今、彼らは話すことすらできず、体は正座して腕を頭を後ろに回す状態で固定されていた。とりあえず兜は脱がしておいた。かぶっらままだと、声がくぐもって聞きたいことが聞こえにくいからだ。
「アレンに送り届ける……の前に、聞きたいことを聞いちゃおう」
「聞きたいことって」
「うん。今の状況からして、残念ながらアレンはちょっと怪しいからね。アレンがいないときだからこそだ」
シルヴァはそう言うと、四人のうち一番左にいる白髪の中年男を指さした。
「……貴方だ。今、貴方に喋れるだけの自由を与えた」
「――っ! くっ……!」
シルヴァに指定された男は、彼の言葉を聞いて自分の口が動くことに気づく。そしてバツの悪そうに舌打ちをした。
「聞かせてもらうよ。何故、貴方たちは……いや、貴方の雇い主か。そいつはなんで、カレンを狙うように指示したんだ?」
「……」
シルヴァの質問に、その白髪の男は答えようともせず、沈黙をまといながらシルヴァを睨んだ。その視線を気にすることなく、シルヴァは白髪の男を見つめ続ける。
周囲が環境音に包まれる。シルヴァが催促をすることもなく、白髪の男も答えるような様子を見せない。
それに痺れをきらしたのか、シアンは言った。
「……言わないと思うな、この人。別の人に変えない?」
「いいや、喋らせるよ。無理やりにでも」
その直後、四人の右腕が頭上へと上がる。もちろん、彼らが自分で上げたわけではない。シルヴァの能力で無理やりやらせたのだ。
「何をするの?」
シアンは不安そうにシルヴェへ問う。シルヴァは彼女の顔も見ることなく、ただ淡々と答えた。
「大丈夫。――臭いは残さないし、服も汚さない」
直後、その四人の上げた指先に変化が起こり始めた。細かくいえば、四人の親指に。
親指が、少しずつ反っていく。最初は自力でもできるような角度だが、それはそこで止まる気配はない。
ゆっくりと、だがしっかりと、親指は反り続けて、関節が許容する角度を超えて曲がっていく。
「あがァああああ……!」
四人の内、白髪の男だけから悲鳴が上がった。他の三人も言葉を発せられる身なら、そうしていただろう。しかし、今はシルヴァの能力により、嗚咽一つ漏らせない。加えて、表情一つ動かせない状態で、痛みだけが身に染みていた。
しばらくの間、嗚咽交じりのかすれかすれな悲鳴が、途切れ途切れ林の中に響き渡る。白髪の男は顔中に汗を流し、顔色も青白く変わっていった。
その痛々しい状況を目にしたシアンは、必死に自分の獣耳を両腕で抑えた。
半面、シルヴァは冷徹な視線で表情ひとつ変えず、それを見ている。
ついに、四人の親指の爪が、手の甲へとついた。骨はもう折れている。
それから少し間をおいて、シルヴァは口を開いた。
「さあ、どうしてカレンを狙ったか、言う気になった?」
「はぁ……はぁ……。く……き、貴様……!」
「うーん。次は中指と小指、同時にいこうか」
「なっ……!」
反発する白髪男を見たシルヴァは、わざとらしく腕を組んで考える素振りをしてみせる。
その様子に、白髪の男は青白く汗で冷え切った顔を、さらに悲痛に歪ませた。ここで彼は気づいたのだ。
この男を敵に回した時点で勝てるわけがなかった、と。
それを知ってか知らずか、シルヴァは畳みかけるように言う。
「貴方が言わない限り、まあ連帯責任ってやつかな、お仲間さんも痛い目に遭うよ。早くゲロっちゃいな。僕はとしては三本同時に折ってもいいし、なんなら手の指足の指に限らず、腕とか脚、背中の骨をボキボキにもできるんだけどなぁ」
「わ、分かった! 話す! だからもう、それはやめてくれ……!」
「いいね。じゃ、話してよ」
シルヴァの冷たい視線を受けながら、白髪の男はポツポツと話し始めた。
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