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第二章 大魔道書『神々の終焉讃歌録』
19 結界の秘密として
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台所に駆け付けると、そこに多くの食器や調理器具が床に散乱している場面に出くわした。
あたふたしているカレンと、安堵の息をついているアレンもそこにいた。
「襲撃とかじゃなかったんだね」
「うん。びっくりした」
「ご、ごめんなさいね……? 変な心配をかけてしまって」
どうやら、カレンが誤って色んなものを盛大に床へぶちまけてしまっただけらしい。
ちょっと度肝を抜いたことだったが、大事ではなくてよかった。
音につられて飛び出した三人は、彼女が無事なことに安心しながら、四人で片づけを行ったのだった。
「僕は昔、そこそこの冒険者でね。魔界にも行ったことがあるぐらいなんだ」
そんなちょとした騒動があってから、シルヴァたち四人は家の外へ出ていた。アレンたちの家を囲む結界について説明するため、実物を見に行くのだ。
その道中でアレンはぼつぼつと軽い身の上話をシルヴァとシアンに聞かせていた。
「そうね。アレンはとても強い人たちとパーティを組んで、世界中を回ってたのよ」
嬉しそうにカレンが笑うと、アレンが気恥ずかしそうに頭をかいた。
「やめてくれよ姉さん……」
「いつも旅先から私に手紙を送ってきたの。元気かー? 困ったことはないかー? って。ふふふ、それは私のセリフなのにね」
「本当に、やめて、姉さん」
ここぞとばかり、カレンはいたずらにアレンをからかった。
アレンは必死で自分のちょっと恥ずかしい身の上話の制止にかかるが、カレンは口に手をあてて笑っていた。
そんな姉弟を、とびきり暖かい目で見守っていたシルヴァとシアン。
不意にその視線にアレンが気づき、恥じらいで少し赤く染まった頰をしながらも、オホンと咳払いをして話を戻す。
「ま、まあ、そのことは置いといて、俺はそこそこの冒険者だったワケ。だけど、とある理由でね。俺は冒険者業から手を引いた。それで今は隠居中。そんだけよ」
身の上話、と言っても踏み入った話ではない。シルヴァの疑問を答えるに最低限の情報だけを、アレンは話していく。
どうして冒険者をやめたのか、その理由はあえて聞かなかった。
あまり踏み込んでほしいようなことではないだろうし、シルヴァだって『嫌がらせを受けて投獄されたから今は冒険者を休業している』なんて、説明してほしいと言われても喜んで言いたくはない。
「……ということは、襲ってきた人たちと、冒険者時代に因縁があったり?」
シアンはシルヴァの隣で歩きながら推測するも、前で歩いているアレンは首を横に振った。
「いいや、その線は薄い。今更すぎる」
そう断言するアレンの言葉を聞いて、シアンの獣耳がしゅんと下がった。
そのまま少し歩いてると、前を歩いていたアレンとカレンが立ち止まる。どうやら結界の境界線についたようだ。
アレンは振り返った。
「この結界には、内側に存在する一定量の魔力を持つ物質を、外側から見えなくする隠蔽能力と、内側の音を外に漏らさない防音能力が備わっている」
「なるほど。それで一定の魔力を持たない木々がそのままで、結界に入った一定の魔力を持つ人間だけが見えなくなるんだな」
二人が結界に入ったとき、外側からは自分たちの体は見えなかった。しかし、その向こう側の草木の背景は見えていた。その理由が、この『一定量の魔力を持つ者だけを消す』という条件があったから、ということだ。
その『一定量の魔力』のラインは分からないが、そのラインを草木などのオブジェクトが下回り、人間が上回るよう、しっかりと結界に設定してあるのだろう。
「この結界は地上から途中までは半球状に張ってあるが、木々の天辺あたりはその限りじゃない。木の天辺よりもちょっと低い高度で、半球状に結界を伸ばすのをやめて、地面と平行に、天井みたいな感じに結界を張ってるんだ」
「どうして?」
「鳥のせいだ。あいつら、割と魔力を持ってて、結界の内側に入ると消えちゃうんだよね。そのまんま半球状に張っていると、木の上の空中にも結界がはみ出るんだ。そこに飛行中の鳥が入ったらどうなると思う? ――結界に入って消えたりするでしょ?」
「うーん。つまり、飛んでる鳥が突然消えて怪しまれないように、結界の形を工夫してるってこと?」
「かみ砕けばそういうこと。あれだよ、三角錐のとんがりを取った感じの形になってる」
そう言ってアレンは虚空に手をかざす。
すると、たった一瞬であるが、結界の膜がちらりと、まるでシャボン玉の膜のように光った。
「もちろん、結界は基本的に不可視。だからこれを見つけるのは、この森の中を虱潰しにしないと無理だろうね」
「随分と自信があるようだね」
「おうとも。――そうだな。だって、この結界の維持にほとんどの魔力を使ってるからね。そういうわけで」
アレンはシルヴァの瞳へと視線を向けた。そして、にこっと笑ったと思ったら、
「結界の維持に精一杯で、俺、戦闘では役に立たないから。よろしく」
「――」
かつての『自称』そこそこな冒険者が全くの戦力外であると、本人の口から判明したのだった。
あたふたしているカレンと、安堵の息をついているアレンもそこにいた。
「襲撃とかじゃなかったんだね」
「うん。びっくりした」
「ご、ごめんなさいね……? 変な心配をかけてしまって」
どうやら、カレンが誤って色んなものを盛大に床へぶちまけてしまっただけらしい。
ちょっと度肝を抜いたことだったが、大事ではなくてよかった。
音につられて飛び出した三人は、彼女が無事なことに安心しながら、四人で片づけを行ったのだった。
「僕は昔、そこそこの冒険者でね。魔界にも行ったことがあるぐらいなんだ」
そんなちょとした騒動があってから、シルヴァたち四人は家の外へ出ていた。アレンたちの家を囲む結界について説明するため、実物を見に行くのだ。
その道中でアレンはぼつぼつと軽い身の上話をシルヴァとシアンに聞かせていた。
「そうね。アレンはとても強い人たちとパーティを組んで、世界中を回ってたのよ」
嬉しそうにカレンが笑うと、アレンが気恥ずかしそうに頭をかいた。
「やめてくれよ姉さん……」
「いつも旅先から私に手紙を送ってきたの。元気かー? 困ったことはないかー? って。ふふふ、それは私のセリフなのにね」
「本当に、やめて、姉さん」
ここぞとばかり、カレンはいたずらにアレンをからかった。
アレンは必死で自分のちょっと恥ずかしい身の上話の制止にかかるが、カレンは口に手をあてて笑っていた。
そんな姉弟を、とびきり暖かい目で見守っていたシルヴァとシアン。
不意にその視線にアレンが気づき、恥じらいで少し赤く染まった頰をしながらも、オホンと咳払いをして話を戻す。
「ま、まあ、そのことは置いといて、俺はそこそこの冒険者だったワケ。だけど、とある理由でね。俺は冒険者業から手を引いた。それで今は隠居中。そんだけよ」
身の上話、と言っても踏み入った話ではない。シルヴァの疑問を答えるに最低限の情報だけを、アレンは話していく。
どうして冒険者をやめたのか、その理由はあえて聞かなかった。
あまり踏み込んでほしいようなことではないだろうし、シルヴァだって『嫌がらせを受けて投獄されたから今は冒険者を休業している』なんて、説明してほしいと言われても喜んで言いたくはない。
「……ということは、襲ってきた人たちと、冒険者時代に因縁があったり?」
シアンはシルヴァの隣で歩きながら推測するも、前で歩いているアレンは首を横に振った。
「いいや、その線は薄い。今更すぎる」
そう断言するアレンの言葉を聞いて、シアンの獣耳がしゅんと下がった。
そのまま少し歩いてると、前を歩いていたアレンとカレンが立ち止まる。どうやら結界の境界線についたようだ。
アレンは振り返った。
「この結界には、内側に存在する一定量の魔力を持つ物質を、外側から見えなくする隠蔽能力と、内側の音を外に漏らさない防音能力が備わっている」
「なるほど。それで一定の魔力を持たない木々がそのままで、結界に入った一定の魔力を持つ人間だけが見えなくなるんだな」
二人が結界に入ったとき、外側からは自分たちの体は見えなかった。しかし、その向こう側の草木の背景は見えていた。その理由が、この『一定量の魔力を持つ者だけを消す』という条件があったから、ということだ。
その『一定量の魔力』のラインは分からないが、そのラインを草木などのオブジェクトが下回り、人間が上回るよう、しっかりと結界に設定してあるのだろう。
「この結界は地上から途中までは半球状に張ってあるが、木々の天辺あたりはその限りじゃない。木の天辺よりもちょっと低い高度で、半球状に結界を伸ばすのをやめて、地面と平行に、天井みたいな感じに結界を張ってるんだ」
「どうして?」
「鳥のせいだ。あいつら、割と魔力を持ってて、結界の内側に入ると消えちゃうんだよね。そのまんま半球状に張っていると、木の上の空中にも結界がはみ出るんだ。そこに飛行中の鳥が入ったらどうなると思う? ――結界に入って消えたりするでしょ?」
「うーん。つまり、飛んでる鳥が突然消えて怪しまれないように、結界の形を工夫してるってこと?」
「かみ砕けばそういうこと。あれだよ、三角錐のとんがりを取った感じの形になってる」
そう言ってアレンは虚空に手をかざす。
すると、たった一瞬であるが、結界の膜がちらりと、まるでシャボン玉の膜のように光った。
「もちろん、結界は基本的に不可視。だからこれを見つけるのは、この森の中を虱潰しにしないと無理だろうね」
「随分と自信があるようだね」
「おうとも。――そうだな。だって、この結界の維持にほとんどの魔力を使ってるからね。そういうわけで」
アレンはシルヴァの瞳へと視線を向けた。そして、にこっと笑ったと思ったら、
「結界の維持に精一杯で、俺、戦闘では役に立たないから。よろしく」
「――」
かつての『自称』そこそこな冒険者が全くの戦力外であると、本人の口から判明したのだった。
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