傀儡使いと獣耳少女の世界遍歴

トンボ

文字の大きさ
上 下
20 / 119
第二章 大魔道書『神々の終焉讃歌録』

18 曇る天望

しおりを挟む
「さあて、重苦しい話もここまでにして、お昼ご飯にしません?」

 シルヴァとアレンが手を取り合う中、カレンはパンと手を一回叩いて立ち上がる。アレンもシルヴァから手を離すと、シルヴァとシアンを見た。

「この問題は一日とかで解決できる問題じゃないだろうからね。数日間、ウチに泊まっていきなよ。食べ物には困らないと保証する」

「そうだね。じゃあ、お言葉に甘えて。シアンも、それでいい?」

「うん。私は君に従う」

 シルヴァとシアンはアレンたちの好意に甘えることになった。カレンはにっこりと嬉しそうに笑って、リビングから奥の台所へと消えていった。

 カレンの嬉しそうな様子から見るに、シルヴァたちのような客人を招くのは久しぶりなのだろう。そんな姿を見ていると、客人側であるものの、なんだかちょっと嬉しくなる。

「シルヴァ、でいいかい? 君は冒険者だったりするのかな? 姉を助けられるぐらい強いみたいだけど」

「呼び捨てで構わないさ。僕もアレンで呼び捨てるし。それで冒険者……まあ、そうだね。今はワケあって休業してるけど、傀儡使いやってる」

「傀儡使い……?」

「傀儡使い……? 傀儡を持っていないようだけど……」

 シルヴァの発言に、アレンだけでなく隣にいるシアンまでもが首を傾げた。

 アレンの反応は初対面だし当然だとして、シアンとは一緒にいたのになあ、と少し疑問に思ったシルヴァだったが、すぐに納得する。

 普通の傀儡使い、って持参した傀儡を操って戦う職業だもんなあ……。僕の場合、自給自足というか、その場で傍にあるものを勝手に傀儡として扱ってるから、『傀儡使い』としてはかなり特殊だ。

 シルヴァはそう思って苦笑した。
 いやまずそれを『傀儡使い』と呼んでいいのか微妙なところだが、シルヴァにも事情があるのだ。

 シルヴァは手をかざす。そしてさっきまでカレンが座っていたイスを支配化においた。そしてゆっくりと宙に浮かしたりと、それを操ってみせる。

「『強いて言えば』傀儡使いってことで。細かく説明すると、冒険者契約のときに役職書くの面倒くさくなるじゃん?」

「なるほど」

「……うーん? なるほどで済むかなあ?」

 あっさりと納得するアレンと、そのあっさりする納得に獣耳と一緒に首を傾げるシアン。ペターと曲がる彼女の獣耳を見て、シルヴァは小さく笑ったのだった。






 

 カレンが作ってくれた昼ご飯を食べ終えた。
 食事中に聞いた話だが、ご飯を作ったりするのは当番制で、今週はカレン、来週はアレン、というように代わるらしい。

 食べ終わった食器を持って、カレンがリビングを出ていったあとで、再び魔導書関連の話に戻る。

「相手の目星はない。だから相手の出方を見るしか対処法はない」

「それを対処法と呼べるかは微妙だな」

 アレンの話にシルヴァは微妙な表情をした。
 こっちから攻めるにも、シルヴァ達は相手のことをなにひとつ知らない。故に、相手がこちら側に飛び込んでくるまでは何もできないのだ。

 アレンは続けてシルヴァ達に聞いた。

「襲ってきた人たちはどんな格好だった? そこから情報が得られるかもしれない」

「格好、かあ。みんな鎧を着てたからなあ」

「鎧の種類、特徴とかは分かる? 製造元を特定できるかもしれない」

 アレンの話を聞くと、『鎧』といってもかなりの種類があるらしく、見た目でどこの地方の人間が造ったのか、粗方絞り込めるようだ。
 その製造場所が分かれば、足がつく、と表現するべきか、魔導書を狙う奴らの情報がひとつ掴める。その製造元から買うことのできる範囲に拠点を構えている、またはその製造元と繋がりがある、ということ。

 しかし、シルヴァもシアンも、鎧に関しては全く分からない。いかほどの種類があれど、全て同じものに見えてしまう。

 シルヴァが首を横に振ると、アレンは残念そうに肩を落とした。

「そういえば、精霊の馬に乗ってたよね」

「精霊……?」

「ああ、確かにそうだったな。青白いやつ感じだった」

 シアンが言った言葉に、シルヴァも同調する。精霊、と聞いたアレンは手を顎に当てて何かを考えていた。

「『精霊』……大事おおごとになってきた」

「……そうなの?」

 アレンがうっとおしそうに呟くのを見て、きょとんとシアンは聞き返す。シルヴァも悩むアレンを見つめた。

 シルヴァが精霊を見たのはあれが初めてだ。だから『精霊』という現象に対して全く精通していない。
 このように、鎧のこと、今の精霊のこと、それらを知ったところでシルヴァ達には何も分からない。しかし、アレンは違うみたいだ。

「ただの悪漢が『精霊』を使役できるとは考えにくい。『精霊』の使役には、ほどほどの才能と修練が必要のはず」

「……つまり、相手は――」

「うん。かなりの腕利きだね」

 アレンの結論に、二人は息を呑んだ。若干、問題の解決に向けての展望が曇ってきたような気がする。

 そんな雰囲気の中で、シルヴァはアレンと話し始めてからずっと気にかかっていたことがあった。

 そしてこの会話を経て、その気がかりが積もりに積もった今、ついにアレンへと投げかける。

「ところで、かなり色々な精通してるよね、アレンって。世界有数の魔導書を持ってたり、鎧や精霊なんかに並み以上の知識があったり。それに」

 シルヴァの鋭い視線がアレンを刺した。

「――さっき僕たちに向けた威圧と、魔導書の威圧を前に平然といられるその情緒。一体何者?」

「……」

 シルヴァの言葉を前に、押し黙るアレン。しかしそれは腹を探られて『どうしようかと悩んでいる』様子とは程遠い。
 アレンはシルヴァを冷めた瞳で達観し、『見定めている』ようだった。

 アレンの少し踏み入れたところを聞いているシルヴァであったが、アレンのその瞳で逆に腹の中を探られているような圧を受けていた。シルヴァの頬に嫌な汗が流れる。

 シアンも何も言わず、じっとアレンを見つめていた。恐らく彼女も、シルヴァと同じような疑問を持っていたのだろう。
 シルヴァの質問、アレンの玲瓏とした姿勢、それらを想定していたように、彼女は静かに構えていた。

「……そうだね。少し話そう――」

 その時だった。

 アレンが言葉を話し終えるよりも先に、台所から大きな音が響いてきた。

「!」

 アレンはその音を聞いた途端、はじくように立ち上がって台所へと向かう。

 台所にいるのは、昼食の洗い物をしているカレンだ。もしかしたら、魔道書を狙っている奴らが結界を抜けてこの家を見つけ、一人でいた彼女を再び襲ったのかもしれない。

 アレンに一拍遅れて、シルヴァたちも立ち上がり、台所へと向かった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜

西園寺おとば🌱
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく
ファンタジー
 「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。  さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。  失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。  彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。  そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。  彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。  そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。    やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。  これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。  火・木・土曜日20:10、定期更新中。  この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

処理中です...