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第二章 大魔道書『神々の終焉讃歌録』
18 曇る天望
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「さあて、重苦しい話もここまでにして、お昼ご飯にしません?」
シルヴァとアレンが手を取り合う中、カレンはパンと手を一回叩いて立ち上がる。アレンもシルヴァから手を離すと、シルヴァとシアンを見た。
「この問題は一日とかで解決できる問題じゃないだろうからね。数日間、ウチに泊まっていきなよ。食べ物には困らないと保証する」
「そうだね。じゃあ、お言葉に甘えて。シアンも、それでいい?」
「うん。私は君に従う」
シルヴァとシアンはアレンたちの好意に甘えることになった。カレンはにっこりと嬉しそうに笑って、リビングから奥の台所へと消えていった。
カレンの嬉しそうな様子から見るに、シルヴァたちのような客人を招くのは久しぶりなのだろう。そんな姿を見ていると、客人側であるものの、なんだかちょっと嬉しくなる。
「シルヴァ、でいいかい? 君は冒険者だったりするのかな? 姉を助けられるぐらい強いみたいだけど」
「呼び捨てで構わないさ。僕もアレンで呼び捨てるし。それで冒険者……まあ、そうだね。今はワケあって休業してるけど、傀儡使いやってる」
「傀儡使い……?」
「傀儡使い……? 傀儡を持っていないようだけど……」
シルヴァの発言に、アレンだけでなく隣にいるシアンまでもが首を傾げた。
アレンの反応は初対面だし当然だとして、シアンとは一緒にいたのになあ、と少し疑問に思ったシルヴァだったが、すぐに納得する。
普通の傀儡使い、って持参した傀儡を操って戦う職業だもんなあ……。僕の場合、自給自足というか、その場で傍にあるものを勝手に傀儡として扱ってるから、『傀儡使い』としてはかなり特殊だ。
シルヴァはそう思って苦笑した。
いやまずそれを『傀儡使い』と呼んでいいのか微妙なところだが、シルヴァにも事情があるのだ。
シルヴァは手をかざす。そしてさっきまでカレンが座っていたイスを支配化においた。そしてゆっくりと宙に浮かしたりと、それを操ってみせる。
「『強いて言えば』傀儡使いってことで。細かく説明すると、冒険者契約のときに役職書くの面倒くさくなるじゃん?」
「なるほど」
「……うーん? なるほどで済むかなあ?」
あっさりと納得するアレンと、そのあっさりする納得に獣耳と一緒に首を傾げるシアン。ペターと曲がる彼女の獣耳を見て、シルヴァは小さく笑ったのだった。
カレンが作ってくれた昼ご飯を食べ終えた。
食事中に聞いた話だが、ご飯を作ったりするのは当番制で、今週はカレン、来週はアレン、というように代わるらしい。
食べ終わった食器を持って、カレンがリビングを出ていったあとで、再び魔導書関連の話に戻る。
「相手の目星はない。だから相手の出方を見るしか対処法はない」
「それを対処法と呼べるかは微妙だな」
アレンの話にシルヴァは微妙な表情をした。
こっちから攻めるにも、シルヴァ達は相手のことをなにひとつ知らない。故に、相手がこちら側に飛び込んでくるまでは何もできないのだ。
アレンは続けてシルヴァ達に聞いた。
「襲ってきた人たちはどんな格好だった? そこから情報が得られるかもしれない」
「格好、かあ。みんな鎧を着てたからなあ」
「鎧の種類、特徴とかは分かる? 製造元を特定できるかもしれない」
アレンの話を聞くと、『鎧』といってもかなりの種類があるらしく、見た目でどこの地方の人間が造ったのか、粗方絞り込めるようだ。
その製造場所が分かれば、足がつく、と表現するべきか、魔導書を狙う奴らの情報がひとつ掴める。その製造元から買うことのできる範囲に拠点を構えている、またはその製造元と繋がりがある、ということ。
しかし、シルヴァもシアンも、鎧に関しては全く分からない。いかほどの種類があれど、全て同じものに見えてしまう。
シルヴァが首を横に振ると、アレンは残念そうに肩を落とした。
「そういえば、精霊の馬に乗ってたよね」
「精霊……?」
「ああ、確かにそうだったな。青白いやつ感じだった」
シアンが言った言葉に、シルヴァも同調する。精霊、と聞いたアレンは手を顎に当てて何かを考えていた。
「『精霊』……大事になってきた」
「……そうなの?」
アレンがうっとおしそうに呟くのを見て、きょとんとシアンは聞き返す。シルヴァも悩むアレンを見つめた。
シルヴァが精霊を見たのはあれが初めてだ。だから『精霊』という現象に対して全く精通していない。
このように、鎧のこと、今の精霊のこと、それらを知ったところでシルヴァ達には何も分からない。しかし、アレンは違うみたいだ。
「ただの悪漢が『精霊』を使役できるとは考えにくい。『精霊』の使役には、ほどほどの才能と修練が必要のはず」
「……つまり、相手は――」
「うん。かなりの腕利きだね」
アレンの結論に、二人は息を呑んだ。若干、問題の解決に向けての展望が曇ってきたような気がする。
そんな雰囲気の中で、シルヴァはアレンと話し始めてからずっと気にかかっていたことがあった。
そしてこの会話を経て、その気がかりが積もりに積もった今、ついにアレンへと投げかける。
「ところで、かなり色々な精通してるよね、アレンって。世界有数の魔導書を持ってたり、鎧や精霊なんかに並み以上の知識があったり。それに」
シルヴァの鋭い視線がアレンを刺した。
「――さっき僕たちに向けた威圧と、魔導書の威圧を前に平然といられるその情緒。一体何者?」
「……」
シルヴァの言葉を前に、押し黙るアレン。しかしそれは腹を探られて『どうしようかと悩んでいる』様子とは程遠い。
アレンはシルヴァを冷めた瞳で達観し、『見定めている』ようだった。
アレンの少し踏み入れたところを聞いているシルヴァであったが、アレンのその瞳で逆に腹の中を探られているような圧を受けていた。シルヴァの頬に嫌な汗が流れる。
シアンも何も言わず、じっとアレンを見つめていた。恐らく彼女も、シルヴァと同じような疑問を持っていたのだろう。
シルヴァの質問、アレンの玲瓏とした姿勢、それらを想定していたように、彼女は静かに構えていた。
「……そうだね。少し話そう――」
その時だった。
アレンが言葉を話し終えるよりも先に、台所から大きな音が響いてきた。
「!」
アレンはその音を聞いた途端、はじくように立ち上がって台所へと向かう。
台所にいるのは、昼食の洗い物をしているカレンだ。もしかしたら、魔道書を狙っている奴らが結界を抜けてこの家を見つけ、一人でいた彼女を再び襲ったのかもしれない。
アレンに一拍遅れて、シルヴァたちも立ち上がり、台所へと向かった。
シルヴァとアレンが手を取り合う中、カレンはパンと手を一回叩いて立ち上がる。アレンもシルヴァから手を離すと、シルヴァとシアンを見た。
「この問題は一日とかで解決できる問題じゃないだろうからね。数日間、ウチに泊まっていきなよ。食べ物には困らないと保証する」
「そうだね。じゃあ、お言葉に甘えて。シアンも、それでいい?」
「うん。私は君に従う」
シルヴァとシアンはアレンたちの好意に甘えることになった。カレンはにっこりと嬉しそうに笑って、リビングから奥の台所へと消えていった。
カレンの嬉しそうな様子から見るに、シルヴァたちのような客人を招くのは久しぶりなのだろう。そんな姿を見ていると、客人側であるものの、なんだかちょっと嬉しくなる。
「シルヴァ、でいいかい? 君は冒険者だったりするのかな? 姉を助けられるぐらい強いみたいだけど」
「呼び捨てで構わないさ。僕もアレンで呼び捨てるし。それで冒険者……まあ、そうだね。今はワケあって休業してるけど、傀儡使いやってる」
「傀儡使い……?」
「傀儡使い……? 傀儡を持っていないようだけど……」
シルヴァの発言に、アレンだけでなく隣にいるシアンまでもが首を傾げた。
アレンの反応は初対面だし当然だとして、シアンとは一緒にいたのになあ、と少し疑問に思ったシルヴァだったが、すぐに納得する。
普通の傀儡使い、って持参した傀儡を操って戦う職業だもんなあ……。僕の場合、自給自足というか、その場で傍にあるものを勝手に傀儡として扱ってるから、『傀儡使い』としてはかなり特殊だ。
シルヴァはそう思って苦笑した。
いやまずそれを『傀儡使い』と呼んでいいのか微妙なところだが、シルヴァにも事情があるのだ。
シルヴァは手をかざす。そしてさっきまでカレンが座っていたイスを支配化においた。そしてゆっくりと宙に浮かしたりと、それを操ってみせる。
「『強いて言えば』傀儡使いってことで。細かく説明すると、冒険者契約のときに役職書くの面倒くさくなるじゃん?」
「なるほど」
「……うーん? なるほどで済むかなあ?」
あっさりと納得するアレンと、そのあっさりする納得に獣耳と一緒に首を傾げるシアン。ペターと曲がる彼女の獣耳を見て、シルヴァは小さく笑ったのだった。
カレンが作ってくれた昼ご飯を食べ終えた。
食事中に聞いた話だが、ご飯を作ったりするのは当番制で、今週はカレン、来週はアレン、というように代わるらしい。
食べ終わった食器を持って、カレンがリビングを出ていったあとで、再び魔導書関連の話に戻る。
「相手の目星はない。だから相手の出方を見るしか対処法はない」
「それを対処法と呼べるかは微妙だな」
アレンの話にシルヴァは微妙な表情をした。
こっちから攻めるにも、シルヴァ達は相手のことをなにひとつ知らない。故に、相手がこちら側に飛び込んでくるまでは何もできないのだ。
アレンは続けてシルヴァ達に聞いた。
「襲ってきた人たちはどんな格好だった? そこから情報が得られるかもしれない」
「格好、かあ。みんな鎧を着てたからなあ」
「鎧の種類、特徴とかは分かる? 製造元を特定できるかもしれない」
アレンの話を聞くと、『鎧』といってもかなりの種類があるらしく、見た目でどこの地方の人間が造ったのか、粗方絞り込めるようだ。
その製造場所が分かれば、足がつく、と表現するべきか、魔導書を狙う奴らの情報がひとつ掴める。その製造元から買うことのできる範囲に拠点を構えている、またはその製造元と繋がりがある、ということ。
しかし、シルヴァもシアンも、鎧に関しては全く分からない。いかほどの種類があれど、全て同じものに見えてしまう。
シルヴァが首を横に振ると、アレンは残念そうに肩を落とした。
「そういえば、精霊の馬に乗ってたよね」
「精霊……?」
「ああ、確かにそうだったな。青白いやつ感じだった」
シアンが言った言葉に、シルヴァも同調する。精霊、と聞いたアレンは手を顎に当てて何かを考えていた。
「『精霊』……大事になってきた」
「……そうなの?」
アレンがうっとおしそうに呟くのを見て、きょとんとシアンは聞き返す。シルヴァも悩むアレンを見つめた。
シルヴァが精霊を見たのはあれが初めてだ。だから『精霊』という現象に対して全く精通していない。
このように、鎧のこと、今の精霊のこと、それらを知ったところでシルヴァ達には何も分からない。しかし、アレンは違うみたいだ。
「ただの悪漢が『精霊』を使役できるとは考えにくい。『精霊』の使役には、ほどほどの才能と修練が必要のはず」
「……つまり、相手は――」
「うん。かなりの腕利きだね」
アレンの結論に、二人は息を呑んだ。若干、問題の解決に向けての展望が曇ってきたような気がする。
そんな雰囲気の中で、シルヴァはアレンと話し始めてからずっと気にかかっていたことがあった。
そしてこの会話を経て、その気がかりが積もりに積もった今、ついにアレンへと投げかける。
「ところで、かなり色々な精通してるよね、アレンって。世界有数の魔導書を持ってたり、鎧や精霊なんかに並み以上の知識があったり。それに」
シルヴァの鋭い視線がアレンを刺した。
「――さっき僕たちに向けた威圧と、魔導書の威圧を前に平然といられるその情緒。一体何者?」
「……」
シルヴァの言葉を前に、押し黙るアレン。しかしそれは腹を探られて『どうしようかと悩んでいる』様子とは程遠い。
アレンはシルヴァを冷めた瞳で達観し、『見定めている』ようだった。
アレンの少し踏み入れたところを聞いているシルヴァであったが、アレンのその瞳で逆に腹の中を探られているような圧を受けていた。シルヴァの頬に嫌な汗が流れる。
シアンも何も言わず、じっとアレンを見つめていた。恐らく彼女も、シルヴァと同じような疑問を持っていたのだろう。
シルヴァの質問、アレンの玲瓏とした姿勢、それらを想定していたように、彼女は静かに構えていた。
「……そうだね。少し話そう――」
その時だった。
アレンが言葉を話し終えるよりも先に、台所から大きな音が響いてきた。
「!」
アレンはその音を聞いた途端、はじくように立ち上がって台所へと向かう。
台所にいるのは、昼食の洗い物をしているカレンだ。もしかしたら、魔道書を狙っている奴らが結界を抜けてこの家を見つけ、一人でいた彼女を再び襲ったのかもしれない。
アレンに一拍遅れて、シルヴァたちも立ち上がり、台所へと向かった。
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