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第二章 大魔道書『神々の終焉讃歌録』
14 精霊とシアン
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シアンの耳を頼りに、草むらの中を駆けていくシルヴァ。
目的地が近づくにつれ、シルヴァの喧騒が聞こえてくるようになってきた。女性の声、男の怒声、かすかに聞こえる鎧が動く音。
「近いよ……! あのひらけた場所っぽいけど」
「そうだね。あの草むらに隠れて、様子見をしようか」
二人でうなずき合って、前の草むらに飛び込んで身を隠した。
そしてそれとほぼ同時に、音は止む。シルヴァとシアンは、その様子を草むらから少し顔を出して覗き見た。
「あれは……馬の精霊……?」
シルヴァは小さくぼやいた。
視線の先にあったのは、青白い半透明の馬に乗っているガラの悪い人間が、数人で誰かを取り囲んでいる光景だった。
しかしその状況云々の前に、まず青白く半透明な馬に視線が吸い込まれる。初めて見た。その馬は淡く霧が漂う輪郭を持っていて、相貌は微動だにしない――生き物、という感じがしなかった。
「精霊だね……そんな感じがする」
隣にいるシアンはシルヴァの言葉を肯定した。
シルヴァは疑問に思って口にする。
「精霊、見たことあるのか?」
「んーん、いや? 何となく分かるの。えーと、動物の勘ってやつ?」
「ふーん」
自分の獣耳を指さして、ぱちくりとウィンクをするシアン。
シルヴァは少し興味深いと思ったが、今それを深く聞いている時間はない。二人は視線を女性たちへと戻した。
精霊の馬に乗った鎧の人間たちは、輪になって一人の、長く淡い金髪を束ねた女性を囲んでいた。
何も持っておらず脅えて座り込んでいる女性に対し、その鎧たちは手に槍を持っている。そしてその鎧の一人が言った。
「よし、傷はねぇな」
脅えて震える女性を見て、安心したように息をつく鎧たち。
「人質に変な傷がついちゃあ、ボスに何をされるかわかんねぇ。このまま持っていくぞ!」
「ひっ……!」
取り囲む六人の鎧。そのうちの二人が馬から下り、女性へと向かっていく。女性は涙を流して、彼らに向かって自身を守るように腕をかざした。けれどそれは、抵抗にすらなっていない。
「やばいな……」
人質、持っていく……。鎧の言葉から出た言葉と、女性の態度。それらのことから、どちら悪であるのかは明白だ。
シルヴァは草むらから鎧たちに向けて腕をかざした。
「――っ! なっ!」
その直後、シルヴァはあの六人が纏った鎧を全て支配下に置くと、それを操り、そのまま宙に浮かした。
突然のことに鎧たちは慌てふためき、そのうちの一人の手から武器である槍が地面に落ちる。
「さよならっ」
シルヴァはそのまま中身の人間ごと、鎧を遠くへ吹っ飛ばした。宙を舞い、放物線を描いて遠く飛んでいく。
そしてある程度遠くの場所で、彼らが木々に落ちる音が聞こえた。
その音を聞いてから、二人は草むらから出た。
「すごいね、君の能力……。あんな簡単に飛ばしちゃうなんて」
「地味だけどな、まあ便利だよ」
何故だか嬉しそうなシアンの称賛を前に、シルヴァは照れくさい思いを感じながら頬をかく。
見た目は地味だが、シルヴァの能力には、支配の能力に付随して、少なくても六人分の体重とその鎧の重さを軽く吹っ飛ばれるぐらいのパワーが備わっているようだ。
シルヴァ自身も、まさかこんなに簡単に飛ぶとは思っておらず、得意げな反面、ちょっとびっくりしていた。
「……と、そんなこと言う前に」
草むらから出ていき、脅えていた女性のもとへ二人はたどり着いた。女性はたどたどしい様子で、視線をシルヴァとシアンの間でいったりきたりさせている。
そんなちょっとした錯乱状態な女性を前に、シアンはしゃがんで彼女と同じ目線になった。
そしてにまっと笑って話しかける。
「大丈夫ですか?」
「はっ、はい」
同じ女性という観点から、シルヴァが話しかけるよりも自分が話しかけた方が良い、とシアンは思ったのだろう。
シルヴァはしゃがむ彼女の隣で立ちながら、シアンを観察していた。
彼女の猫耳がピーンと張り切っている。もしかして、猫耳ってその人の感情のめもりだったりするのだろうか。
「どうして襲われてたの? 話せる?」
「え、ええ。……たぶん、知ってます」
その瞬間、シアンの猫耳がぴくりと震えた。シアンは立ち上がって、とある方角に目を向ける。
その方角というのは、シルヴァが鎧の奴らを吹っ飛ばした方角だった。
シアンはもう一度しゃがんで、彼女に語り掛けた。
「あの、とりあえずここを離れよう? どこか行く宛てある?」
「え、えっと、じゃあ、私たちの家に行きましょう」
「分かった。独りで立てる?」
シアンの声にうなずくと、金髪の女性は立ち上がった。それを見ると、シアンは微笑んで立ち上がる。
その立ち上がったタイミングで、シアンはシルヴァに小さく耳打ちをした。
「君が吹っ飛ばした奴らが動く音がしたよ。早くここを離れた方がいいね」
「……やるなあ」
シルヴァは彼女の円滑な出来事の運びに、思わず感嘆する。
半獣人特有の聴覚も使うべきところでしっかりと利用できている。かなり聡明な少女だ。
そのシルヴァの言葉を聞いたシアンは、嬉しそうに口元がほころんだ。
シルヴァは今の彼女がとても生き生きしているように感じて、なんだか嬉しい。それは恐らく、理不尽な暴力を受けて、満身創痍だった彼女を見ていたからだと思う。
シルヴァの中で、『普通に』笑っている彼女はとても眩しかった。あの光景がフラッシュバックしてしまうからかもしれない。
「で、では、付いてきてください」
二人の間で密かにそんなやり取りをしていると、その金髪の女性が話しかけてきた。二人はうなずいて、彼女の後を追ったのだった。
目的地が近づくにつれ、シルヴァの喧騒が聞こえてくるようになってきた。女性の声、男の怒声、かすかに聞こえる鎧が動く音。
「近いよ……! あのひらけた場所っぽいけど」
「そうだね。あの草むらに隠れて、様子見をしようか」
二人でうなずき合って、前の草むらに飛び込んで身を隠した。
そしてそれとほぼ同時に、音は止む。シルヴァとシアンは、その様子を草むらから少し顔を出して覗き見た。
「あれは……馬の精霊……?」
シルヴァは小さくぼやいた。
視線の先にあったのは、青白い半透明の馬に乗っているガラの悪い人間が、数人で誰かを取り囲んでいる光景だった。
しかしその状況云々の前に、まず青白く半透明な馬に視線が吸い込まれる。初めて見た。その馬は淡く霧が漂う輪郭を持っていて、相貌は微動だにしない――生き物、という感じがしなかった。
「精霊だね……そんな感じがする」
隣にいるシアンはシルヴァの言葉を肯定した。
シルヴァは疑問に思って口にする。
「精霊、見たことあるのか?」
「んーん、いや? 何となく分かるの。えーと、動物の勘ってやつ?」
「ふーん」
自分の獣耳を指さして、ぱちくりとウィンクをするシアン。
シルヴァは少し興味深いと思ったが、今それを深く聞いている時間はない。二人は視線を女性たちへと戻した。
精霊の馬に乗った鎧の人間たちは、輪になって一人の、長く淡い金髪を束ねた女性を囲んでいた。
何も持っておらず脅えて座り込んでいる女性に対し、その鎧たちは手に槍を持っている。そしてその鎧の一人が言った。
「よし、傷はねぇな」
脅えて震える女性を見て、安心したように息をつく鎧たち。
「人質に変な傷がついちゃあ、ボスに何をされるかわかんねぇ。このまま持っていくぞ!」
「ひっ……!」
取り囲む六人の鎧。そのうちの二人が馬から下り、女性へと向かっていく。女性は涙を流して、彼らに向かって自身を守るように腕をかざした。けれどそれは、抵抗にすらなっていない。
「やばいな……」
人質、持っていく……。鎧の言葉から出た言葉と、女性の態度。それらのことから、どちら悪であるのかは明白だ。
シルヴァは草むらから鎧たちに向けて腕をかざした。
「――っ! なっ!」
その直後、シルヴァはあの六人が纏った鎧を全て支配下に置くと、それを操り、そのまま宙に浮かした。
突然のことに鎧たちは慌てふためき、そのうちの一人の手から武器である槍が地面に落ちる。
「さよならっ」
シルヴァはそのまま中身の人間ごと、鎧を遠くへ吹っ飛ばした。宙を舞い、放物線を描いて遠く飛んでいく。
そしてある程度遠くの場所で、彼らが木々に落ちる音が聞こえた。
その音を聞いてから、二人は草むらから出た。
「すごいね、君の能力……。あんな簡単に飛ばしちゃうなんて」
「地味だけどな、まあ便利だよ」
何故だか嬉しそうなシアンの称賛を前に、シルヴァは照れくさい思いを感じながら頬をかく。
見た目は地味だが、シルヴァの能力には、支配の能力に付随して、少なくても六人分の体重とその鎧の重さを軽く吹っ飛ばれるぐらいのパワーが備わっているようだ。
シルヴァ自身も、まさかこんなに簡単に飛ぶとは思っておらず、得意げな反面、ちょっとびっくりしていた。
「……と、そんなこと言う前に」
草むらから出ていき、脅えていた女性のもとへ二人はたどり着いた。女性はたどたどしい様子で、視線をシルヴァとシアンの間でいったりきたりさせている。
そんなちょっとした錯乱状態な女性を前に、シアンはしゃがんで彼女と同じ目線になった。
そしてにまっと笑って話しかける。
「大丈夫ですか?」
「はっ、はい」
同じ女性という観点から、シルヴァが話しかけるよりも自分が話しかけた方が良い、とシアンは思ったのだろう。
シルヴァはしゃがむ彼女の隣で立ちながら、シアンを観察していた。
彼女の猫耳がピーンと張り切っている。もしかして、猫耳ってその人の感情のめもりだったりするのだろうか。
「どうして襲われてたの? 話せる?」
「え、ええ。……たぶん、知ってます」
その瞬間、シアンの猫耳がぴくりと震えた。シアンは立ち上がって、とある方角に目を向ける。
その方角というのは、シルヴァが鎧の奴らを吹っ飛ばした方角だった。
シアンはもう一度しゃがんで、彼女に語り掛けた。
「あの、とりあえずここを離れよう? どこか行く宛てある?」
「え、えっと、じゃあ、私たちの家に行きましょう」
「分かった。独りで立てる?」
シアンの声にうなずくと、金髪の女性は立ち上がった。それを見ると、シアンは微笑んで立ち上がる。
その立ち上がったタイミングで、シアンはシルヴァに小さく耳打ちをした。
「君が吹っ飛ばした奴らが動く音がしたよ。早くここを離れた方がいいね」
「……やるなあ」
シルヴァは彼女の円滑な出来事の運びに、思わず感嘆する。
半獣人特有の聴覚も使うべきところでしっかりと利用できている。かなり聡明な少女だ。
そのシルヴァの言葉を聞いたシアンは、嬉しそうに口元がほころんだ。
シルヴァは今の彼女がとても生き生きしているように感じて、なんだか嬉しい。それは恐らく、理不尽な暴力を受けて、満身創痍だった彼女を見ていたからだと思う。
シルヴァの中で、『普通に』笑っている彼女はとても眩しかった。あの光景がフラッシュバックしてしまうからかもしれない。
「で、では、付いてきてください」
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