傀儡使いと獣耳少女の世界遍歴

トンボ

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第一章 傀儡使い、獣耳少女に出会う

8 その傀儡使い、実は金欠にて

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 ゴルドを制したシルヴァは、まじまじとその倒れた姿を見ていた。

 彼が不意打ちを狙ってくることを、シルヴァは予測していた。

 だから、あの場でわざとあの三人と軽く話したのだ。ゴルドに不意打ちさせるために。

 シルヴァの周りには、いくらか砂埃が舞っていた。それは目に見えないほど小さな粒であり、目視できない範囲にも舞っている。

 シルヴァはその粒をすべて支配におき、あえてシルヴァの周囲に漂わせた。そして舞っている砂粒のどれかにゴルドが振れた途端、その情報は一瞬でシルヴァに届き、ゴルドの居場所を感知した。

 場所が分かれば能力で捉えるのも簡単だ。素早い動きにより、能力で捕らえるよりも早く殴られる、ということもない。

 まあ感知できる範囲は砂の粒という物質を操ることのできる距離。つまり十二メートルという距離なので、油断をしていたらそれもあり得る。しかしシルヴァは油断をしなかった。それだけだ。

 にしても、最初はゴルドを完全に支配できなかったのに、今は支配できるようになっている。使うごとに能力の支配力も上がっているのかもしれない。

 シルヴァは自らの能力の進化速度に、ちょっとばかり苦労を感じる。

 どんなことができて、何人までを対象にとれて、どこまで能力が届くか。調べたところでまた成長し上限が解放されるのだから、徒労でしかないような気がしてきた。

 いやまあ、下限を知るという意味では有効だったかもしれないが。

「さて、と」

 背中を伸ばして軽くストレッチをする。戦闘が終わり、シルヴァは勝利したのだ。

 シアンのところに行こうと踵を返したところで、目の前にあの三人がいたことを思い出した。

 脅えたままの彼らを見て、シルヴァが口を開こうとする。
 けれど、それはすぐに詰まった。何故か。

 ――この人たちの名前、忘れちゃった。
 まあいいか。

「えーっと、そうだなあ」

 シルヴァの妖しく見つめる視線に、戦士と魔術師、弓使いは再びびくりと肩を震わせる。

 こんなに脅えさせたのは初めてでちょっと新鮮で楽しいが、そういう趣味はあまりない。

「この惨事の後始末、してくれるよね?」

 シルヴァの言葉にブンブンと首を縦に振る三人。

 シルヴァは横目で、あのシルヴァが吹っ飛んでいった四階建ての建物を見た。ボロボロだが、まだ倒壊はしていない。建物が崩壊する前に、ゴルドをおびき出せていたようだ。

 シルヴァはその事実に安堵する。死人は出ていなさそうだ。

「僕の冤罪も証明しといてよ」

 シルヴァは三人を、特にシルヴァの直接冤罪へと巻き込んだ魔術師に睨む。無言でガクガクと首を振る彼女。

 これで多分後始末に関しては大丈夫だろう。自分でやった方が確実だが、正直なところ色々あって疲れてしまった。もう触れたくない。

「……」
「……ァ…!」
「……?」

 どこから自分の名前を呼ぶ声がした気がして、シルヴァは周囲を見渡した。

 付近のゴタゴタにより、屋台ほとんどが撤去する作業に入っている大通り。その向こう側から、こちらへ走ってくる影がひとつ。

「あれ……なんで帰っ」
「生きてるーっ!」

 その影――シアンがシルヴァのもとまで走ってくると、シルヴァの言葉も聞かずにそのまま飛び込んできた。

 いやその一声はおかしいだろ、とも思いながらシルヴァは黙って彼女を受け止める。しかしまあ、ゴルドの無茶苦茶なパワーを見れば、そう思っても仕方がないけれど。

「よかったぁ……!」

 シアンはシルヴァの胸の中で頭をグリグリと押し付ける。嬉しそうに獣耳がピクピクと動いているのが何ともかわいらしい。

「ありがとう……にしても、なんで……?」

 シルヴァは疑問を口にする。
 シアンは嬉しそうに喉をならしながら、シルヴァを見上げた。

「ん~? 君が勝つのが見えたの」

「見えた……? まあ……いいか」

 シルヴァは見上げるシアンを撫でながら、小さく呟く。

 シアンは今、確かに『見えた』と言った。

 もしかしたら、彼女には千里眼のような能力が備わっているのかもしれない。

 いやでもそれだと少しおかしい。シルヴァの勝利を見て引き返したくるのなら、このタイミングで丁度戻ってくるのは距離的に不可能ではないか。

 だが彼女は実際に戻ってきているし、その理由に目視を挙げている。

 このことから考察できる、彼女の能力。御伽噺とかでしか聞いたことがないが、『未来視』と呼ばれる能力かもしれない。いわゆる『未来を視る』能力だ。

 ただ――シルヴァは自分の胸の中で嬉しそうにしているシアンを見る――彼女はその能力を認識してないので、解答が得られるのはもっと先になるだろう。

 そもそも、『未来視』という存在そのものに疑問符がある。考えても納得できるような解は浮かばなかった。

 とりあえずは、事態としてはこれで収拾がついた。もうシルヴァがやらなくてはいけないことはない。

 適当に宿を取って、今日は休もうかな。

 シルヴァは優しく話すと、さっきまでシルヴァとシアンを見つめていた、例の三人に背を向けてその場を立ち去ろうとする。

 そのシルヴァの行動に、後ろの三人がほっとしたのをシルヴァは感じ取った。

 だから、というわけでもないけれど。

「おっ、そうだ」

 シルヴァは何かを思いついたフリをして立ち止まり、くるりと振り返った。その仕草に、再び三人はびくりと震わせる。

「僕は冤罪をかけられて、無実の罪で豚箱にぶち込まれたんだ。――慰謝料、払って貰わないとね」








 その後、三つの財布を持ちながら、滅茶苦茶笑顔で宿をとるシルヴァの姿が、その町のとある宿の主人によって目撃されたという。
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