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163 感知める
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(……"眺める"。言葉としては"至近距離で観察する"というものじゃなくて、"俯瞰する"といったような感じか……)
ウィズは適当に時間を作るために、ラシェルへ語り掛ける。
「ラシェルさんはどうしてこのお仕事を始めたのですか? 『護符』に助けられた経験があったり……?」
「そうですねぇ……」
ラシェルはふと懐かしいものを思い出すような、そんな視線を見せた。話が長くなるのかと思って、それはそれで面倒くさい気持ちになる。が、その瞬間にふと背中に何かの感覚を覚えてバッと振り返った。
「……?」
背中を撫でられた感覚。そしてこれはさっき感じたものと同じであった。
そして思考が回転する。いや、まさか。ウィズは突然すぎる上に、もし予想が当たっていれば大胆にもほどがあった。
「どうしました?」
突然振り返ったウィズに疑問を投げかけるラシェル。至極当然の反応であった。
ウィズは視線を戻す。さてどうしたものかと次の思案を始めた。
――『私のことは無視してくれていいわ。ウィズ、私は外に出てるから、貴方は満足するまで眺めていけばいい』。
(言ってることが違うじゃん……!)
フィリアの言葉を思い出しながら、ウィズは独りで嘆いた。この"眺める"という言葉は響きからくるような、のほほんとした雰囲気ではなかった。
――眺める。それは"ラシェルを監視しろ"ということだった。ウィズは背中に感じたものは魔力の膜。ついさっき、フィリアが自身の魔力を使うために展開した魔力の感知球。名称は分からないが、球型に魔力を展開してその中の物を感知するという魔術。
それをウィズを背中に円周が接触する程度に展開している。つまりウィズの背中から後ろの空間はフィリアによって感知できる空間ということになる。
どうしてそんなことをし始めたのか。そんなことひとつしかない。感知するための魔力領域を作っているのだから、何かを探すためなのだろう。強引すぎる手法だが、フィリアはウィズを軸に店内に不審な場所がないか、調べようとしているのだ。
(自分でやればいいのに……。なんで僕が直々に店内を歩き回らなきゃいけないんだ……?)
魔力の膜に肝を冷やしながら、ゆっくりと足を動かした。
「――いえ、ちょっとなんか、虫かな。背中をくすぐられたような感じがして……」
「ははは。もしかして密林地帯に行ったことがあったりするのですかな? ワタシも、あそこで虫の大群に襲われたあとは、ちょっと虫の羽ばたきにも敏感になったものです」
「それはあるかもしれません……」
笑い合いながら、ウィズは店の中を右からゆっくりと回っていく。棚の商品である護符を見てるフリをしながら、フィリアの感知球がついてくることを確認する。
フィリアは言っていた。展開するには結構な魔力を消費する。なら早々に店内を回り切って、フィリアに情報を渡すしかない。
この感じからして、この感知はフィリアを中心にするのではなく、何か別のものを中心に展開するもののようだ。確かに思い返してみれば、飲食店で見た感知の映像も中心にはテーブルがあった気がする。
「護符……護符かあ……」
ゆっくりと、しかしだからといって立ち止まることなく、興味深そうに商品の護符を眺めて歩く。
「どうですか? ひとつ、どれかいかがですか?」
「……そうですね。お土産にはいいかもなあ」
店の構造はL字型。体感、外から見たサイズよりもちょっと大きく感じる。適当に言葉で紡ぎながら、ウィズは店内をゆっくりと一周した。背中にはフィリアの感知球の接触を感じながら。
すべて見て回った。店の構造はカウンターの後ろに裏の部屋があるだけで、他に見えないところはなかった。つまるところ、完全にシンプルな構造となっている。飲食店の方が見えないところが多いぐらいに、だ。
(護符の店っていうし……必要になる部屋とかも商品とか備品のスペースぐらいなのかな……)
最初の入口付近まで戻ってきたところで、ラシェルは声をかけてきた。
「いかがですか?」
「……そうですねぇ」
これでいいのか。ウィズは店の外にいるであろうフィリアに、頭の中で届くはずもないことをぼやいたのだった。
ウィズは適当に時間を作るために、ラシェルへ語り掛ける。
「ラシェルさんはどうしてこのお仕事を始めたのですか? 『護符』に助けられた経験があったり……?」
「そうですねぇ……」
ラシェルはふと懐かしいものを思い出すような、そんな視線を見せた。話が長くなるのかと思って、それはそれで面倒くさい気持ちになる。が、その瞬間にふと背中に何かの感覚を覚えてバッと振り返った。
「……?」
背中を撫でられた感覚。そしてこれはさっき感じたものと同じであった。
そして思考が回転する。いや、まさか。ウィズは突然すぎる上に、もし予想が当たっていれば大胆にもほどがあった。
「どうしました?」
突然振り返ったウィズに疑問を投げかけるラシェル。至極当然の反応であった。
ウィズは視線を戻す。さてどうしたものかと次の思案を始めた。
――『私のことは無視してくれていいわ。ウィズ、私は外に出てるから、貴方は満足するまで眺めていけばいい』。
(言ってることが違うじゃん……!)
フィリアの言葉を思い出しながら、ウィズは独りで嘆いた。この"眺める"という言葉は響きからくるような、のほほんとした雰囲気ではなかった。
――眺める。それは"ラシェルを監視しろ"ということだった。ウィズは背中に感じたものは魔力の膜。ついさっき、フィリアが自身の魔力を使うために展開した魔力の感知球。名称は分からないが、球型に魔力を展開してその中の物を感知するという魔術。
それをウィズを背中に円周が接触する程度に展開している。つまりウィズの背中から後ろの空間はフィリアによって感知できる空間ということになる。
どうしてそんなことをし始めたのか。そんなことひとつしかない。感知するための魔力領域を作っているのだから、何かを探すためなのだろう。強引すぎる手法だが、フィリアはウィズを軸に店内に不審な場所がないか、調べようとしているのだ。
(自分でやればいいのに……。なんで僕が直々に店内を歩き回らなきゃいけないんだ……?)
魔力の膜に肝を冷やしながら、ゆっくりと足を動かした。
「――いえ、ちょっとなんか、虫かな。背中をくすぐられたような感じがして……」
「ははは。もしかして密林地帯に行ったことがあったりするのですかな? ワタシも、あそこで虫の大群に襲われたあとは、ちょっと虫の羽ばたきにも敏感になったものです」
「それはあるかもしれません……」
笑い合いながら、ウィズは店の中を右からゆっくりと回っていく。棚の商品である護符を見てるフリをしながら、フィリアの感知球がついてくることを確認する。
フィリアは言っていた。展開するには結構な魔力を消費する。なら早々に店内を回り切って、フィリアに情報を渡すしかない。
この感じからして、この感知はフィリアを中心にするのではなく、何か別のものを中心に展開するもののようだ。確かに思い返してみれば、飲食店で見た感知の映像も中心にはテーブルがあった気がする。
「護符……護符かあ……」
ゆっくりと、しかしだからといって立ち止まることなく、興味深そうに商品の護符を眺めて歩く。
「どうですか? ひとつ、どれかいかがですか?」
「……そうですね。お土産にはいいかもなあ」
店の構造はL字型。体感、外から見たサイズよりもちょっと大きく感じる。適当に言葉で紡ぎながら、ウィズは店内をゆっくりと一周した。背中にはフィリアの感知球の接触を感じながら。
すべて見て回った。店の構造はカウンターの後ろに裏の部屋があるだけで、他に見えないところはなかった。つまるところ、完全にシンプルな構造となっている。飲食店の方が見えないところが多いぐらいに、だ。
(護符の店っていうし……必要になる部屋とかも商品とか備品のスペースぐらいなのかな……)
最初の入口付近まで戻ってきたところで、ラシェルは声をかけてきた。
「いかがですか?」
「……そうですねぇ」
これでいいのか。ウィズは店の外にいるであろうフィリアに、頭の中で届くはずもないことをぼやいたのだった。
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