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135 おてがみ

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 ウィズはオクボの容器を片手に、付属のワリバシでオクボをつついていた。このワリバシという二本の棒切れで食べるらしいのだが、何故わざわざそんな食べ方をするのか理解に苦しむ。普通にスプーンですくったり、フォークで突き刺すのではダメだったのだろうか。どうして二本の棒を一つの手で包み込んで、あえてつまんで食べる必要があるのか。

 そして何気にそれが難しい。つまんで口に入れるだけ。それだけなハズなのにとてもやりにくい。

「……む」

 それでもオクボ自体は美味しかった。ついぞ、つまむのは諦めて棒をオクボに突き刺して食べるのが良いと気づいたので、それにならってオクボを口に運んだ。しかしながら突き刺すのはそれで食べ方が汚い気がする。

 フィリアも隣にいることだし、結局のところは頑張ってつまんで食べることにした。

「……?」

 そしてウィズは気づく。オクボの容器。二段目がある。それに気づいたので、一段目の容器にフタをして二段目を入れ替えた。フタを開ける。

「わあ……」

 中には確かにオクボが入っていた。しかし二段目にあったオクボには一段目のソースとは違うソースがかかっていた。いや、ソースにしては粘りがない。ドレッシングに近いものだろう。それにドレッシングだけでなく、何かを下ろしたものもかけられていた。

「ふむふむ……」

 ウィズはオクボをつつく。一段目のソースよりも水分を吸っており、しおれているようにみえる。さらには温度も若干ながら低い気がした。

 しかしそれが欠点と断定するには早すぎる。違うタイプのオクボ。そういうことなのだろう。

 ウィズは新たなオクボをワリバシで挟み、口に運んだ。表面はぬるいし、ドレッシングを吸った皮は若干その酸味を感じる。だが中身は熱々のままで、油断していたウィズの舌をヤケドさせた。

「ぁっぅ……!」

 むせる。でもおいしい。これはこれでさっぱりしており、かなり食べやすい。ウィズは満足いっぱいに胸をなでおろすかのように、息を吐いた。

「ウィズ」

「……?」

 良い気分なウィズに話しかけてきたのは片手にぬいぐるみを抱いたフィリアであった。彼女の方に視線を向けると、どこか教えたがりの表情をしていた。

「ふん、とても食べにくそうだねぇ。教えてあげよう」

「はぁ……」

 待ってました、と言わんばかりに自己主張を始めてきたフィリア。ウィズはジトりと彼女を見据えて、やる気満々な様子に逃げられないと悟った。ぐいっと近づいてくる彼女になすがままの姿勢を見せる。その手にはどこから取り出したのか、ワリバシが握られていた。

「このオクボはねぇ、こうやって崩しながら……」

「お……」

「オロシ削りを中身に染み込ませるといいのよ。本当はかけながらやるのがいいんだけどね」

「へぇー」

 とても得意げ。そう、機嫌も良くてどこか誇らしげなフィリアはウィズが持った容器にあるオクボにワリバシを入れ、実際にやってみせる。そのままワリバシで取ると、仮面を少しずらして食べた。

「……」

 ウィズはそれをしばし見つめたのち、同じことを自分でしてみる。中身の温度も緩やかに下降し、食べやすい温かさとなって口の中に広がった。

(……こいつ)

 ウィズはオクボに魅了されつつも、フィリアの行動や言動には随時観察してきたつもりであった。

 さっきの言葉。フィリアはウィズの体の様子について、そこそこ検討はついているのだろう。問題は"誰"と交戦したのかということのはず。エリーゼとかいう女がいなくなれば、すぐに聞いてくるはずだ。

(どうしたもんかなぁ)

 有体に報告はできない。治療を受けるなど、あってはならない。さすれば簡単にバレてしまうのだから。

 治療という話になったら話を反らさなければ。フィリアの追及がどれほどしつこくなるかは分からないが、少なくとも治療費が落ちる方法だけは避ける必要があるはずだ。

(大丈夫……なはずだが)

 もっとも、フィリアとウィズはいうて他人だ。深く踏み込んでくることはしない。

 けれども――ウィズはなんとなく感じ取っていた――フィリアには特別な直観があるように見えてならなかった。

(注意するに越したことはないな……。あぁ、いつも通りだ)

 味方としては心配なぐらい頼ることができる。しかしそれは同時に、敵となれば匙を投げたくなるほどに厄介な存在に変わるということだ。

「……あら?」

 オクボを食べ終わったフィリアはふと何かに気づいたようで、声を漏らす。彼女はぬいぐるみの首輪に手をかざした。そこには紙が挟まっていたらしく、フィリアはそれを手に取った。

「……『灰狼の祖牙グラオ・アンファング』?」

「……ん」

 その紙を見たフィリアは少し目を見開いてそうぼやく。名前に心当たりがあるウィズはピクリと肩を動かした。

 『灰狼の祖牙グラオ・アンファング』とは、確かドミニクが名乗っていた商会の名前だった。フィリアが手に取った紙にそれを示す名前か、紋章があったということであれば、ウィズに対する伝言を残していったのであろう。

 面倒くさいことになった。ウィズはそう思いながら、フィリアに手を伸ばす。

「僕宛、ですかね?」

「……ええ、そうね」

 怪訝そうな視線でこちらを見てくるフィリアに、ウィズは苦笑いをしたのだった。
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